おまけ・優斗編1
※1は優斗過去編の為、女性との話が多くBLはないですのでご注意を。
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小さい頃から自分の容姿が整った方だと理解はしていた。
周りからちやほやされて、「優斗君はかわいいからね~」と皆に内緒でよくお菓子を貰えたりして、それが嬉しかったのを覚えている。
小学校に入ると色んな女子から告られたりして、それもまた嬉しかった。
だけど中学に入った頃から徐々に、人からの好意を寄せられることが喜びから恐怖へとかわってしまった。
最初はなんだっけか。確かシャーペン。
その次は消しゴムや、新品のノートやタオル…とにかく色んな物をオレはよくなくしていた。
「おっちょこちょいだなー」なんてダチや家族に言われて、オレ自身もそう思っていたのに…ある日オレがなくしたハズの物をクラスの女子が持っているのを目にする。
ただ単に同じもの使ってたんだなぁと思いきや、別の無くした物が別の女子の鞄に入っていたのを偶然目撃。
男もんのタオルなのに…たまたま同じなんだよなぁ?と思いながらも迎えた放課後で、女子数名がオレの机や鞄を物色しているところに遭遇し、なくしたと思っていた色んな物は女子に盗られていたことを知った。
それからしばらくオレは女子と距離を保つようにしていたのだが、オレの知らないところでオレを取り合うために女子がバトルをしてたり、ひどいときには女子内で「優斗に抜け駆けしたでしょ!」という訳の分からない理由からいじめのようなことに発展していたことを親友から聞き、愕然とした。
それ以外にもストーカーに遭ったり、電車で痴女に遭ったり…
「どうしてそんなことをしたんだ」と問いただすと、返ってくるのは毎回同じ。
「好きだから」
オレを好きだから物を盗む? 好きだからいじめをする? 好きだから後をつける? 好きだから…?
オレにはそんな気持ちは到底理解できないし、したくもない。
オレの気持ちに関係なく押し付けられる好意に、もう恐怖しかなかった。
とにかく短期間に色んなことがありすぎて、オレが女性恐怖症になるのはあっという間だった。
高校は親に送り迎えをしてもらいながら近所の男子校へ通っていた為女子と遭遇することはほとんどなく快適な高校生活を送れていたが、卒業後の大学は共学になってしまうため、オレは今後どうやって生きて行けばいいのかと悶々としていた。
そんな時に声をかけてきたのは、女の中で唯一完全に大丈夫な相手・母だった。
「あんたこのバイトやってみない?私の友達が新しく会社作ったんだけどさ、イケメンを彼氏としてレンタルする会社なんだって。あんた顔いいし、女克服になるんじゃない?このまま女の人と全く関わらずに生きてくなんて無理なんだから、大学行く前になんとかしないと…たくさんの人と話すんじゃなくて、1対1だし。何かあっても会社が守ってくれるから安心よ」
そう言った母の言葉は提案ではなく強制だったようで、母は嫌がるオレを引きずるようにして無理やり会社へと連れて行った。
会社の人は母とその友人の女社長から事情を聞いていたらしく、女性社員を目の前にして怯えているオレを見ても「よろしくね」と遠くから声をかけてくるくらいで無理に接してこなかったので助かった。
その後、研修と称して女性社員と接遇やデート練習などをさせられた時は拒否反応で何度も吐きそうになったり腕を振りほどいたりしていまったが、他のバイト仲間や後輩が研修からどんどん旅立っていく中時間をかけて根気強く行ってくれた。
「…んー。なんていうか、とてもOKとは言えないんだけど。とりあえず吐いたり泣いたり逃げ出したりはしなくなったし、試しに研修生としてデートデビューしてみようか。同じ社員相手じゃ、女恐怖症を克服したというよりその人だけ慣れてきたって可能性もあるし、今の優斗君の現状が掴みにくい。全然ダメだったらもっかい考えるからさ」
