第12話 白頭巾沢

 森吉山の雪渓の傍らに薄紅のチングルマの咲く初夏が訪れた。


N「秋田県中央にそびえる標高1454mの県立自然公園 『森吉山』 は、アスピーデ・トロイデの複式火山で、標高1,000m以上の外輪山数座に囲まれている。山腹はブナの原生林が繁る豊かな水源を生み、標高1,000mから山頂にかけてアオモリトドマツの原生林が広がり、『花の百名山』として、雪田には初夏から秋にかけて約三百種類の高山植物が咲き誇る。山頂からは田沢湖・白神山地・日本海などの眺望が楽しめる。奥羽の山はリピーターの多い山である。このところ、その森吉山でも行方不明者が相次いだ」


 森吉山の麓、湯ノ岱山荘の夜、観光客の根岸が郷土料理のコース和膳に舌鼓を打っていた。旅館の若女将はせっせと料理を運んで来た。

若女将「旅はどうだしたか?」

根 岸「はい、一週間の休暇が良い想い出満載で無事に過ごせそうです」

若女将「それはえがったしな」

根 岸「このキンピラ…ごぼうじゃないですよね…おいしい…なんですか、これ!」

若女将「ウドの皮だしな」

根 岸「ウドの皮! ウドってあのシャキシャキしたウドですか?」

若女将「んだし」

根 岸「ウドの皮って、捨てないんですか?」

若女将「自然に生えてる山ウドだがら、身より皮っこのほうが味っこも香りっこもええしべ」

根 岸「はい!」

 山ウド料理をおいしそうに食べる根岸をじーっと見ながら、玄五郎(若女将の祖父)は金鎚で胡桃を割っていた。

若女将「残りのお休みは、どちらに回られるんですか?」

根 岸「森吉山に登ろうかと…」

 玄五郎は気難しい表情をして根岸を睨んだ。

玄五郎「おめえだば、森吉山に登るのはやめだほうがええ」

若女将「おじいちゃん、お客さんに失礼ですよ!」

玄五郎「ウド喰っちまったがらな」

若女将「またその話? やめてよ」

根 岸「なんですか?」

若女将「下らない迷信なんですよ。お客さんに話して怖がらせるだけなのに」。

根 岸「へえー面白そうだな! どんなお話なんですか?」

若女将「お客さん、聞かないほうがいいですから」

玄五郎「あんだ、森吉山に登るのが?」

根 岸「ええ!」

玄五郎「どうしても登るのが?」

若女将「おじいちゃん!」

根 岸「いえいえ、聞かせて下さい」

玄五郎「ウド喰っちまったがらなー…」

根 岸「ウドを食べると何か問題でもあるんでしょうか?」

玄五郎「森吉山に登る者は、七日間ウドを喰ってはならねごどになってる」

根 岸「どうしてですか?」

玄五郎「喰ったら森吉の悪鬼の祟りに遭ってしまうがらだ」

若女将「迷信でしょ、おじいちゃん!」

玄五郎「ンにゃ迷信でねえ! だがら森吉山に登るのはやめろ」

根 岸「食べちゃったー…でも面白そうだから登って確かめたいな」

玄五郎「やめとげ…安の滝にしておげ」

根 岸「安の滝?」

若女将「南に打当うっとうという地域があるんですよ。今は奥阿仁と呼ばれていますけどね。そこから入ったところに中の又渓谷があって大きな滝があるんです」

根 岸「内陸線の最寄はどこですか?」

若女将「『阿仁マタギ駅』です」

玄五郎「バカな駅名にしたもんだ。住所どおりに『打当駅』にひばえがたんだ」

若女将「この地がマタギだから、観光受けする名前にしたんでしょうよ」

根 岸「マタギって猟の人たちのことですよね」

若女将「ええ、そうです。今はマタギの人たちも少なくなりましたけどね。その『阿仁マタギ駅』から車で40分くらいのところに落差90mの二段構造の綺麗な滝があるんですよ」

