第20話 枯原の盗難自転車のかをり

悪夢はさらに続いた。二〇〇二年の秋、藤田湘子の指導句会で、私の投句作を評して藤田湘子が、俺の作品の剽窃だと断じたのだ。二百名を超える「鷹」会員の前で、である。しかし藤田湘子が提示した湘子作は、失礼ながら藤田湘子の作品として人々に知られている作品ではなかった。そもそも盗むより以前に、私はその藤田湘子作を知っていなかった。確かに言われて見れば、私の出した句は藤田湘子の句と文脈はよく似ていた。しかし盗作と断言されるほど近似したものでもないと思われるものだった。にも関わらず、衆人環視の中で、私は藤田湘子に盗作者扱いをされてしまった。心の中で、張詰めていた糸がぷつりと切れる音がした。

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