第7話

 八岐大蛇が倒された跡を、ビルの上から一人の青年が眺めていた。仁優が書店で出会った、あの青年だ。

 大蛇が倒された跡には、今や警察や消防、マスコミに野次馬が集まり混乱状態が発生している。

「ウミ様、ここに居られましたか」

 背後からかけられた声に、ウミと呼ばれた青年はゆるりと振り向いた。そこには、精悍な青年と少女が佇んでいる。

「ライにメノか」

「一体、何をご覧になっていたのですか?」

 問いながら進み出、ライとメノはビルの下を覗き込んだ。そして、混乱する人々を見てライが顔を顰める。

「……今なら、一度に多くの民を黄泉に送れそうでございますね。テレビのカメラとやらが回っているようですし、この国の民に恐怖を植え付けるのにも良さそうだ。……動きますか?」

「……いや。わざわざ奴らを喜ばせてやる事も無いだろう。それよりも……」

 呟き、ウミは向いのビルを見た。それにつられて、ライとメノもそちらを見る。そして、二人の顔は驚愕に彩られた。

「あ、あれは……」

 三人の視線の先には、瑛がいた。戦闘装束のまま、ウミ達を睨めつけている。

「そうだ、無事に生まれ変わっていたらしい。……今の名は、瑛、と言ったか」

「……どうされるおつもりですか?」

 おずおずとメノが問うと、ウミはふるふると首を横に振った。

「どうもしない。今ここで、彼女と戦うつもりは無いのでな。……そうそう、メノ。生まれ変わると言えば、猿を見たぞ。奴も転生しているようだ」

「えっ……」

 ウミの言葉に、メノは驚いた顔をする。そして、少しだけ悲しそうな顔をした。

「そうですか。ならば、いずれは……」

「あぁ、戦う事になるだろうな」

 言いながら、ウミは視線を瑛に戻した。瑛の姿は、既に消えている。

「甘い事は言っていられないが……出来得る限り殺したくはないものだ。そのためにも、まずは相手を知らねばなるまい」

 そう言うとウミは踵を返し、その場から立ち去った。ライとメノも、それに続く。その様子を、地上に降りた瑛が見ていた。彼女は、ぽつりと呟く。

「あれは……そうか。奴が出てくるという事は、黄泉族の総攻撃も近いな……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る