根 岸「そうなんですか! 迷っちゃうな~…でも森吉山に登りたいと思って来たから…」

若女将「うちのおじいちゃんが変なことを言うもんだから…ごめんなさいね」

根 岸「いやいや、これもまた旅の醍醐味ですから。明日の朝までに考えて決めます!」

若女将「お出かけ早いでしょうから、お詫びのしるしに、5時ごろまでにおにぎり用意しておきますから」

根 岸「ありがとうございます!」


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 早朝の湯ノ岱山荘のフロントに登山姿の根岸が立った。

若女将「お早いですね」

根 岸「おはようございます! やっぱり森吉山にします」

若女将「んだしか…今日は天気も良くて」

根 岸「はい!」

若女将「したら、これを…」

 若女将が約束のおにぎりを根岸に渡した。

根 岸「ありがとうございます、遠慮なく」

若女将「それから荷物っこになるべども、もし良かったらこれを…」

根 岸「これは何ですか?」

若女将「この町の鍛冶屋さんが自然保護運動の一環で作った特性のゴミ取りトングとゴミ袋です。うちの旅館の名前っこが彫ってありますんで記念にどうぞ」

根 岸「へえ~限定品ですね! 早起きは三文の徳!」

若女将「んだしな! 森吉山はこの町の守り神様なもんで『来た時よりも綺麗に!』って登山のお客さんにお願いしてるんです。ゴミっこをこごまで持ち帰ってければ、缶ビールも一本サービスになりますんで」

根 岸「じゃあ、絶対に持ち帰らないとね!」

若女将「宜しぐお願いします!」

 アイストング大の小型ゴミ取りトングとゴミ袋を受け取って根岸は宿を発った。若女将は玄関まで出て笑顔で見送った。


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N「この地には森吉山の鬼の伝説が根付いている。森吉山には、かつてとても気の荒い鬼が住んでいた。この鬼はときどき山に来る人間を襲って喰ったといわれる」


 森吉登山道の沢に横たわった丸太の橋を渡る根岸は、橋の途中でリュックから空のペットボトルを出した。橋に腹ばいになって流水を汲みながら、人の気配に振り向いた。


N「鬼は、時には村まで下りて墓を掘り起こし、死人の白衣や白頭巾などを奪い、沢で洗って木にかけておく習性があったため、白頭巾沢と呼ばれる場所があって恐れられていた」


 根岸はペットボトルをリュックにしまい、思い出したようにポケットから熊除けの鈴を出して腰に付け、再び歩き出した。


N「人が襲われ、麓の村々が困っているところへ、諸国遍歴の権現さまがやってきた。そして村の農民たちの願いを聞き、鬼に森吉から去るよう迫った」


 森吉登山道を歩く根岸の後ろに恐怖が迫っていた。


N「しかし、鬼は権現さまのいうことなど聞くわけもなかった。そこで権現さまは鬼に、どれだけ強いか示せたら好きにしていいという条件を出した」


 森吉登山道の傾斜が増し、次第に石ころが増え、根岸の息が乱れはじめた。


N「農民たちは、夜中に山の頂上に大きな石を運んで一番鶏の鳴く前に三つ重ねて段を作れたら引き下がろう…しかし、それができなかったら、森吉山から去ってもらおう…と持ちかけた。鬼がいよいよ三つめの石に手をかけようとした時…」


 根岸は突然、山道の石ころに足を取られて、草木の生い茂った斜面を転げ落ち、途中で樹木に頭を打って気を失った。転げ落ちる根岸を悪夢が襲った。


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玄五郎「森吉山に登る者は七日間ウドを喰ってはならねごどになってる」

 玄五郎の形相が変わった。

玄五郎「喰ったら森吉の悪鬼の祟りに遭ってしまうがらだ」

 玄五郎の形相が鬼になった。

玄五郎「ンにゃ迷信でねえ! んだがら森吉山に登るのはやめろ」


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 根岸は山道斜面の草むらでうつ伏せになって倒れていた。


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 根岸の発った湯ノ岱山荘のロビーに玄五郎が起きて来て座った。