「えぇ!!無理です!無理無理!!」
「大丈夫よ、ちゃんと何かあった時用の緊急連絡装置渡すし、最初の研修は尾行してついてくから。それに優斗君もうすぐ大学生になるんだよ?その前に克服しなきゃでしょ」
「……っ」
そう言われてオレは返す言葉もなく、オレは研修生として短時間だけレンタルされることになった。
サイト上にオレの硬い表情(笑ったつもり)の顔写真がアップされ、"1時間1500円(研修のため遠方への出張はなし・1時間のみのご利用となります)"と注意書きが添えられた。
有料彼氏の中では破格の値段のせいか、あっという間に10件ほどの申し込みがきて、その中で1番都合の合う1人とデートすることになってしまった。
そして待ち合わせ当日。
オレは待ち合わせ場所となった銅像の前で、一か所を見つめる。
見つめた先にいるのはオレを尾行するため少し離れたところにいる社長だ。
待ち合わせ場所の定番である銅像の前には他に待ち合わせをする女性もたくさんいるわけで…その中でじっと待っているだけでもう逃げ出したいほどにいっぱいいっぱいで、いつでも泣きつけるように社長の姿を視界に入れていた。
(あーもうやだ、もうやだー…帰りたいー…)
吐くほどではないが、変な汗が出始めた頃に彼女はやってきた。
「…あ、優斗さんですよね?里子です、よろしくお願いします」
「え…あ…よ…ろしく、おねがいします…」
目の前に現れた彼女は、茶髪を綺麗にカールさせて、つけまつげに濃いめのチーク、そしてミニのワンピース…きっとこのデートのために張りきったのだろう。
化粧が濃いので化粧が上手いのか実物が可愛いのかよくわからないが、極力女を視界に入れないようにしてきた優斗からみても、かなり可愛くバッチリ決めているのがわかった。
(うわー…すげぇ"女"って感じの子来たな…怖い…どうしよう…)
顔からも冷や汗が出そうな優斗が思わず社長を探すために視線を彷徨わせると
「写真はどうせいいの選んで載せてるんだろうなーとか思って期待してなかったけど…まさかこんなにカッコいいなんて思わなかった!超ラッキー!」
そう言って彼女がぎゅっと優斗の腕にしがみついた。
「………っ!」
手をつないだり腕を組んだりする特訓は研修でもしていたが、優斗ができるようになったのは自分から相手に触りにいく時だけだった。
自分の心構えができていない状態での突然の彼女からの行動にゾワゾワゾワ!っと鳥肌が立ち、反射的に腕を振りほどく。
バチン!
「触んな……!」
「ひゃっ」
「……ぁ…」
驚いた表情をしてから俯いて「ごめんなさい…」と謝りだす彼女を見て、無意識とはいえとんでもないことをしてしまったと悟る。
(どうしよう、どうしよう…)
鳥肌は全然収まる気配はなく、今自分から手をつなぎ直したとしても多分吐く。
チラッと目線で社長を探すが、オレたちを状況見て近くへ移動したのか、さっきいたはずの場所に姿がみえない。
(どうしよう、どうしよう……どうにか、しないと…っ)
「…………う、で…じゃなくて、袖なら、もってもいい」
「…え?」
謝りもせずにぶっきらぼうになってしまったオレの言葉に、彼女はきょとんと顔を上げたが、それから「…うん!」と満面の笑みになり、オレの手ではなく袖をぎゅっと握った。
やっぱりちょっとぞわっとしたが、これならなんとかなりそうだ。
ふぅ…と気持ちを落ち着かせて次の難問へと進む。
「…ど、こ…いく?」
「喫茶店に行きたい。カップルだけの特別メニューがあるお店があるんだ!ここから歩いて5分くらいのこと」
「…場所、わかんないから連れてって」
「え?う、うん!」
たどたどしいオレの言葉に彼女は嫌な顔せず…それどころか満面の笑みのまま、ぐいぐいと楽しそうにオレの袖を引っ張って店まで行った。
「いらっしゃいませー」
たどり着いた喫茶店は外見はいたって普通だったのに、店内はレースやフリルでそこら中飾り付けられていて、いかにも女子が好きそうな内装になっていた。
