【10分で読める】砂の最新ゲーム機
@kudo-ryoutaro
【10分で読める】砂の最新ゲーム機
――早く……早く家に帰らなくちゃ……――
僕たちは、近所のゲームショップを出て、急いで自転車を走らせた。
目的は決まっている。
今さっき買ったこのゲーム機で、ユウジと早く遊びたいからだ。
「なんか……ワクワクしてきた。」
親友のユウジは、自転車をこいでいる僕の腰を掴みながら、自転車の後ろに立ち乗りして、そう言った。
中学生の二人乗りは禁止されているけれど、僕らは特別だ。
今日、ユウジは最新のゲーム機を買った。
それも、特別なゲーム機だ。
ユウジは、お年玉を使わないで取っておいた。
さらに、今年のお盆に帰省した時、田舎のおばあちゃんからお盆玉ってやつを貰って、ゲーム機購入の目標金額に到達した。
どうやら、人間の年寄りは孫に甘いみたいだ。
僕は、20分程自転車を走らせた。
しばらく走っていると、青い屋根が見えたから、キキーッ。と自転車のブレーキをかけた。僕らは無事に、ユウジの家に着いた。
家に着いたら、ユウジは、ただいまー、と言って玄関から自分の部屋に、急いで駆け込んだ。僕は、いつも通りユウジが脱ぎ散らかした靴を、キチンと揃え直してから後を追うように、ユウジの部屋に向かおうとした。
その時、僕はユウジの母親に声をかけられた。
「あら、おかえりなさい…。いつもありがとうね。
んもぉ~。ユウジったら、自分の靴くらい揃えて家に入ればいいのにぃ……。」
少し、教育ママだけどユウジの母親は良い母親だ。
礼儀正しく、教育熱心で、いつもユウジの将来を考えている。
僕は、ユウジの母親に軽く会釈をしてから、ユウジの部屋に向かった。
去り際に母親の心拍数をサーチしたら、母親の心拍数は85前後だった。
さっきまで、洗濯を干したり、家事をしていて少し疲れたのだろう。
少し早めではあるが、成人女性の平均値だ。僕は安心した。
部屋では、さっそくゲーム機を開封しているユウジがいた。
僕も、ユウジの部屋の、空気清浄機のスイッチをオンにしてから、一緒にゲーム機の開封を手伝った。
ユウジは、「おお! すげぇ! ホントに砂が入ってる!」とはしゃいだ。
ユウジは、大きめのビニールに入っている砂を、付属の50センチ四方の平べったい黒い容器に入れた。
どうやら、その容器自体がゲーム機本体になっているようだ。
説明書を読みながら、黒い容器内に浅い砂場を作るように、砂を丁寧に敷き詰めた。
ユウジは付属のガラスドームを、僕に渡して「これかぶせといて」と、砂が敷き詰められた黒い容器にかぶせるように言った。
僕は言われるがままにセットした。
ユウジは、ゲーム機の説明書に釘付けだった。説明書には、ゲーム機の名称説明から、特徴がすべて書いてあるそうだ。
どうやらこのゲーム機は、従来の「液晶画面につないで遊ぶ」というものではなく、透明のガラスドーム内に敷き詰められた砂が、プログラム通りに一斉に動いて建物や人の造形を一瞬で行ってくれるらしい。
つまりガラスドームの中に本物のキャラクターが生きているように動くわけだ。
もちろん、一度造形が作られたら終わり…。というわけではなく、従来のテレビゲームのように、次から次へとキャラクターが動き、全てリアルに表現してくれるらしい。
すごい。
ちなみに、操作は従来のゲームと同様のコントローラーを使うんだって。
ガラスドームの前面にはゲームのステータス情報を見る小さい液晶が付いてるけどあくまでメインは、「ガラスドーム内の砂」だ。
僕は、あらかじめダウンロードしておいたゲームソフト情報をゲーム機に読み込ませ、ゲーム機の電源スイッチをオンにした。
――パチッ――
すると、ガラスドーム内の砂が、浮き上がりゲームメーカー名が浮き上がった。
世界的に有名な日本のゲームメーカーの名称がピローンという音と共にガラスドーム内に浮き上がった。
このゲーム機のすごいところがこれだ。
砂を空中に浮かばせる事ができるのだ。
ただ、砂を動かす事は、これまでも磁力とか使ってできていたけれど、空中に浮かばせる事はどんな技術力を持っても出来なかった。
どういう原理かはわからないけれど、僕らには目の前に起こっている砂が動いている、それがとても不思議に見えた。
まさに、化学の力ってすげぇ。ってやつだ。
――砂が中に浮いて、文字になる――
それだけで、僕とユウジは。おお、と、小さな歓声を上げたんだ。
ちなみにスピーカーはもちろん、ゲーム機に内蔵されている。
9.1チャンネルのフルサラウンドシステムだ。
続けて、ゲームソフトのタイトルが表示された。
不思議なことに、そのタイトルには白ではなく、着色されていた。
購入した時、ゲーム機に同封していた砂は、真っ白な砂だったのに、どうやって色がついたのだろう?