玄五郎「あのお客さんはどうした?」

若女将「5時半ごろ出掛けだよ」

玄五郎「安の滝が?」

若女将「森吉山だって…」

玄五郎「何だど! 何で止めねがった! 祟りに遭ったらどうする!」

若女将「迷信だから、おじいちゃん」

 玄五郎は慌てて奥に走った。若女将はうんざり顔で山荘の表に出て水撒きを始めた。

若女将「おじいちゃん、そろそろボケできたべがな…」

 登山姿に早代わりした玄五郎が俊足で出掛けて行った。

若女将「おじいちゃん、どごさ行く!」

 玄五郎の姿はどんどん遠くなっていった。

若女将「…足腰は元気だどもな~…」

 旅館の前を陽昇と愛が早朝のサイクリングで通り掛かった。

若女将「あら陽昇さん、愛ちゃん、毎朝規則正しいね!」

愛  「おばちゃん、おはよう! 玄五郎じいちゃん、今日は朝早くからどこに?」

若女将「森吉山さ登るお客さんば追っかけで行ったのよ」

愛  「なんで?」


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 山道斜面の草むらで、根岸は激痛が走って気が付いた。右目を押さえた手から血が滴っていた。


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 玄五郎は森吉登山道の根岸の足跡を追っていた。


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 根岸は右目を押さえながら必死で山道に戻ろうと這いずった。やっと山道に戻った根岸のふらふらと歩くその先に、白いものがヒラヒラしているのを発見した。


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 根岸を追う玄五郎が立ち止まった。

玄五郎「あれは…」

 一帯の木に白い死装束が干してあった。

玄五郎「(モノローグ) この間まではなんもねがったはずだ…まさが!」

 玄五郎は急いで斜面を降りていった。そして倒れている根岸を発見した。

玄五郎「お客さん! お客さん!」

 根岸は右目を負傷して絶命していた。

玄五郎「右目にウドの刺さった跡…手遅れだったが!」

 玄五郎は携帯電話を出し、救助隊を呼ぼうとした。

玄五郎「圏外て…立派なものは肝心な時には役に立だねもんだな」

 根岸がぴくぴく動き始めた。

玄五郎「大変だ…憑りついでしまったが!」

 玄五郎は急いで根岸から離れて草むらに潜んだ。そのまま息を殺して根岸の様子を窺った。

玄五郎「(モノローグ) 悪鬼の祟りが乗ったな…」


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 根岸はウドの刺さった右目の激痛に耐えながら立ち上がった。白い死装束が干してある一帯を見回し、玄五郎の潜む辺りに根岸の視線が止まった。その草むらから突然、根岸の頭をかすめてクマゲラが飛び発った。クマゲラを追った根岸の視線の先に、森吉の大権現が立っていた。

大権現「私はこの森吉の山神である」

根 岸「森吉の山神?」


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 玄五郎は草むらで息を殺してその様子を見ていた。

玄五郎「(モノローグ) あれだば大権現さまではね。片目の悪鬼の化げ物だ…」


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悪 鬼「さぞ苦しかろう、すぐにその苦痛から解放とう」

根 岸「は、早く助けて下さい!」

悪 鬼「ひとつ約束がある」

根 岸「な、なんでしょう?」

悪 鬼「あなたが復活の力を得るには、この山で次に会う最初の人間を殺さねばなりません」

根 岸「えっ…そ、そんな!」

悪 鬼「そうしなければ、あなたはここで死に、誰にも発見されぬまま熊の餌になるしかありません」

根 岸「・・・!」


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 根岸にフラッシュバックが起こった。

老 人「悪に付くも、善に付くもおまえの自由だが、勝つ側に付かなければ、おまえは二度とこの地から出る事はできない。…さて、おまえはどっちさ付ぐかな?」


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根 岸「…悪? 善? なんだ今のは?」

悪 鬼「さあ、どうする!」

根 岸「あ…え…」


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 陽昇と愛は森吉登山道の玄五郎の跡を追っていた。


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悪 鬼「熊の餌になりたいようですね…」

 去ろうとする大権現に変化した悪鬼に、根岸は思わず声を掛けた。

根 岸「待って下さい! やります! 助けて下さい!」

悪 鬼「では復活の力を授けましょう」

 悪鬼は根岸に手を翳した。強力な波動が根岸包み吹っ飛んだ。


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 玄五郎の跡を追う二人が立ち止まった。

愛  「・・・!」

陽 昇「急ごう!」


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 根岸は、草むらで息を殺して様子を窺っている玄五郎のすぐ目の前に叩き付けられて絶命した。

玄五郎「・・・! (モノローグ)この男、二度も殺さえでしまった」

 ところが、絶命したはずの根岸がまた動き出し、ゆっくりと玄五郎に向かって這ってきた。

玄五郎「・・・! (モノローグ)二度生き返った~…」


悪 鬼「そいつを殺しなさい」

 そう言われた根岸が、玄五郎に向かって速度を上げて這って来た。玄五郎は必死に距離を保って後ずさった。

玄五郎「あんだは死んだんだ。成仏しろ!」

根 岸「私は全然死んでいません! このとおり元気です! あなたを殺すほど元気です!」

玄五郎「なんもなんも、あんだは死んだんだ。悪鬼の祟りで死んだんだ。その目ば、ウドで突いで、脳みそっこまで刺さったんだべ」

根 岸「いいえ死んでません! 私は山神さまから力を授かりました。死ぬのは爺さん、あなたですよ!」

 根岸は玄五郎に襲い掛かって来た。攻撃を避けた玄五郎は、斜面を転がり落ちていった。一瞬、飛んできたロープが玄五郎の腕に巻き付き、斜面に止まった。

 陽昇がロープを手繰り寄せて玄五郎を救出した。愛は森吉大権現に変化した悪鬼と対峙していた。

愛  「大権現さまはいつから片目になられたのかしら?」

陽 昇「悪鬼よ、もうこの町の住民はおまえに惑わされることはない。もうどんな甘い罠にも膝間づくことはないぞ」

悪 鬼「住民の欲と依存心は永遠だよ、若造!」

 愛が森吉大権現の姿に変化した。

悪 鬼「・・・!」

愛  「観念して私と向き合いなさい!」

悪 鬼「おまえには私を封じ込めることはできない。この森吉はもう私そのものなのだ」

 根岸がよたよたと斜面を登って来た。

悪 鬼「おまえに力を授ける。こういつらを倒せ!」

 悪鬼は根岸に魔の霊力の波動を向けた。その波動を陽昇は特殊ナガサ『タキオン・ギア』で阻止した。森吉大権現が悪鬼と根岸に聖水を浴びせた。根岸は白煙を上げて倒れ、動かなくなた。

悪 鬼「私には何の効果もなかったようだな」

愛  「そうは見えないけど?」

悪 鬼「…うっ…これは!」

 片目の森吉大権現は白煙を上げて悪鬼の正体を現した。四色のゾクギ団と黒い戦闘団が到着した。真っ先に森吉大権現に襲い掛かったのはゾクギ団・黄だった。狂気の爪が交錯し、ゾクギ団・黄の首が飛んだ。ドケーン将軍が現れた。

ゾクギ・青「将軍! どういうつもりだ!」

将 軍「どちらが森吉の支配者か見定めようではないか。ここは我々が邪魔をするところではない。われらがリーダーの力を見せてもらおう…この戦いに邪魔はさせない」

ゾクギ・青「きさま!」

悪 鬼「待て! …いい考えだ…だが、風張庵での約束が先だったな。おまえから先に闘ってもらおうか? 息子の命と引き換えに、おまえに自由を与えてやるという約束を、今ここで果たさしてもらえるかな?」

将 軍「いいだろう。オレが先に闘う」

陽 昇「どこまでも汚ねえやつだな、おまえらのリーダーは!」

将 軍「(陽昇に) おまえと決着を付ける。誰も邪魔をするな」

 ドケーン将軍が陽昇と対峙した。森吉大権現は玄五郎を庇って控えた。ドケーン将軍の狂気の爪が飛んだ。交わす陽昇の目が光った。 双方、一歩も譲らないまま戦闘が繰り広げられた。陽昇の脳裏に幼い頃の鬼ノ子山御堂が蘇った。


