第3話 普通の男です
起きてから数分経った。
とりあえず病院ではない事は分かった。
看護師さんとかこないもん。
で、その後は美女達に質問……「住所、氏名、電話番号、フルネーム」の確認をされた後、部屋を連れ出された。
短いやりとりだったが、美女二人の名前が判明したのは大きい。
ツインテール美女は、
短髪美女は、
変わった名前だった。
まあ、キラキラネームのはびこる今だし、そう思えばそんなに変わってないのかもしれないけど。
俺?
俺は、
知ってるだろ!?
そうだよ!
キラキラネームだよ!
ちくしょう! 言いたくなかったのに。
俺の容姿は平凡。ただの一般人。
体格ふつう、身長ふつう。目立つ特徴一切なし。
特別な何かなんてないし、特別精神が強かったりするわけでもない。
名前負けしている……ザ、ふつう人間。
それが俺だ。
そんな普通が嫌で特別な人間になれないかと
なんか今だけ、普通とは程遠い経験してるけど。ただのバグだ。
通りすがりの一般人として、ごめんなさいねーなんかちょっと間違えちゃったのすぐ責任もって帰してあげるからねー、そんな感じで日常に戻っていくのだ。
日常に戻った自分を考えて思う。
嫌だなぁ。
なんか嫌だ。
だってほら目の前に美女だろ?
おまけによく分かんないところに飛ばされてるし。
やるっきゃないだろ冒険、するっきゃないだろ青春。
こんなところで、逃してたまるかってんだ。
脱・普通!
……。
何て。
そんなことを考えてた。思いっきり。
後から思えばなんてアホな事考えてたんだと思わざるをえない。
ようするに俺はバカだったなあ。
特別な人間になるって事は危険と隣り合わせの日常を送るって事。
これから嫌というほど普通とさよならしなきゃいけないことになるのに。
俺はまだ、この時はよく分かっていなかった。
物思いにふけっていた俺は、通りすぎようとしていた廊下を見つめる。
いや、別に壁が好きとか、壁と見つめ合うマニアックな趣味があるわけじゃなく。
自分がいる場所の事をもちょっと詳しく把握しておきたーなぁ、と。
「3階建てか、英語で書かれとる。読めん」
俺が見つめたのは、建物案内のプレート。
どこぞこのフロアになになにがありますよって示すあれだよ。
でも、英語表記だったから、読めなかった。
俺、勉強の成績悪いんでね。
なんか壁が分厚かったり、異様に広い空間があったり、文字が書かれてない部屋があるんだよな。
なんとなく、普通の場所じゃないってのは、これからでも十分に分かった。
警戒心なく適当にここまで歩いてきた廊下を振り返る。
ちょっとだけ真剣になって見つめてみるけど、やっぱり普通の建物にしか見えないんだけどな……。
隅には観葉植物が置かれているし、なんかそれっぽいアートな絵画とかも壁に飾られてるし。
なんて考えてたら、向かいから歩いてきた白衣を着た男性たちが、
「ここを放棄する準備どうなってるんだ?」
「分からない。急な事だったからな。大事なデータだけは、何とか持ち出さないと」
とか言ってる。
うん、ちょっと不安値プラス100追加で。
そんなこんなしてるうちに、美女と引き離されそうになったので、慌てて小走りして追いつく。
あのー、たぶん俺……本来ここにいるべき人間じゃない、ゲストだよ?
もうちょっと背後気遣ってくれません?
小走り小僧になって2人に美少女に追いついた俺は、どこかの部屋にたどり着いたようだ。
理沙が声を掛けてくる。
「ここよ、見なさい」
まったく説明する気のない言葉と共に、理沙が扉を開けて室内を見せる。
その広くて無機質な部屋の中にあった現実を見せつけられて、俺は……。
「俺、見た」
現実逃避。
そっと美女の開けた扉を閉める。
部屋の中を見た感想を水菜が聞いてくる。
「どう?」
今見たものへの疑問はある。
あれ、何とか。何であれを俺に見せんの、とか。
でも、まずそれより知りたい事があった。
「ひとまず聞いていい? ここ異世界?」
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