チートな彼女と武具転生 -生まれ変わったら武具になってるってマジっすか!?-
お豆三四郎
プロローグ:神様のお気遣い
ロキという神を知っているだろうか?
唐突極まりない問いかけに疑問の表情を浮かべる者もいるだろうが、それこそ彼が最も喜ぶ表情だということを教えておこう。
ロキ。
北欧神話に出てくる悪戯好きの神。
災いを呼び起こし神々の存在そのものを脅かせた彼は、その知謀と好奇心だけはどの神をも超越していた。
幾多の神話において良くも悪くも名を馳せた彼の思考回路は悪知恵に長けたものがあり神々さえをも愚弄する姿は神としては滑稽なものだが1存在としては彼ほど頭の回る者はいないだろう。
時と場合によって好奇心から起こしたその行為が神々にとって利益となるか不利益となるかが大きく分けられるが、その中でたった一つだけ。
かの神々が行き交う神話において土台であり根本ともよべる絶対的な要因を彼は生み出した。
それは武具。
単純な刃物や銃器といったものではなく、かの雷神が愛用した絶対必中の雷槌ミョルニルや持ち主に確実な勝利を与えるオーディンのグングニルといったいきすぎた力をもった神々の武具だ。
「まぁ、より正確には生み出したわけじゃなくって魔法の道具や武具を作るのに特化した神様御用達の
生物が生まれる以前の生きとし生けるもの全てが辿り着く生命の始まりとも呼べる場所で彼は呟いた。
まだ明確な形を成していない不安定なもの達を前に彼だけは、しっかりとした形をもって他愛もない雑談を交わしていた。
交わしていたといっても生物として完成もしていない存在が言葉を返してくれるわけもなく端から見れば彼が延々と独り言を楽しげに話しているだけにしか見えなかったがそんな細かいことは彼にとって気になることではない。
ロキは遊泳する魚のように空中をフワフワと浮かびながら曖昧な存在に一方的に言葉を投げかける。
「ねえねえ、君ってばこの前もここにいたよね?っていうことはまた死んじゃったわけだ。今度はどうやって死んじゃったの?また東京湾にでも沈められちゃった?」
曖昧な存在は言葉を返さない。
意図的に無視しているというわけではなく、単にそれを行える程の知能が備わっていないクリーンな状態だからである。
とはいえ知略の神を名乗るロキがそれしきのことをどうとも出来ずに拘泥するわけもなく、ちょっとした神様権限で生前のあれやこれやを勝手にのぞき見ていた。
なかには強姦されたりテロに巻き込まれたりなど聞くに耐えない哀しい理由をもった者達もいるわけだが、神にとってはそんなことはどこまでも小さいものでしかなかった。
「へぇー……現実世界に嫌気がさして首吊り自殺か
ー。最近多いんだよねそうやって自殺しちゃう人。折角そっちの神様が一生懸命作ってくれたんだから少しは満喫しなよー。ま、僕はここに居座りっぱなしだから良く知らないんだけどさ」
っていうかさー、とロキは呟く。
「そんなに面白くないの?君たちの世界って」
ロキは指をパチリと鳴らすとどこから出したのか分からない赤ん坊の頭程度の大きさをした水晶玉を取り出して、そこから今の世界を顎をさすりながら観察してみた。
生物だか無機物だか分からないもの相手に一人語りを続けているのもそろそろ飽きてきたロキとしては持て余していた暇をつぶす程度のものでしかなかったのだが、ここで彼は驚きの声をあげた。
「……おいおい…なんだいこれは…」
哀れなまでに知略に恵まれた神は世界を見て驚いた。
何年もかけてつくる意味のない不愛想な建造物に、どうでも良い堅苦しい法律。
なんでも簡単に欲しいものを手にいれる事が出来る欲望まみれの神からしてみれば進化を遂げていない生物の哀れ極まりない末路にしか見えなかった。
だが人間にこれといった興味を示さない彼が唯一見過ごせない事があった。
それは科学という名の力の恩恵を受け銃火器や殺人ウィルスなど殺すことを前提に作られた生死の境目を蹂躙する武具。
科学兵器というあまりにもセンスに欠ける非効率的な武具が世界を蹂躙していることに、人間の文明があまりにも進んでいないことに彼は驚いたのだ。
「これが武具?僕が作った高名な武具の流れを無視して、こんなセンスの欠片もないものが世界を支配しているっていうのかい?」
知略の神は嘲り罵り中傷した。
何十何百何千と芋づる方式に不満はわき上がってきたが、なにより彼が言いたかったことはただの1つに限られる。
「……そりゃ面白くなくて当然だよね。うん、君たちの言う通りだ。こいつは驚くほど刺激が足りない」
彼が言いたかったことはシンプルに面白くない、であった。
これでは兵器を持つ限られた者しか世界を変えること支配することができないではないかと。
自身の中にわき上がる欲望も野望も一体武器を持たない他の者はどうやって吐き出せばよいのかと。
自分の思うがままに世界を歪めてきたロキは、それすら権利を持たぬが故に出来ない者達を見てあざ笑うどころかひどく同情した。
海神エーギルの宴に乱入し神々に中傷を浴びせた彼が同情したのだ。
それ程までに彼の目には世界がすさんで見えた。
人間だけでなく動物でさえ植物でさえ神でさえ誰しもが抱く自己欲求の確立をセンスの欠片もない兵器を多く持った者だけが与えられる事に怒りさえこみ上げた。
あのような不格好なスクラップよりも自身が生み出した武具にこそ世界を蹂躙する権利がある、と。
「………決ーーーめた」
ロキはニヤリと口角をあげて呟いた。
その言葉に本来知能すら備わっていないはずの曖昧な存在が知略の神へと意識を向けた。
潜在的な何かが知略の神の一言に興味を示したいたからだ。
「君たちが今の世界が面白くないっていう理由が良ーくわかったよ。だからさ僕が誰しもが自分の中にある欲望や野望や欲求をぶつけることが出来るような世界を作り出してあげるよ」
世界がもっと狂いに狂うように。
自分を越える者があらわれるように。
「だ・か・らー、僕が君達の世界観を変えてあげよう!君たちが退屈することのない楽しくて狂った愛すべき素晴らしい世界を!!」
そういってロキは生命としてはっきりとした運命も決められていない曖昧な存在に手を加えた。
「君達にはこれから僕の武具となって新しい世界を堪能してもらおう!世界を簡単に変えることが出来る僕のとっておきの武具!いや、それだとまだ足りないな……そうだ!他の神話や伝説に出てくるものもとりいれよう!皮肉なことに時間だけは身が朽ちる程にあったからね!」
そうだ!それが良い!とロキは楽しげに叫ぶ。
ロキは曖昧な存在に武具の力を与えた。
簡単に天を裂き、地を穿ち、海を割ることの出来るいきすぎた力を、ただの興味本位で彼はうちこんだのだ。
それこそが武具転生。
武具が命をもって自己をもって欲望をもって生きる新世界。
武具として人間として生まれ落ちた子供たちが、どうか自分の作り出す新しい世界を伸び伸びと、そして狂いに狂って生きてくれることを願ってロキは世界の創造にとりかかった。
「さあ行こう!かわいいかわいい神の子達よ!どうか世界をもっと華麗に!もっと煌びやかに色づかせておくれ!!」
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