第二部-終章『ゾーズ・ザット・リザルト・イン・ザ・デス・オブ・ア・パーソン』

あの戦いから三日後

 流輝たち『イカン』の隊員は未だ崩壊した『カダス』海上基地上空で待機していた。

 なぜなら海中へ沈んだ『クトゥグア』の回収作業、『カダス』基地の占領などやらなければならないことが数多くあったからだ。

 ちなみにその後、ダーレスは『ミゴ』を製作していた会社を買収、アメリカ政府を脅し、『カダス』を『イカン』のアメリカ支部として使用することとなったのだ。

 これによって『イカン』は『ミゴ』による戦力増強と、情報収集、新装備を作ることが可能となった。

 それにより、『クトゥルフ』の強化版の案が出ているが、流輝に直接関係のある事では無かった。

 それより、流輝には気になることがあった。

 ミリアの事だった。

 『クトゥグア』撃墜後、ミリアは時間さえあれば格納庫に行き、『ナイア』を見上げてばかりいた。

 簡単に朝ご飯を食べた後、すぐに格納庫に行き晩御飯の時間になると戻ってくる。

 アリサと心配だと話していたのだが、声をかけるのもためらわれる真剣さだったので、暫く見守ることにした。

 それに、仇を討った直後なので放っておくことが一番だと思ったのだ。

 しかし、さすがに三日連続は心配になったので、流輝は一心不乱に『ナイア』を見上げるミリアに話しかけてみることにした。

 まるで『ナイアーラトテップ』と話しているかのようなミリアの横顔に、流輝は声をかける。

 「ミリア」

 「……流輝?」

 「……元気ですか?」

 「そうでも無い」

 ミリアはそう答えると、流輝の方を向いた。

 目の下にはクマができていて、顔は少し青ざめていた。髪はぼさぼさでろくなケアをしていないことが一目でわかった。

 流輝は少し眉をひそめると、そのまま言葉を続ける。

 「ちゃんと寝てますか?」

 「……いまいち」

 「そうですか……」

 「ねぇ流輝、私の話に付き合ってくれる?」

 「いいですよ」

 ミリアは近くの手水に腰を下ろし天井を見上げると話を始めた。

 「私さー、戦う意味なくなったんだよね」

 「…………」

 「私…………私達の仇はあのクリスとかいう男がとってくれたし、私には『ナイアーラトテップ』しか残っていない」

 「…………」

 「流輝は、どうして戦っているの?教えて」

 「……同じような台詞、この間も聞いた気がしますね」

 一瞬、『ナイトゴーント』

 流輝はそう答えると言い放った。

 「無いです、戦う理由なんて」

 「え……」

 「僕は戦いたいから戦うんです、理由なんてありません」

 「そう……」

 ミリアは流輝の宣言を聞くと、突然、顔を伏せて何も言わなくなった。

 が、やがて肩を震わせると、小さな声で笑い始めた。

 「フフフ……フフフフ」

 「……何が面白いんです?」

 「フフフ、いや、あまりにも堂々というものだから」

 「はぁ……」

 「フフフフフ」

 ミリアは大笑いすることなく、静かに笑い続けると、やがて顔を上げると言った。

 「私も、戦うかな?」

 「……」

 「私には、これしかない。なら、こいつの為に戦ってやろうじゃないの」

 「そうですか…………」

 そう言い放った後、ミリアは大きく伸びをして『ナイア』の前から離れると、流輝のところへ戻って来た。

 そして、流輝の肩を叩くと言った。

 「よーし、何かうまいもの食わせてよ」

 「……え?」

 「頼むよー、私腹減ったからさ」

 「はぁ、仕方ありませんね」

 流輝が渋々頷いたとき

 突然、どこからともなくアリサが現れた。

 「お、何かうまいものって聞こえたから飛んできたんだけど」

 「……地獄耳」

 「アリサイヤーは地獄耳ってね」

 「古すぎます」

 「……分かる流輝も流輝だけどね」

 三人はそんなくだらないことを言いあいながら、流輝の部屋へと戻って行く。そこのキッチンで何か作るつもりでいた。

 が、その足は止まることとなった。

 なぜなら、流輝の腕の端末に連絡が入ったからだ。

 連絡してきたのはダーレスだった。

 『流輝君』

 「なんですか?」

 『悪い知らせだ』

 「……なんです?」

 『君のおばさんが亡くなった。事故死だ』


 「え?」


 流輝は絶句し、顔を真っ青にする。

 アリサとミリアは突然顔色が悪くなった宙気を見て、心配そうに眉をひそめるが、何が起こったまでは分からなかった。


 「……と」

 ダーレスは腕の端末を切り、大きく息をつく。

 指令室には今、流輝のおばさんの死体が映る画面が大量に浮かんでいた。それに、おばさんを引いた電車や、その後始末についてや国内で放映されているニュース番組も映っていた。

 ダーレスは満足そうにそれを眺めていた。

 すると、一つの画面から声が聞こえてきた。

 『クライアント、ミッション成功です』

 「そうか、証拠は?」

 『残していません自殺か過労で倒れたことになるでしょう』

 「じゃあ、こちらで情報を操作し、過労にしよう。流輝君もこれで天涯孤独のみだ、金が必要だろうからな、ジャーナリストだったよな、確か」

 『えぇ、でもフリーですから』

 「うん、そこは何とかするさ」

 『ではさようなら』

 「あぁ、さよならだ」

  ダーレスは通信を切ると、椅子に深く腰掛け、満足そうな顔をする。

 そして、言った。

 「知りすぎたんだよ、あなたは。流輝君が心配なのはわかるが、知らなくていい事を知ってしまった代償は大きかったな」


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