案内されたテーブルにつき、やっと袖を解放されて向かい合わせの席に座る。
彼女は早速メニューを広げて「これなんだけど」と指さした。
「……へぇ」
指さされても、"カップル限定メニュー"という文字の下に、商品名とざっくり何のケーキか飲み物かが分かるくらいのことしか書いておらず、見た目などの詳細は届いてからのお楽しみになっていて、いったいどこがカップル仕様なのかわからない。
「あ…今更だけど、優斗君て呼んでいい?」
「…いいけど」
「私のことは里子って呼んで下さい。優斗君この中で食べたい物ある?」
「………特に」
「じゃあ嫌いな食べ物とか…甘い物苦手とかは?」
「…ない」
「……そう。じゃあ適当に注文しちゃうね」
そう言って彼女は店員を呼んでカップル限定メニューからデザートと飲み物を注文していた。
全く会話を弾ませることのできないオレに思うところがあったのか、彼女は商品が届くまでの間もじもじと手を動かしたりオレをチラッと見るだけで特に話を振ってくることがなく…かといってオレに話をふれる余裕などなかったため、無言の状態が続いた。
「……」
「…………」
「おまたせしましたー、とろける恋のチョコケーキと、2人でラブパンチですー」
「あ、ありがとうございます」
「……っ」
やっと沈黙が破られたことにオレはほっとしたが、運ばれたものを目にして目を瞠った。
ラブパンチは飲み物だったらしく、小さな金魚鉢くらいの入れ物に炭酸ジュースがめいっぱい入り、その中に一口大の果物がごろごろと沈んでいて…そしてそこに刺さっている2人分のストローが…中央らへんでおおきなハートを形を作りながら合体し、下で1つにまとまっていた。
そしてチョコケーキはマシュマロと供に一口サイズに切り分けられており、別の小鉢にディップする用のチョコレートソースがたっぷりと入っていて…そして、ケーキをのせた大皿の上にはチョコペンで「あ~んをしてお食べ下さいv」とご丁寧にも文字とあ~んをしているニコちゃんマークみたいな絵が描かれていた。
「……まじかよ…」
思わずぽつりと呟いてしまったオレに決して悪気はなかった。
だってこんなものが現実世界に存在することにも驚きなのに、女性恐怖症を克服しきれてないオレにそれをやれというのか?
驚かないほうが無理である。
ぽつりと呟いたオレの言葉は、彼女の耳に届いたのだろう。
「……こういうの苦手?私もここまでとは思ってなかったからちょっとびっくりした。たのんでみたかっただけだから、無理してこんなんしなくていいからね…!」
そう言って彼女はフォークでチョコケーキをとり、そのケーキでチョコペンで書かれた文字や絵を消すようにチョコをつけると、自分の口へと放り込んだ。
「…うん。おいしい。優斗君も食べてみ?」
そう言った彼女の笑顔は、初めてオレに会った時に見せてくれたものよりどこか寂しそうに見えた。
(……こんな顔させるなんて…)
オレがいくら女性恐怖症だったとしても、お客である彼女にとっては知らないし、関係のないことだ。
オレとデートをするためにお金を払って来てくれたのに、オレは何にも楽しませられてない。
テーブルの下で震える手にぎゅっと力を込めてから、ケーキを取って、チョコソースをつけた。
「………1回だけだな」
そう言って彼女の口の前へ差し出すと、彼女はきょとんとしてから嬉しそうに笑った。
その後ジュースも少しだけだけど何とか一緒に飲むことに成功。(自分で自分を褒めたい)
デートは1時間と決められていたから、食事に悪戦苦闘してるだけであっという間に終わった。
「今日はありがとう。本当に楽しかった」
「……そうか」
そんな風に言われても、どこがどう楽しんで貰えたのかオレには理解できない。
たった1時間のことなのにどっと疲れ、やっと終わる…!ということで頭の中がいっぱいになっていた時、彼女がもじもじしながらぽつりと呟いた。
「……また、デートお願いしてもいい?」
「………っ」
その言葉に、オレは呆然とした。
