第22話霧の騎士VSリオの騎士 2
デルマンはブツブツと独り言を言いながら、城の広い廊下を歩いていた。
あの二人が来ていらい、何かが変わってしまった。
レナ姫の様子を探るために付けていた護衛兵は
基本的には、隊長にそんな権限はない。他の皇太子や大臣が横から口出しは出来る筈だが、カイン意向が
一つは
法王以外の者からの質問に、答えを
もう一つは逆の権限で、
これはレナ姫だけだが、優しく言えば、どんな
そして最後は制限だ。
これは先程の、
皇太子番号に代わりは無いものの、事実上は自分より重要ポストに置かれたらしい。
全く持って面白くない。
エドワードもあれ以来、常にバーカードと共にいるし、小言ばかりは言われているわりには、目を輝かせながら
そして当のデルマンはと言うと、セントエレフェスに行ったきり、業務が入って来ないので暇を持て余していた。
これが面白い訳がない。
デルマンにとっては、ローランドの次こそ、自分が法王になる予定である。自分の国を好き勝手に、いじられる気持ちになるのは仕方がない。
全てあの二人が来たせいだ。法国の皇太子に背いた罪は重いことを知ればよい。
デルマンは一人「あいつらはもう任務をこなしたか」などブツブツ言いながら、廊下を
デルマンはよく目立つように、法王の部屋の近くの、
しかし、本日はレナ姫の護衛兵の
大体、たかが隊長の昇級式に、皇太子が行くなどありえない。
デルマンは、誰も話しかけて来ないので、
「これは、デルマン第三皇太子様では在りませんか」
やっと掛かった声に、デルマンはその人物を見る。
声を掛けてきたのは二人組で、他国の騎士とその隣に一人の男が立っている。騎士は外交で何度か見かけた事が、もう一人の男は見覚えがない。
わざわざ俺が相手にするような人物ではない。
そう思い、デルマンは無視を決め込み背を向けるが、そこで何かを思い立ったのか急に振り向き、ぶっきらぼうな言葉を掛けた。
「どうかしたのか?」
他国の騎士はデルマンに、騎士の敬礼をしてから話し出す。
「実は、法王様か、バーカード殿に会いたくて参りましたが、いずれの二方は忙しくて手が放せないとの事。出来ればご相談出来る機会を作って
デルマンは面白く無さそうに話を聞いていたが、
「どういう内容か申してみよ」
「はっ、しかし………」
他国の騎士は、見覚えはない男と目線で相談する。
「何だ、俺だと言えない話か? ならば取り次ぎなど出来ない相談だ」
デルマンは直ぐ様
騎士は慌てた。
せっかくの法国に会える機会を失う訳には行かない。
「お待ちください! 我々もここには
「ならば申してみよ」
デルマンの問いかけに、しばらく騎士は下唇を噛みしめ考えていたが、再び去ろうとするデルマンの姿を見て、慌てて口を開いた。
「どうか、この話はご内密に………」
「あぁ、解ったから早く申せ、俺も暇ではない」
デルマンは、
「この度、我が王国は、王に変わり新しい体制を整えようとした
これはと、デルマンは思い悩む顔をする。
騎士は、自国の
こいつは使える。
デルマンは心の中で笑った。
「そうか、それは大変だな。
「本当ですか! 有り難き幸せ!」
騎士は目を見開き、デルマンに頭を下げるが、デルマンは態とらしく困った顔をする。
「しかしだ、こちらも少し困った事に成っておってな………」
「どうかなさいましたか?」
やっとの思いで手に入りそうな、法王との
「困った
「………処理ですか?」
デルマンのその案に、流石の騎士も
処理とは
いくら自国の為でも、他国の暗殺には手は出せない。しかし、騎士が後には退けないのも確かに有る。
あと一歩かとデルマンは笑った。
「お主の
騎士は唇を噛みしめたまま、言葉を止めた。
隣の男は騎士の耳元で、止めるよう説得しているようだが、騎士は首を振りデルマンを
「………解りました。その条件を
「解っておる、内密にするのであろう。では、詳しい者を案内させるから、少しここで待て」
それだけを述べると、デルマンは
「おい! 本当に良いのか?」
騎士と共に居た男は、デルマンが去っていった後、直ぐに騎士に問いただした。
「あぁ、いまは何を置いても国民を守る。イフレイン、とにかくお前は一度戻れ、手を汚すのは俺一人で十分だ」
騎士は、このイフレインと組むと決めた時、汚れ役を全て引き受け、イフレインは綺麗なまま王道を歩かせると考えた。そうしないと国民の支持は得られないだろう。
イフレインは心配そうに見ていたが、頷くとこの場を離れる。イフレインにも解っていた。今から二人が始めることは、綺麗事だけでは進めない。だから、今は騎士に任せ、後々の汚れ役は自分となる。
お互いの覚悟は誰にも負けない。これから国を支え、
全ては国民のため。
今は何を置いても国民を守りたい。それが意志であり 義務だと思う。
本来なら昇級式は、その所属の隊長が行う。隊長クラスなら兵隊を仕切る、総司令が行う。そして、総司令は法王や皇太子が行う。
