第5話 美少女とショッピング
ショッピングモール
CDショップや本ややゲーセンとかなら良く行くが、スポーツショップに行くのは初めてだった。
学校からの帰りに、大型のショッピングモールの一画にあるその店へと入った俺は、慣れない店内をウロウロしていた。
「どこ探してるのよ、こっちよ。ほら、あった。これとこれ、あ、これは試着した方が良さそうね」
「詳しいなお前」
「当たり前でしょ。何年組織にいると思ってるのよ」
いや知らねぇよ、そんな事。
だが、彼女の知識が参考になるのは事実だ。
勝手知ったるという風に歩き周る理沙に聞けば、用意された物を選ぶより、自分で備品を合わせた方が早いからという事だった。
自分の体になじむ物を選ぶのが、訓練をこなすのには一番重要なのだという。
そうやって伸びしろが少ない俺に気でも使っているのかと思うのだが、ただ自慢したいだけのような気もする。
分かりやすそうで、意外に分かりにくい理沙の反応に理解に苦しむところだ。
「慣れてんだな、そう言うの選ぶの」
「組織に入って来る新人のお世話とか良く任されるのよ」
「へー、エージェントってそういう面倒も見たりすんの? 色々あるんだな」
「あたしは別なのよ。他の人間は、任務任務で、そんな事しないから」
「?」
会話するなかで、一瞬理沙が表情を曇らせるが、詳しく追及する間も彼女は次のコーナーへと向っていってしまう。
……その前に、近くにあるコーナーに運動靴があるのを見て、一言だ。
「ついでだから、あんた学校の方も買っていっちゃいなさいよ」
「はぁ?」
お前はお世話好きの近所のおばちゃんか。
俺の近所にもいる。
いつもお夕飯のお裾分けありがとうだけどな。たまに彼女いないのって言われると、ちょっとそれは御免ってなる感じの。
「靴のサイズあってないわよ。紐の結び方も間違えてるし、よくあれで怪我しなかったわね」
「いや、俺お金ないんだって」
「だったら、経費をごまかして……」
「それ、やっちゃ駄目な奴だろ!」
「冗談よ。何よムキになって、アタシがそんな事するわけないでしょ。だったら、靴の紐だけでも変えなさい。切れそうだもの」
「お前なぁ……」
理沙はなんというか本当に口の減らない人間だった。
人にケンカを売ってないと生きていけない人間なのだろうかと思うくらいに。
親切焼いてても、ケンカ腰を崩さないのは一周回って尊敬するくらいだ。
一通り店を巡っていった後は、フードコートで百円のジュースを買って休憩。
もう少ししたら夕食の時間帯になって込んでくるだろうが、今の内はまだ空いていた。
「なあ、この後って」
恐る恐る尋ねる俺の脳裏にはある懸念があった。
特例みたいな買い物の時間だが、これが終わってしまってもそう簡単にはいさよなら、といかない気がする。
「当然特訓に決まってるでしょ。これで終わりとか思わないで。根性甘ったれてるわよ」
「やっぱしか……」
「それとも、もう辞めたくなったわけ? アンタの決意はその程度?」
「んなわけあるか」
「そうよね。だったら伸びがなかろうが、他のエージェントに笑われようが頑張んなさいよ」
ん、これってもしかして励まされてる?
視線を向ければ、理沙のものとは合わない。
視線をどこかへとやったままだった。
ちょい御嬢さん。人とお話する時は目と目をみてしましょうって、ママに教わらなかったか?
「ちょっとつまづいたくらいで、立ち止まるなんてアンタらしくないわ。あたしだって落ちこぼれだけど、なんとか今の位置にしがみついてるし」
え、うっそマジ? あの理沙が、俺を本当に、励ましてる、だと。
「……」
言葉でない。
「安心しなさい、ちゃんといつも通りの時間には帰してあげるから。家の用事があるんでしょ? むしろ、数時間でも減っただけマシだと思いなさいよ。アンタみたいな落ちこぼれ、本当なら寮に入れて一日中しごきたいところだけど」
「一日!」
そんな事になったら間違いなく死ぬ。
船頭牙は死んでしまうがな。
「でも、それはやめにしとくわ。アンタは家にいる弟の為に、家事とかしなくちゃいけないんでしょ」
「まあな」
船頭家の俺の両親が共働きの影響で、家には大人がいない。
弟が一人学校から帰ったらいつもいるのだが、父と母が一日の大部分を家を空けているので二人で分担して家事をこなさなければならないのだ。
そういうわけで「やばい死ぬ」となるのだ。毎日が。
だいたい効率悪すぎるんだよな。
疲労を回復させる時間が十分にないのがいけないと思う。
あれこれやろうとしても伸びないって言うし。
俺に多くを求めるなよ的な。
引っ張りだこで、困っちゃう。
「ああ、そうだ。俺は忙しいんだ。家にいる時の俺の圧倒的主婦力をなめるなよ。一人で三人分の働き発揮だ。おかげで炊事、掃除、洗濯! 全てプロレベルだぜ」
「ふーんアンタの才能って、主夫向けに割り振られてんのね。何か納得」
「ぐっ」
ぐさっとくる言葉言うのやめろ。
それ、今の俺には結構傷つくから、ほんと傷つくから。
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