二次のレインボー

「ねえ、お兄ちゃん」

 バスのふたりがけシートの窓側で、流れる景色を見ながらイズミが問う。

「虹の根元はさわれるんですか」

 イズミの視線の先、車窓越しに見える田んぼの少し奥あたりにはとても濃い虹がかかっていた。

「試してみるといい」

「んー、それほど興味ない、かも」

 それだけいうとイズミはをぼくに身体をあずけ、顔を下から覗いた。

「どうした?」

「お兄ちゃんの心の根元はさわれますか」

 恥ずかしいことを訊く。

「いつでもイズミの言葉やこまかな仕草で動揺してる部分だよ」

 訊かれれば応えるのが兄の情け。

「〜〜……!」

 イズミが顔を真っ赤にした。めずらしい表情だ。面白いのでもう少し可愛がってやろうと頭の上に手をのせてなでる。

「……ふにゃあ」

 鳴いた。そんな彼女をしばらくなで続けていると、ほんのり湿ったイズミの髪越しに伝わる体温が心地良い。

「…………」

 またしばらくするとイズミはうんともすんとも言わなくなり、ぼくは手を離した。

「やめるの?」

 すぐにうるんだ瞳でぼくを見つめ問う。

「うーん」「やめるの」

 すぐに追い打ちが来る。

「家にかえったら、やってあげるからな」

 ちょっと苦しい逃げ方を試してみる。

「やくそく」

 イズミが小指を差し出す。

「約束な」

 ぼくはそれに自分の小指を重ねほほえむ。イズミはもう一度力を込めた。

「お客さん少ないな」

 ぼくらを含めても五人に満たないくらい。その上、年配の方が多くて車内は静かだ。

「そうだね」と興味なさげな返事。

 ぼくは雨上がりの空にかかる虹をふたたび目つめる。

「ねえ、お兄ちゃん。虹いくつに見える」

「色のこと?」

「違う。何本あるかってこと。よく見て」

 イズミの言葉を聞きしばらく見ていると、大きな虹の少し上にうっすらともう一つ虹があることに気づいた。

「へえ、二つの虹か。すごいな」

 感心する。

「うーん。じつはすごくない」

 けれどイズミの見解は違うようだ。

「ほんとうは虹って二つ見えるものみたい。一次の虹と二次の虹っていうんだって」

 とてもややこしい名前だ。

「それでも、もうひとつの虹に気づけるお前は少しだけすごいと思うぞ」

 頭をなでる。

「別に、勉強しただけで……そうでもない」

 イズミはまた赤面しぼくから目をそらす。

「えらいえらい」

 頭をなでているうち、イズミに乗せたぼくの手に大きな反応があった。

「ねえ、お兄ちゃん!」

「どうした」

「一つめの方の虹、重なってる!」

 イズミは目を丸くしてぼくを窓際に誘う。

「一次の虹が濃かったのはそういうわけか」

「やっぱり、すごいね。虹」

 てらいなく笑うイズミを見て、今日は外に出かけた甲斐があったなと思った。

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