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アキラ「この手に抱き上げた時からおめだばオレの子だ。日の出だった。だから陽昇と名付けたんだ」

陽 昇「ボクは悪魔を倒す! 例えその相手が本当の父でもボクは許さない! 悪魔を倒す!」


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 陽昇は次第にドケーン将軍に追い詰められていった。

ゾクギ・青「ちっ、生ぬるいぞ、早くしろ!」

 ゾクギ団・青が陽昇に攻撃を加えた。ドケーン将軍は狂気の爪を飛ばしてゾクギ団・青を抹殺した。

陽 昇「・・・!」

ゾクギ・P「将軍、気でも狂ったのか!」

将 軍「邪魔をするなと言ってる…」

ゾクギ・緑「従えるか!」

 ゾクギ団・緑が陽昇に攻撃を加えて来た。陽昇の応戦より早く、ドケーン将軍の狂気の爪が飛び、ゾクギ団・緑までも息絶えた。ゾクギ団・ピンクがドケーン将軍に攻撃を仕掛けた。その攻撃を森吉大権現が阻止すると、今度は森吉大権現に攻撃の的を向けた。即座にドケーン将軍の狂気の爪が飛んでゾクギ団・ピンクは息絶えた。

陽 昇「(モノローグ)どういうことなんだ!」

 ドケーン将軍はいきなり陽昇に攻撃を仕掛けてきた。狂気の爪を寸でのところでかわす陽昇の頬に鋭い鮮血が走った。間髪いれずにドケーン将軍の攻撃が襲ってきて、再び陽昇は追い詰められた。陽昇の目が赤く光った。

陽 昇「森吉の霊力よ、安の御滝に宿りて我が身清め給え…南無アブラウンケンソワカ、オンケンピラヤソワカ!」

 陽昇が変化し、ヒタチナイトとなった。形勢が逆転、ドケーン将軍を追い詰め、トドメを刺そうとしたその時…一瞬早く森吉大権現が制止し、ヒタチナイトの前に立ち塞がった。

陽 昇「・・・!」

悪 鬼「この役立たずめ!」

 悪鬼がドケーン将軍に魔力を掛けるが利かない。

大権現「おや、魔力が効かないようね」

 ドケーン将軍がその場を去った。

悪 鬼「追え!」

 黒い戦闘団がドケーン将軍を追った。陽昇も追おうとしたが森吉大権現に制止されて留まった。

大権現「見えたでしょ…将軍の狙いが…」

陽 昇「・・・?」

 悪鬼の攻撃が陽昇に襲い掛かってきた。森吉大権現が陽昇を弾いて攻撃を交わし、悪鬼と対峙した。4色のゾクギ団が包囲した。

悪 鬼「ドケーン将軍には困ったものだ。あとでじっくり始末せねば…さて私を封印する前に、あなたにはやらなければならない仕事ができたのではないのか? 今頃、内陸線本社が大変なことになってたりしてな。ははははははは…」

陽 昇「・・・!」

 悪鬼以下、ゾクギ団が去っていった。陽昇が追おうとするが、またしても大権現は制した。

大権現「待ちなさい、陽昇! 六郎を呼んでその旅人を組成させるのです! 町の誇りに掛けて、旅人に万が一のことがあってはなりません。それは町の安全よりも優先します」


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N「昔々、森吉権現さまは、本地を現し、強力な霊力で鬼を追っ払った。慌て逃げる鬼は山ウドで滑って転び、ウドのカラで目を突いて片目になった。そのため森吉山に登るものが七日間ウドを食べてはならないとされる」


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 阿仁地区の空に町内放送からのサイレンが響いた。その音に掻き消されがちな半鐘が響き、爆煙立ち上がる空に、勝ち誇った悪鬼の顔が浮かんだ。