だから、これは例外中の例外だ。
カインは久し振りにドレスに着飾り、緊張しているレナ姫の前で
この場には法王は居ないし、ローランド皇太子もバーカードも居ない。しかし、他の皇太子や大臣が多くいる。それに総司令もいるが、昇級式を仕切っているのは総司令ではない。
レナ・オティアニア第七姫が行っていた。
レナ姫はこんなに大きな式典を仕切るのは、もちろん初めてだろう。何度も練習したのだが、地に足が付いていない様だ。
「で、では、カイン・スティーティスは…を、我が隊長、ごほん、護衛兵の隊長に任命ずる」
レナ姫は
カインは焦りながら立ち上がりレナ姫に近付く。レナ姫はカチコチに成りながら、カインに賞状を手渡した。
両方とも、皇太子や大臣の集まる所に馴れていないので当たり前だ。
周りからはまばらな拍手が起こる。
元々デルマンと同じ考えが多い者達が集まっている。本当は歓迎されていないのは
レナ姫が最後に礼を述べて、式典は終わる。
早々と人々が帰って行き、部屋にはレナ姫とカインと、レナ姫の
「やっと終わったか」
レナ姫は式典用の部屋の、少し高い段にある、豪華な椅子に腰を下ろした。
「全く、レナ姫様はよく
二十代の
エルザはカインよりレナ姫とは長く、レナ姫を通じてカインと知り合った、現在はカインの妻だ。
「しっ、仕方がないのじゃ。私も祭典は初めてだし、それに、皇太子達が一杯おったのじゃぞ!」
言い訳するレナ姫に、エルザは静かに返した。
「レナ姫様も皇太子です!」
「うっ、」
レナ姫は冷や汗を流しながら言葉に詰まった。
「しかし、レナ姫様の
エルザは優しくレナ姫に笑いかける。いつもは小言ばかりの、エルザが
「しかし、何と言いますか、リオ姫様達が来てから、我々も
カインは純粋な感想を述べた。
あの二人のお
レナ姫は元々頑張っていたし、カインにしても、そこまでの護衛をこなしていたはずだ。たしかに切っ掛けは有ると思うが。
「そうじゃな。もう、あれから二日か。リオ姫は順調かの」
レナ姫は独り言のように呟き、カインを眺める。
皇太子や大臣が帰っても寂しくはないが、リオ達が居なくて寂しく思う。わずか一日しか居なかったのに。
そこでレナ姫は何かを思いついたのか、カインに尋ねた。
「カイン、私の護衛兵はどれくらいになる?」
「はっ、特別な任務に成りますので、十五人から十八人は可能で有ると聞いております」
レナ姫は椅子の肘掛けに肘をついたまま、あごの下に手を当て「うーん」と悩み、カインに話してみた。却下されるのは解っていたが、どうしても言っておきたい。
「私の護衛は三人で回らんか?」
直ぐにカインにはレナ姫の言いたい事が解った。自分の事より初めての友達を大切したいのだろう。
しかし、解りながらも意地悪くカインは聞いた。
「それは、どう言う事で有りましょうか?」
「リオ姫が
やはりかとカインは笑う。いかにもレナ姫の考えそうな事だ。
エルザもカインに詳細は聞いているのだろう。口を
「残念ながら。私たち護衛兵は、レナ姫の兵隊ではございません。あくまで法王所属の兵隊と成ります。よって、レナ姫の意見を守れない時があります」
例えば、レナ姫と別の者の二人が危ない時、レナ姫が別の者を守れと言おうが、カインは聞く必要なくレナ姫だけを守れる。
完全にレナ姫を守るだけの部隊だ。
「………そうか」
レナ姫も解りながら聞いた事だ。しかし、残念そうに下を向いた。
カインは苦笑いする。頭が良いのだ、もっと悪知恵を思い付いても良いだろうに。
「しかし、
カインの言葉にレナ姫はまんべんな笑顔を見せる。
「本当か!」
「レナ姫様、そこは『
エルザは的確に訂正させる。
「………
レナ姫は渋々従った。
「はい。しかし、他国となるとそれを
カインは意地悪く伝えた。
明日は、カインが
上の者の
彼女はいずれ、きっと良い指導者に成る、だからこそだ。
「そっ、そうか。そうじゃな、それはすまぬな」
「違います、レナ姫様」
再びエルザの訂正が飛ぶ。
レナ姫は肩を小さくしてエルザをみる。どこが間違えていた台詞か解らない。
エルザはレナ姫に成ったつもりなのか、「こうするのです!」と胸を張り、冷たい目でカインを見つめ、人差し指をビシッとカインに突き刺して言った。
胸を張る事により、見事な胸が揺れる。
「構わぬ! レナ・オティアニア第七姫の命令じゃ、直ちに人選をやり直せ! と」
エルザはスカートの
レナ姫は感動のあまり、エルザを見たまま何度も頷く。
カインにしては、レナ姫に悪い事を教えて欲しくなかったが、レナ姫のその言葉を待った。
カインにしても知りたくは有る。
「あぁ、そうじゃ! リオ姫は私の大切な友達じゃ。カイン、構わぬ! レナ・オティアニア第七姫の命令じゃ、直ちに人選をやり直せ!」
「はっ、かしこまりました!」
レナ姫の台詞にエルザは満足げに頷いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます