露天風呂とスライム

「いやー、やっぱりお風呂は疲れが取れて最高だな」

 宿屋のお風呂につかりながら、今日の疲れを癒す。

 壁を一枚隔てた向こう側に、ユキとサリナがいるのだと思う。ていうか、絶対にいる。

 さっきから二人の声がチラチラと聞こえている。

「裸の付き合いも大切だもんな」

 僕も誰か一緒に入る人がいればな……

「いやいや、僕はそっち系の人じゃない」

 一人でツッコミをいれて、ほっぺたを叩いた。

 ほんとに、いきなりこんな世界に連れてこられ、記憶も無く、オッサンをぶん殴ったり、モンスター退治したり。

 一日の出来事を考えていると、内容が濃すぎて考えが追いつかない。

 僕は誰なんだろう?どんな事を現実世界ではやっていたのだろう?

 一つ言えるならば、この世界ほど充実した一日は無かったと思う。

 この世界に来て危険と隣り合わせだが、仲間と頑張ってモンスター倒して、こんな事現実世界ではできないに決まっている。

「二人ともありがとう。これから頑張ろうな」

 当然、返事はかえってこない。

 聞かれてたら恥ずかしいから、聞こえてない方がありがたい。

 そして、体を温めながらのんびりとくつろいでいると、向かいから声が聞こえてきた。

 二人とも仲良くお風呂にいるようだった。

「サリナ、胸大きいニャー」

「そんな事ありませんよ。私なんてまだまだです」

「まだまだなんて、それならユキはどうなるんだニャー。大きい胸が羨ましいニャー」

「大きさは、関係ありませんよユキさん。大切なのは、愛した相手がどう思ってくださるかですよ」

「そうかニャー?マスターは胸は大きいほうがいいのかニャ?」

「それは、マスターに聞いてみてはいかがでしょう?」

 僕がいる事を気付いていないのかな?

 大きい胸が好きかとか聞かれたら、僕はなんて答えたらいいんだ?

「ユキさんは、マスターが好きなんですね」

「そ、そんなことないニャ。そう言うサリナはどうなんだニャ?」

「私はマスターに忠誠を誓ってます。恋愛感情を抱くのは、おこがましいです」

「なんか、難しい言葉が多いニャー」

「わかりやすく言うと、マスターは私の主様なので、恋愛感情を抱くには格上すぎると言うことです」

 なんだこの会話、僕が聞いていて良い会話じゃない気がしてきた。

 話を聞いていたら、だんだんのぼせてきた。

 そろそろ僕は部屋に戻ろうかな。

「今まで色々な方と旅しましたが、マスターなら終わりまでたどり着ける気がするのです」

「それは、どういう事なんだニャ?」

「いえ、何でもありません。ユキさん、そろそろ戻りませんか?」

「そうだニャ、早くご飯食べたいニャ」

「では、戻りましょうか」

 気になることを言ってたけど、とりあえず今は休む事を優先しよう。

 僕が部屋に戻って少ししたら、二人が帰ってきた。

 その後のご飯は、とても豪華なものでした。


「それでサリナ、これから僕達はどうしたらいいの?」

 宿屋で休んで、次の日の朝。

 僕達は宿屋を出て、次にするべき事をサリナに聞いていた。

「はい、マスター。紅いオーラを纏ったモンスターの目撃情報が、隣の街のダンジョン付近でありました。本日はそこに向かってみてはいかがでしょう?」

 紅いオーラを纏ったモンスター。それは、僕達の記憶を持っているモンスターであるそうだ。

 そして、全ての記憶を取り戻せば現実に戻れるらしい。

 でも、僕は記憶を取り戻すのが怖い。

もし記憶が戻って、僕が今の僕じゃなくなったらと 思うと、少し悩んでしまう。

 それでも、僕は自分が何者なのかを知りたい。

「二人とも、今日はそこに行ってみよう」

「わかりました。マスター」

「ユキも賛成だニャ」


「あれが次の街、アルシアです」

「アルシア?」

「この世界では第二の首都と呼ばれるぐらいに、発達しております」

「凄い大きい建物があるニャー」

 まだ街までは距離があるのに、建物が見えている。

 それに、監視塔みたいなものまであるぞ。

 そう思っていると、後ろからモンスターに襲われた。

「何事だニャ?」

 襲われたと言うか、どちらかと言えば肩を叩かれたような感覚だった。

「なんだこいつ?」

 そこには、ジェル状の水色のモンスターがちょこんと立ってるのかこれは?

 これ、どう見てもスライムだよな。

 てか、めっちゃ可愛い。

「マスター、注意してください」

「注意?めっちゃ可愛いじゃん?」

「マスター、危ないニャ!」

 ズドーン!!

「な、なんだよこれ?」

 ユキが僕を押してくれて、二人で転がって、さっきまで僕の立っていたところを見てみると、大きな穴ができていた。

「マスター、スライムは見かけによらず、攻撃力が高く、一撃で戦闘不能まで陥る可能性が高いです。」

 確かに、あそこにいたら僕はペッタンコになってただろうな。

 ズドーン!!

 またスライムが攻撃してきた。

「ヤバイな。ユキ、ここから攻撃できるか?」

「わかったニャ、ここからやってみるニャ」


「なんてか、期待はずれだったな」

 スライムを倒して、僕は言ってはいけない事を言っていた。

「まさかだったニャー」

 スライムの攻撃がえげつないので、ユキに弓を使って攻撃してもらうと、一発で倒せてしまった。

「スライムは攻撃は強いですが、防御がまったくなので、ほとんど一撃で倒せるのですマスター。」

お互いに一撃の戦いなわけだ。

 誰だよスライムは弱いって決めつけてたのは、この世界ではスライムむちゃくちゃ強いじゃん。

 そして、スライムを倒してコスモを獲得した。

「サリナ今、コスモどれぐらいある?」

「1万3千コスモあります」

「えっ、それって多いの?」

「宿屋がパーティで5百コスモですので、多いと思います」

 いつの間に、そんなにお金を持ってたんだ?そこまで相手を倒した覚えはないぞ?

「スライムはレアモンスターですので、落とすコスモも段違いに多いのですマスター」

 だから、心を読む癖をどうにかしてくれ。

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