 内陸線本社一帯が破壊された。阿仁合駅前に停車しているパトカーと救急車の回転灯が、殺到している近隣の住民たちの緊張を照らしていた。野次馬の関根たちがその集団に加わってきた。

関 根「とうとうやられだな」

島 田「復旧するまでどれぐらい掛かるべな」

関 根「ええ機会でねが?」

小 塚「何が?」

関 根「このまま復旧さねでければええな。内陸線だっきゃなぐなってもええべ」

小 塚「したたて、バッチャがだは病院さ行ぐの困るべ」

島 田「通勤とが通学もな」

関 根「なんも困らね。どごもかも駅がら遠ぎふて、車のほうがよっぽど便利だ」

小 塚「バッチャがだは運転でぎねべ」

関 根「バスで充分だ。バスだば病院の前まで行ぐし」

三 沢「赤字もな」

関 根「んだ、毎年大赤字だ。全部おれだぢの税金だもの」

 現場から運び出された担架の怪我人が、車両搭載用ストレッチャーに移されて救急車内に入れられた。

三 沢「救急車にだばひとりしか乗れねべ」

島 田「中で人工呼吸してるみでだども助かるべが…」

 救急車の後部ドアが閉まった。

島 田「息が止まってるんて救急車さ運んだんだな」

三 沢「他の怪我人はどうするんだべ」

島 田「取りあえずこの上の病院跡さ運ぶしかねてねが?」

小 塚「大きた病院出来れば、ちっちぇ病院ば閉めるがら肝心な時に困るんだべ」

関 根「内陸線に乗ってけれ、乗ってけれって言われでも、このジャマだばおっかねふて乗れねな」

島 田「それでねくても用もねえのに乗れねべ、ただで乗ひでけるわげでもねんだがら」

小 塚「若い衆は都会さ出でぐし、残るのは年寄りばりで、年々乗る人減ってえぐべな」

関 根「どうひそのうぢ誰も乗らねぐなるえったでば」

 駅員の肩を頼ったり、車椅子に乗った怪我人が閉鎖病院方向に向かった。


島 田「やっぱり閉まってる病院使うんだな」

三 沢「地元の人はおっかねふてしばらぐ乗らねな」

島 田「観光客にでも来てもらわねば乗る人えねべ」

小 塚「んめもの一杯あるし、自然だば観るどごも一杯あるどもな」

関 根「観るどごあったたって泊まるどごも交通機関もねば観光客だっきゃ不便で来ねべ」

島 田「内陸線の本数も少ねがら下手したら野宿だ」

小 塚「都会みでぐ襲う人はえねども、熊出るがらな。野宿したら熊に襲われるべ」

三 沢「おがしいな…」

島 田「何が?」

三 沢「こんたに燻って怪我人が汚れでるんども、駅員の服装だばみんなパリッとしてる…」

島 田「駅員だぢ何してだんだべ?」


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 アニアイザー地下基地。本部の森川が白衣に着替えていた。

森 川「ふいを突かれだな…」

山 下「上空からの攻撃でねためにバリアが作動さねがったな…改良の余地があるな…」

森 川「内部の凶行どは思いたぐねんども…とにかぐ診察室に…」

 森川はアニアイザー基地エレベーターで地上の閉鎖後の診療所の診察室に向かった。


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 人通りが途切れた診療所への道で、怪我人を放り出して逃走しようとする駅員の村田と木沢の前に、丈雄が立ちはだかった。丈雄の後方から黒いワゴン車が猛スピードで迫って来た。丈雄は黒いワゴン車をかわした。急ブレーキを掛けて徐行した車に、木沢と村田が乗り込もうとした。丈雄の五寸釘が村田を捉えた。黒いワゴン車は道路に転げ落ちた村田を置き去りにして逃走した。丈雄は村田を取り押さえた。

丈 雄「いろいろ説明してもらおうか…」

村 田「・・・」

丈 雄「じゃ、こいつに答えてもらおうか? 殺生はしたぐねども、人でなしだば仕方ねべ」

 丈雄は村田の喉もとに五寸釘を当てた。

村 田「・・・!」

 駅員の村田がゾクギ団・青の正体を現した。


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 黒いワゴン車が国道105号線を暴走する。その後方を京子の車が尾行していた。


炎上している打当温泉旅館に黒いワゴン車が猛スピードで進入して急ブレーキを掛けた。車に駆け寄って乗ろうとした支配人が、京子の霊術『ゲキリン波』で転倒し、ゾクギ団・黄の正体を現した。黒いワゴン車はゾクギ団・黄を放って急発進した。京子は丈雄に連絡を取った。

京 子   そっちはどう?