僕がそう思ったと同時にユウジは、説明書を読みながら言った。
「ふぅん……、ガラスドームの天井に極小のプロジェクターが付いてるんだってさ。で、それがプロジェクションマッピング装置になって、砂に色を投影しているんだって……。なんか……すげぇ。」
僕は、なるほど……と、うなずいた。
確かにそれならば納得だ。
そして、ゲームのオープニングが始まった。
内容はよくある、お姫様が悪者にさらわれて、主人公が助けに行く話だ。
小さな、親指くらいのサイズの砂で作られた人形がガラスドーム内で、見事な演技をする。
もちろん、音声や音楽、効果音も出る。
今までのゲーム機では、どれだけ迫力のある演出やエフェクトで演出していても、所詮は液晶画面内の出来事だった。
でも、このガラスドーム内で起こっている事は、目の前で現実にある ”物体” だから僕たちは、単純な話でも、思わずのめり込んでしまったんだ。
単純な話でも、ゲームソフトのローンチタイトルとしては、成功だと思う。
今後、もっと凄い表現をするソフトが出るんだろう、と少しだけ楽しみになるからだ。
砂で出来た人形達の劇がひとしきり終わると、いよいよ冒険のスタートだ。
ユウジは、コントローラーを握りしめΣボタンを押した。
すると、ガラスドーム内の人形がジャンプした。
プロジェクションマッピングで、効果的なエフェクトも追加される。
敵を倒す時は、Ωボタンで剣を振れる。
ユウジが、Ωボタンを押すと、主人公のキャラが、敵を攻撃し目の前の敵が激しく粉々になった。
これがいつもの液晶画面内での出来事ではなく、実際に、ガラスドーム内で、敵キャラが粉々になっている。
砂は、他の砂とは違い、ゲーム機専用のものらしく、かなり粒子が細かい為、内蔵や骨までも表現されている。
プロジェクションマッピングの精度だって抜群に良い。
その光景は、今まで見たどのゲームとも違い、リアルだった。
砂の動きは、従来のゲーム開発と同様にプログラムで動いている為、今までのゲーム制作技術も活かされているらしいけれど、これまでのゲーム機は嘘っぱちだ。と思うくらい、衝撃だった。
ユウジはしばらくそのゲームに夢中だった。僕はその光景を眺めていた。
すると、ユウジは、こんな事を言った。
「おもしれぇな。マジで。そういや、他にもあるかな?ちょっと、他のゲームも探して見ようぜ。」
そう言って、僕の肩にUSBケーブルを挿してそれをゲーム機と繋いだ。
更に、僕の腹部にある液晶タッチパネルに指でなぞるように、
ユウジはインターネット上で販売している違うソフトを探し始めた。
常にインターネット接続状態にある僕を経由してユウジは新しいソフトを探そうとしているわけだ。
「あ、ショーンも探すの、手伝ってよ。中学生にオススメのゲームとかさぁ。。」
ショーンは、僕の名前だ。
人型ロボットであるユウジの所有物。
僕は、常に、ユウジのそばにいる、パーソナルロボットのショーンだ。
もちろん、家族全員の健康も管理している。健康管理ロボットでもある。
インターネットにも常時接続している、万能ロボットってわけだ。
●
僕は言葉が発せない。
でも、その代わりに、液晶パネルに文字を表示させる事が出来る。
僕は、中学二年生のユウジに、アダルトゲームを紹介した。
インターネットで【中学二年生が本当にやりたいゲーム】と検索すると、皆アダルトゲームに興味があるようだから、ユウジもそうじゃないかな、と思ったんだ。
ソフトをダウンロードして、起動すると、見事にユウジは、ハマった。
ガラスドーム内の砂の造形がこれまで以上にリアルになり、人間の男と女が現れた。
そして、その人間同士が交尾を始めた。
ふぅん、犬やライオンよりは動きのレパートリーが多いんだな。
ゲームで言うところこの”多彩なアクション”ってやつだ。
そうか、人間はある程度の年齢になると種の保存プログラムが作動して、同族同士の生殖行為に興味を持つようになるのか。
たしかに、それは本能として正しい。
その証拠にユウジはガラスドームに食いつくように魅入ってる。
ユウジは頑張って学習しているようだ。
頑張れ!ユウジ!
