第16話「あれから10年」


TVでは今日も妖魔についての報道が流れていた。世界各国は軍隊を使って対処しているものの、通常兵器が効かない彼らには意味をなさない。不安と恐怖を覚えつつも、人々は自身の生活・家族の生活の為、仕事へと向かう。




幸い、日本は妖魔を陰ながら討伐する組織があり、守られていた。一切非公表とするその組織の存在は興味深いものの、メディアは報道規制されていた。よって、名前しか知らない国民がほとんどだろう。




誰も知らないのだ。彼女たち――剣良子が成し遂げたことを。




そして、成し遂げられなかったことを。








剣良子はけたたましい目覚ましの音で目を覚ました。ベッドからムクリと起き上がると、隣には橘礼奈が寝ている。すうすうと静かな吐息を立てて彼女は優しそうな寝顔をしている。ちなみに服を着ておらず、二人とも裸だ。その頬にキスをして、良子は着替え始めた。




今、良子達は同棲している。

荒覇吐学園は無くなってしまったが、別の学園に転入し、卒業した。良子は礼奈と同じ大学に進学し、卒業後はバイトで貯めたお金でアパートに住む事にした。




良子は警備員として正社員となり、そろそろ3年目を迎えようとしている。評判は上々で女子なのに腕っぷしの良さが褒められているらしい。礼奈は家事手伝いとして良子のいない間、専業主婦となっている。本人はどうも人間関係等が苦手で仕事をすることは苦痛らしい。



良子の勧めもあり雑貨屋でバイトするものの、正社員の話は断っているようだ。ちなみにさくらは染井の元で修行し、マコは道場を継ぐこととなったらしい。今でも頻繁にメッセージアプリでやりとりをしている。たまに電話すると長電話になるから困ったものだ。




「あ……」




机の上にはお弁当箱があった。

ピンクの少女柄な風呂敷に包まれている。

手紙がそっと挟まれ、そこには「今日も頑張ってね。愛してるよ、良子」と書かれている。礼奈が早起きして作ったものだろう、自然と涙が浮かんでくる。それを鞄に入れ、身支度を整える。




「行ってきます」




ドアを優しく閉め、良子は職場へと向かった。











世界は混沌としていた。

妖魔達を従え、世界は徐々に破滅に向かう。

剣芳江は胸の傷を優しく撫でた。

それは10年前、剣良子につけられた傷だ。

しかし、良子は母である芳江を殺せなかった。「光の会」自体は警察・公安の介入で壊滅に追い込まれた。しかし、それでも尚、「運命の塔」に一人いる芳江。彼女はまだ悲願を達成できていない。



まだ、やらなければいけない事がある。





「また会いましょう、良子ちゃん」






この世界の命運は何も変わっていない。

ただ、延命されただけなのだ。

時代を担う少女たちを世界は求めていた。

今はその時が訪れるのを静かに待つしかなかった。

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