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 ホンモノの駅員の村田と木沢が阿仁合駅倉庫に閉じ込められて身動き取れなくなっていた。

丈 雄「してやられた」


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 阿仁病院跡のベッドの上に根岸の遺体が運ばれていた。六郎は根岸の右目に手をかざした。愛、陽昇、そして森川医師が見守っていた。六郎の手の輝きが強くなり、根岸の傷が消え、蘇生して息を吹き返した。

森 川「良かった!」


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 森吉の奥深くにゾクギ団の旗がたなびいていた。基地の訓練場で、ドケーン将軍は悪鬼以下戦闘団に囲まれていた。

ゾクギ・青「これよりドケーン将軍に天誅を下す。裏切り者はこうなる。われらの支配者が誰なのか、よく見ておけ!」

悪 鬼「将軍…おまえの支配者は誰だ?」

将 軍「オレの支配者は…きさまじゃない」

悪 鬼「なんだと!」

将 軍「オレは “富” に目がくらんで、“富” に支配されていたんだ。きさまなんかに支配されていたんじゃない」

悪 鬼「ならば…どうなるか覚悟は出来ているな」

将 軍「きさまの封印を解いた人間が、オレだったことを後悔させてやる」

悪 鬼「おまえにはがっかりさせられることばかりだ。極上の苦痛を味あわせてやる。覚悟しろ!」

将 軍「覚悟はできている…苦痛は今のオレのせめてもの救いだ…」

 悪鬼の手が将軍にかざされた。苦痛に身悶えする将軍の右目から血しぶき噴出した。

悪 鬼「苦しめ…」

 将軍は痙攣を起こして地面に仰向けに崩れた。口から血を吐き痙攣が止まり動かなくなった。


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 桜庭泰治郎の回想(第2話より)


 森吉山中。

金 治「おめら何企んでるえた!」

泰治郎「若え者みんな居ねぐなった、こんちくたらボロ村ば、いづまで守る気だ。おめの倅もこの村ば捨てで都会さ逃げでえったべしゃ」

金 治「なんも働ぐどごねんだもの、仕方ねべ。村捨てだわげでね。親ば少しでも楽さひでために働ぎにえったえた」

泰治郎「村ばりでね。おめえも捨てられだんだ」

金 治「何この桜庭! おめに何が分かる! 自分で何やってるが分がってるえたが! おめのやってる事は、村をぶっ壊してる事だど!」

シカリ「欲に目がくらんだな、泰治郎…おめの目には、この村がボロ村にしか見えねが? 山ば壊したら元には戻らねど。子供にも孫にも恨まれるど。そえでもええったが、泰治郎!」

泰治郎「やれッ! ひとりも逃がすな!」4

シカリ「んだが…したら殺ひ! 森吉の神様の天罰下るど!」


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 元の訓練場に将軍が転がされていた。ゾクギ団・青に激しく蹴られているがピクリともしなかった。


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 桜庭泰治郎の回想(第2話より)


 森吉山中。

謙 蔵「アンチャ、おめえ魂まで売ったな…」

泰治郎「謙蔵…何馬鹿くしゃえ事して…殺さえねうぢにどげれ!」

謙 蔵「断る!」

泰治郎「オレの言う事聞け!」

謙 蔵「アンチャ! 目覚ましてけれ!」

 発砲音がして謙蔵の肩が射抜かれた。その反動で引き金に指が掛かった謙蔵の銃からも弾が発砲され、桜庭の肩を貫通した。

謙 蔵「アンチャ!」

泰治郎「謙蔵…」


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 訓練場から運ばれている将軍の目は、この世のものではなくなっていた。


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 桜庭泰治郎の回想(第2話より)


 森吉山中。泰治郎はゆっくりと味方の特殊部隊に振り向いた。

泰治郎「誰だ…謙蔵ば撃ったやづは誰だ?」

 特殊部隊は皆無言だった。

泰治郎「謙蔵ば撃ったやづは誰だ!」

声  「オレだ…」

 森吉の悪鬼が現れた。

泰治郎「何だってオレの弟まで…オレの弟までなんで撃づ!」

悪 鬼「おまえが撃たないからだ」

泰治郎「なんだと!」

悪 鬼「おまえも死にたいか?」

 悪鬼が泰治郎に手をかざすと、泰治郎の右目が見る見る腐り出した。泰治郎は悲鳴を上げて悶絶した。

悪 鬼「おまえなど、いつでも抹殺できる。何不自由のない生活がしたければ、おまえがする事はひとつしかない。もう一度だけチャンスをやる。その男を撃て!」

泰治郎「お、弟を…」


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 将軍は基地の一角の暗闇に投げ捨てらた。


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 桜庭泰治郎の回想(第2話より)


 森吉山中。

謙 蔵「アンチャ…撃ってもええよ…アンチャには、えっちも助けでもらって来たんて撃だれだたて恨まね!」

泰治郎「ケン…」

謙 蔵「さ、早ぐ撃で!」

 泰治郎が銃を構えた。

泰治郎「謙蔵…」

 一発の銃声が山中に響いた。


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 基地の一角の暗闇に投げ捨てられた将軍の顔面に、僅かな痙攣が走った。


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 守銭奴に狂った桜庭は知らない。赤子を抱いた瀕死の妻が、あの鬼ノ子山の御堂で息絶えたわけを知らない。


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 かつて、八重は命を賭けて鬼ノ子山の御堂に辿り着いた。

アキラ「誰だ!」

八 重「この土地が大変な事になります。自然破壊を許してはなりません。森吉山に悪魔が支配する恐ろしい基地が建設されています。夫は魂を売ってしまいました」

アキラ「夫?」

八 重「私は桜庭建設を経営する桜庭泰治郎の妻です」

アキラ「そうでしたか…」

八 重「このままではこの子の未来も…」

 八重の視線が定まらなくなった。

アキラ「あの基地を見でしまった事で、私の仲間も全員殺されました。私も命を狙われ家族とも離れ離れです」

八 重「…許して下さい…ごめんなさい…」

アキラ「あんだのせいでだばねえがら…」

八 重「どうか、この子を…」

 八重の最期の言葉は声にならなかった。八重はそのままアキラの腕で息絶えた。固く握られた八重の手が開き、御守りが現われた。


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 月の光が、基地の一角に捨てられた将軍の顔を照らした。つぶれて爛れた右目からは血が、左目からは澄んだ涙が流れていた。

将 軍「(モノローグ) オレが本当に欲しかったのは…でももう遅い…遅すぎた…」

 将軍は息を吹き返して咳き込んだ。正気を取り戻し、己が使い捨ての屍の山に棄てられたことが分かった。


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 森吉連山の天井に月が皓皓と輝いていた。陽昇は湯ノ岱山荘でその月を眺めていた。

若女将「さあ、陽昇さんも食べて!」

 愛、森川、山下、そして根岸たちが、先にだまっこ鍋を囲んでいた。

若女将「 ご無事で良がったですね、お客さん」

根 岸「はい…でも今でも夢を見ているような気分です」

玄五郎「気分直しにウドでも食うが?」

根 岸「いやー伝説は大事にしないと…」

玄五郎「ウド食って、もう一ぺん森吉山さ登ってみたぐねが?」

若女将「お父さん、よしなさいよ、根岸さんを困らせるのは!」

 森吉の山間に笑いが響いた。湯ノ岱山荘の灯りが残雪に温もりを醸す。



( 最終回・第13話 「さらば、ドケーン将軍!」 につづく )

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