今日を乗り切ったことしか考えてなかったが、有料彼氏をやる以上は今後もこんなことを繰り返していかなきゃいけないのだ。
固まったまま何も返事ができないオレに拒否されたととったのか、
「ごめんなさい…じゃあっ」
彼女はそう言ってオレに背を向けて歩き出した。
(あぁ…やばい…っ)
「………里子っ!」
「……っ」
慌てて呼び止めたものの、その後の言葉を考えていない。
「あ…え、と…………またな」
「……っうん…!」
彼女がぶんぶんと手を振りながら笑顔で去っていくのを見て、最後の言葉は正しかったのだとほっと胸をなでおろす。
女性はやっぱりまだ苦手だが、それでも自分が悲しい顔をさせてしまうのは辛かったし、自分といて笑顔になってもらえるのは嬉しかった。
(良かった、良かった…)
ふぅとため息をついていると、ぽんと誰かに肩を触られたため、バッっと振りほどくようにして後ろを振り向いた。
「……あ…」
そこにいたのはオレをどこからか尾行していた社長だった。
「はぁ…やっぱ優斗君にはまだ早過ぎたね。せめて不意に触られても大丈夫になってからじゃないとダメだったかな…。彼氏のはずなのに全然彼女に優しくできてないし…あーあ…苦情確実だわこれ。謝罪入れとかないと…」
社長は見たことないほど遠い目をしていた。
「…いや、その…これでも頑張ったんですけど………すみません」
あそこがダメだ、あれは何だとダメ出しをされまくり、とぼとぼしながら会社へ戻ると、事務所にいた女性社員が立ち上がってオレたちを出迎えた。
「社長、優斗さんお疲れさまでした!今日の彼女から早速感想が届いてますよ!」
「あー…★1つくらいはある?流石にオール0とかは勘弁だよ…」
「…………すみません」
「それが、すごいんですよ!見て下さい!」
そう言って彼女は自分のデスクへ手招きし、パソコン画面を見せた。
「見て下さい!全部★5なんです!今まで研修生でこんなことなかったですよー!優斗さんなにやったんですかー?」
「…え……?」
オレと社長は2人で目を合わせた後にパソコン画面をガン見。…本当に全部★5がついている。
(……里子さんは星の付け方わかってないんじゃないか…?)
そう思って感想コメントに目を向けると
『 まず実物が写真以上にカッコよすぎて大興奮…!クールな感じかと思いきや、ところどころ出てくる小さな優しさに、胸がきゅんきゅんしっぱなしでした(///v///)これがツンデレというものなのでしょうか?!今までにない新しいタイプの彼氏でした!もう優斗君以外の彼氏は無理! 』
「……まじで…?」
「うそ…なんで……」
オレも社長も開いた口が塞がらなかった。
「…ん~~~~…有料彼氏には常に彼女優先で優しくできるようにさせてきたのに…私の評価で言ったらカッコいいとか外見以外は優斗の★なんて0なのに…なんで?!全員が優斗みたいなのだと困るけど、アブノーマルなヤツとして優斗みたいなのがいるのは、それはそれでありってことなのかなぁ?……あと何回か研修デートして、評価が良ければこのまま直さず有料彼氏になるか!」
「え…!マジですか…」
「マジです」
そうして数回研修デートを重ねたが…オレは相変わらず彼女の腕を払ったり、ぶっきらぼうに返事をしたり、自分から会話をしなかったり…社長からの評価は一向に上がらなかったが、彼女たちからの感想は相変わらずのほぼ★5だからけで
『 冷たいのに愛情を感じるところがすごい!また会いたい!v 』
『 オレ様なところが最高ーvイケメンすぎてなんでも許せてしまう…まじカッコいい 』
『 ツンツンツンデレがたまらない! 』
と、オレの対応がなぜかオレ様やツンンデレとして評価されたらしい。
そして社長はオレを有料彼氏として正式に登録し、何故かあっという間に会社の有料彼氏の1番人気になってしまった。
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