ネジたちのおしゃべり

そらきめぐむ

第1話 地球のねじ

  あのね、知ってる?

  地球は、ねじで動くんだって。

  だから、見つけたら回してごらん。

  どんな願いもかなうから。


 それは、おもちゃたちの間では有名なうわさ。


 ブリキロボットのダインは、このうわさを着せかえ人形のミカから聞いた。

「でも、あたし思うんだけど」

 おもちゃ箱の中でミカが言った。おもちゃ箱とは名ばかりの、小さなお菓子の缶の中。兄のおもちゃも妹のおもちゃも、いっしょくたにつめこまれ、中はぎゅうぎゅう満員状態。ふたがちゃんとしまっていないのだけが、せめてもの救いだ。

「思うんだけど、何だい」

 ミカの足の下のほうからダインが答えた。てっぺんにいるミカはいいが、奥のほうにいるダインは、話すのさえ大変だ。

「思うんだけど。本当は地球にねじなんてないのよ。だって、どんな願いもかなうなんて、何だかいいかげん。回せないから、そんなこと言うんだわ」

「いや、それはわからないぞ。ぼくらも人も家も町も、みんな地球の上にいる。地球が動かせるなら、本当に何だってできるかもしれない」

 プラスチックの電車や、そっくり同じ顔をした小人たちをおしのけて、ダインはおもちゃ箱からはい出した。もう真夜中。元気な兄と妹もさすがにもう眠っただろう。

「手がかりはないのかい。どこにあるかとか」

「わかんない」

「どんな形かとか」

「わかんない」

「困ったな」

「だから、言ってるじゃない。かなりいいかげんなのよ」

 ミカのキンキン高い声を聞きながら、ダインは頭を右にぐるんと回した。さびだらけの体がギシギシと音を立てる。だけど、満員状態から解放されて、頭はさっきよりだいぶ軽い。ちょっとは考え事ができそうだ。

「大きな地球を動かすんだ。きっとねじも大きいよな」

「うん、たぶん大きいわね」

「で、だいたいみんな、ねじはこんなまるい形をしてるよな」

 ダインは自分の頭にあるねじを指さした。

「うん、たぶんね」

「もしかしたら、あれかもしれない」

 ダインはひとりつぶやきながら、部屋を横切り歩きはじめた。

「ねえねえ、見つけたら何をお願いするの」

 いつの間にか、ミカがついてきていた。

 ダインは、部屋でいちばん大きな窓の前で、止まって上を見上げた。

「ぼくは、もうすぐ捨てられる。これが最後になるかもしれないからさ」

「……捨てないでって、お願いするの?」

「いや、ぼくはさびだらけだからさ。それはいいんだ」

 ダインは頭をちょっと右に動かして、自分の体をギシギシいわせた。さびだらけのおもちゃでは、子供たちは危なくて遊べない。それはわかっていた。

「ほら、大きくてまるい、地球のねじだ。ただ、あれをどうやって回すかだな」

 窓の外には、大きな明るい満月があった。

「勝手に回ってくれないかしら。ギーッギーッて……あれっ、今、動かなかった? 黒い模様がちょっと動いたような」

「う〜ん。まるいから、回ったのか回らないのか、よくわからないな」

「とりあえず、お願い事だけしてみたら。もしかしたら、かなうかも」

「そうだなあ。よし、そうするか」

 ダインは、大きな声で月にさけんだ。

「お月様、お願いします」

 きらりきらり。月は光をふりまいた。毎日毎日そうしているように。

 きらりきらり。それにあわせてミカのにじ色のドレスも光る。

「ぼくがいなくなっても、みんながぼくを、ずっと忘れないでいてくれますように」

 それから、いくどめかの夜が来て、ダインの話し声はしなくなった。

 ミカの高い声だけが、おもちゃ箱の中にひびいている。

「あたし思うんだけど。地球のねじは本当にあるの。だって、願いはかなうんだもの。あのね、これ、ぜったいだれかに伝えてよね」


  あのね、知ってる?

  地球のねじは、月なんだって。

  見つけたのは、ブリキロボットのダインなんだよ。


 それは、おもちゃの間で最近広まったうわさ。きっとずっと続いていくうわさ。

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