音だって、サラウンドシステムをフル活用していて、男女の声が部屋中から聞こえる。
すべてにおいて、これまでの液晶動画なんかよりも、リアルだった。
ユウジの心拍数をサーチすると、心拍数は80…86…92…108…112…120。と
どんどん上がっていく。
ヨダレまで、垂らし始めた。ああ、みっともないなぁ。
あれ?でも、心拍数が上がり過ぎるのって体に良くない事じゃないのかな。
僕はそう思って、ゲーム機の電源をオフにしようとしたんだ。
健康管理ロボットだからね。僕は。
でも、その時、階段を上がる音が聞こえた。
僕は、半径30メートル以内だったら、生体認証もサーチ出来る。
サーチのデータ結果からすると、ユウジの母親だ。
きっと、息子の部屋から人間の交尾の音声が、
大音量のサラウンドで流れているから心配になって様子を見に来たんだろう。
まだ中学2年生のユウジに勝手に子孫をふやされては困るからだと思う。
お母さん、大丈夫だよ。これはゲームなんだから…。
そう伝えようと、僕は腹部のタッチパネルに、<ママさん。安心してください。ユウジは正常です。しかし今は学習中なだけで興奮気味なのです。お気になさらず>という言葉を表示させた。
母親は、部屋に入るなり、ユウジがゲーム機に向かっているのを見つけた。
と同時に、叫び声に似た声で言った。
ああ、僕のせっかくの言葉なんて目に入らないようだ。
「きゃあああああ! ダメよ! ユウちゃん!」
そう言って、ユウジが見ていたゲーム機を、お母さんは取り上げた。
ユウジは、ちがうよ。ちがうんだよ。と、ふてくされながら、うつむいて言った。
それから、少し恥ずかしそうにしていたけれど、しぶしぶ納得したんだ。
でも、ユウジの心拍数は、さっきよりも落ち着いていた。
うん、良かった。これで、一件落着だ。
人間は心拍数が上がり過ぎると良くないからね。
お母さんも人間の交尾は苦手なようだし、きっとユウジの心拍数がこれ以上、上がるのが心配だったんだろう。
でも、その夜、少し不思議な事があったんだ。
僕の聴覚機能は、動物以上で、どんな、音でも半径30メートル以内だったら、判別出来る。
だから、泥棒とか夜中に侵入してもすぐにわかるんだ。
健康管理ロボットとしても優秀な僕だけど、防犯ロボットとしても優秀なんだ。
で、不思議な事っていうのはさ……。
実は、もう夜中なのに1階で寝ているはずのユウジの母親の部屋から、ゲーム機の電源がオンになる音がしたんだ。
――パチッ――
もちろん、ユウジは寝ている。
息子にゲーム機を返すのは、明日だっていいはずだ。
少し心配になって、生体認証と心拍数をサーチしたんだ。
もちろん、ユウジの部屋からこっそりね。
僕は半径30メートル以内だったら、360度どこでもサーチ出来るロボットだからね。
結果は……。あれ?
お母さんの心拍数が上がっている。
心拍数は80…86…92…108…112…120……。
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