第4話 能ある虎は爪を研ぐ

みんな、黄色と黒で生まれるなか、ボクは白い色で生まれた。


父さんと母さんは白は目立つから見つけやすいねって言って笑ったけど、その目はちょっと心配そうだった。


白い子は弱いんだって。

血が出たら止まらなかったり、太陽の光に弱くてすぐ倒れたりするから気をつけなさいって。


ムラで一番の物知りのおばあちゃんが言ってた。


だからみんな、ボクと遊ぶと気を使うから疲れるんだって。


でもでも、ボクはケガしても普通になおるし、お日様は大好き!!



「お前、白子アルビノじゃないだろ?」

「あるび……?」

「アルビノ。白くて目の中が赤いやつ」

シャーナはボクを見下ろして言う。

シャーナは物知りだ。ムラ一番の物知りのおばあちゃんより物知りだと思う。

ボクはシャーナの言った事を考える。

うーん……。

ボクの目は冬の水の色。

父さんと母さんの目は金色。

シャーナの目も金色。

シャーナがボクをじっと見下ろす。

「なーに?」

「……いや」

ボクが首を傾げるとシャーナはプイッとそっぽを向く。

でもボク知ってるよ。

シャーナがボクの事大好きだって。

だって、尻尾がパタパタしてるもの。


触りたいんでしょ?


触っていいよって言うと、シャーナはいつもボクの周りをしばらくウロウロしてからボクをベロンって舐める。


触ったら壊れそうでコワイんだって。


シャーナは強くて大きくてキレイなボクのお嫁さん。


ボクがまだ子供だからお嫁さんじゃないけど、ボクのお嫁さん!


そうだよね!って聞いたら、いつもシャーナは困った顔で笑う。


大きくなって、他に好きな虎(ヒト)ができたらそっちに行っていいよって言う。


ボクは大きくなってもシャーナだけ好き!!って言ってもやっぱり困った顔でありがとうって言う。


シャーナは物知りだけど、ボクの事は何も知らない。


ボクはこんなにシャーナが大好きなのに!


ボクはモヤっとしてシャーナの首に噛みつく。


「だからソレはやめなさい」


シャーナはため息混じりにボクに言うけど、ボクを振り落とす事も、叩き落す事もしない。

お母さんにはよくされた。

その度にお父さんが変な声出してた。

お兄ちゃんはボクを引き擦ってお母さんから遠ざけてた。


何でだ。


シャーナはそんな事したら、ボクをプチって潰しちゃうからコワイんだって。


ムラで一番強いお母さんの子だから大丈夫!って言ってもシャーナは信じてくれない。


シャーナは本当にボクの事を何も知らない。

ボクはシャーナの事いっぱい知ってる。

好きな動物ニクとか嫌いなニクとか。

シャーナの事が好きになったヤツとか、まだシャーナの事を諦めてないおうじょうぎわの悪いヤツとか。


シャーナがボクのお嫁さんに決まった時、お母さんは言った。


「いいか、お前はまだ小さい。欲しいモノを手にしたくば手段は選ぶな。邪魔者は徹底的にしろ。そして相手の心を掴む術を得たなら徹底的に心を絡め取り、死んでも離すな」


と。


お父さんはいなかった。お兄ちゃんは一緒に聞いてたのに、何も聞こえないって言ってた。


何でだ。


お母さんの言ってた事は難しかったけど、シャーナがどんなボクが好きかは知ってる。

いつもボクの前では難しい顔をしてるけど、シャーナの耳もヒゲも尻尾もいつも正直だ。

だからボクはお母さんの言う通り、シャーナの好きな『カワイイ』をするんだ!

シャーナをめろめろにして、ボク以外の虎なんか目に入らないようにするんだ!


お母さんに言ったら、「良し」をもらった。

お兄ちゃんは「おれのてんしが……」って、下を向いてとぼとぼ家から出ていった。


何でだ。


「……そろそろ離しなさい」


いーやー!


だって、だんだん楽しくなって来たんだもの!


「仕方ない」


え?触るの?ボクの事、触ってくれるの?


べしってしてくれる?てしてししてくれる?


いいよ!シャーナだったらしていいよ!


って思ったら、シャーナはボクを喉にぶら下げながら歩き出した。


どこに行くんだろう?


首は傾げられない。だって、シャーナにぶら下がってるから。

シャーナの好きな首傾げる仕草をしてあげたいけど、シャーナと離れるのはなんか嫌だ。


そんな事を悩んでたら、辺りが暗くなった。


ふぁーふぁシャーナ?」

「寝る」


そんな、めんどくさがりなところも好き!!


シャーナは岩陰でごろりと横になった。

ボクはぺたり、と、お腹から地面に着地した。


ボクなんかカッコ悪い。


シャーナの金色の目がチラッとボクを見る。


知ってる。


「いつまでそうやってるつもりだ」って言いたいんだよね。

そおっと口を開けたらシャーナが上になった方の前脚を上げてボクを誘う。


ボクはシャーナの前脚の下の一番イイ所に潜り込む。


シャーナの前脚が優しく降りてきた。


この態勢たいせいは好きじゃない。


だって、だれかが「きょうだいみたいね」って言ってたもの。


ボクとシャーナはフウフなのに!


「しゃーな」


シャーナがボクを見たのがわかる。

でも、ボクの目はとろとろして重くなる。


「ボク、つよくなるからね」


あんなヤツとかこんなヤツとか今物陰からシャーナを見てるヤツとかはいじょするからね!ニオイとケハイは覚えた。


シャーナが笑ったような気がした。

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