美少女JCとお散歩デートするだけの甘酸っぱくて楽しい物語

冷泉 小鳥

第1話 女子中学生は僕のために働いてくれるようです

 僕の名前は浅羽 悠。道端に転がっているような、極めて普通の男子高校生だ。性欲は旺盛。趣味は、JCを眺めること、JCの匂いをおかずに白飯を食べること、JCに首輪を付けてお散歩させることを妄想すること、などなど。まあ、この程度の夢を見るのは、男子高校生であれば当然のことだと思う。そう、僕は常識の枠内から1歩もはみ出さないような、とても普通の人間だ。


 学校での成績は上の下。良くもなく悪くもない、特にコメントする必要のないものだ。学校においては、いつでも十分な数のJCが供給されている。だから、僕は辛いときも悲しい時も、真面目に勉強を続けていくことができる。いい学校に入り、いい企業に入ることができれば、いいJCを買うことができる。


 ああ、想像するだけで涎が出そうだ!人生はこんなにも素晴らしい!まるで、モノクロの世界が突然色付いたような喜びが、僕の内側、集合的無意識とでも呼ぶべき場所から湧き上がってくる。そうだ、これは僕を構成している遺伝子たちの喜びなのだ!残念ながら、過去の貧しい世界においては、十分な数のJCが供給されることはなく、男たちはいつでも飢餓状態で苦しみ喘いでいた。


 ああ、貧乏とは嫌なものだ。僕の視線の端に、薄汚れたホームレスの姿が映った。中卒で就職しようとした、惨めな連中の1人だろう。ホームレスは必死にJCの髪を拾っている。リサイクルショップにJCの髪を持っていけば、少しだけ収入を得られるからだ。もっとも、道にはJCの髪の他に男の髪も落ちており、愚かなホームレスにはJCと男の髪質の違いすら見分けられないようで、なかなか利益は得られないようだ。


 これだから、無教養な人間はダメなんだ。JCの髪の色、硬さ、手触り、香り、オーラなどのものを感じ取るのは、義務教育でも教わる程度の一般教養ではないか?きっと彼らは、真面目に授業を受けることもなく、教師の声を聞くこともなかったのだろう。まったく、ホームレスにだけはなりたくないものだ!


 ……嫌なものを見てしまった。こういう時は、JCを眺めてストレス発散するに限る。今週はコンビニでアルバイトして2万円稼いできたので、JCを購入することができる。客だと期待して僕に話しかけてきたJCに、「ごめん、冷やかしなんだ……」と答える時ほど虚しい瞬間はない。そういう時は、JCの慰める声を聞きながら、自己嫌悪に浸ることになる。金を払うこともできない僕に、JCは優しい声をかけてくれた。僕の頭を、その白く細い手で撫でてくれた。それなのに、この僕ときたら。


 僕の視界の中に、和装メイド姿のJCの姿が映った。よし、今日はこの子にしよう。最近は、和装メイド風の制服が流行しているそうだ。それだけ、JCに奉仕してもらいたいと思っている男性が増えた、ということだろう。最近の「J回帰」ブームと、曖昧な西洋趣味の合同制作によって、和装メイドは作られた、と言うと、より正確かもしれない。しかし、僕はJC研究の専門家ではなく、ただの一男子高校生に過ぎない。まだまだ学ぶべきことは多く、分からないことは数多い。


 少女はまるで、天使のような美しさを湛えていた。……いや、この表現は正確なものではない。ああ、僕の表現力の低さが恨めしい。みんなJCを見る度に、ただ「天使」としか形容しない風潮があるけれど、僕はその風潮に異を唱えたい。確かに、JCは工場において大量生産品であることは事実だ。しかし、彼女たちにはそれぞれ個性があり、独自の人格を持っている。同じ生産ラインで作られた少女であり、同じような服を着ていても、皆少しずつ違っている。そう、この細やかな差異が「個性」として称揚されるべきものなのだ!


 少女の背丈は小柄で、やせ気味の体型をしていたが、胸と尻だけは極端に膨らんでいた。最近では、マーケティング結果により、「貧乳はステータスだ」というのは幻想、あるいはニッチな趣味であることが判明した。爆乳JCの売上は巨乳JCより高く、巨乳JCの売上は貧乳JCよりも高かった。そういうわけで、現在生産されていて、かつ路上にいるようなJCの大半は爆乳だ。探せば貧乳JCだっていないことはない。しかし、いくら「胸に貴賤はない」と嘯いている僕にとっても、やはり爆乳JCは貧乳JCよりも魅力的に映る。


「やぁ!」

 これは僕の挨拶。最初の挨拶によって、JCとの関係性はある程度拘束されてしまう。僕はどちらかといえば、このJCとは主従関係ではなく、恋人関係のような気安さで付き合いたかった。


 もちろん、僕とJCの間には、越えられない壁が存在する。僕とペットの犬が平等でないことと同じように、僕とこのJCもまた平等ではない。かつては、犬と同じように、JCの衣服着用が禁止されていた時代もあったが、全く時代錯誤も甚だしい。


衣服の多様性はJCの多様性を意味し、JCが多様であればあるほど、人間は幸せであることができる。家具が多機能であればあるほど良い事と同じように、JCの衣服のバリエーションも多い方がいい。


 もちろん、何事にも例外はあり、シンプルな裸装のJCのみを求める層も存在する。だが、僕はそのような老害の意見には与さない。なぜなら、僕は服を着ることを許されず、雪の中で寒そうに震えているJCの姿を見たことがあるからだ。JCの飼い主らしき老齢の男はその光景を笑って眺めていたが、善良な心を持つ健全な男子高校生である僕は、その光景を涙なしで眺めることはできなかった。


 僕はJCを愛してあげたいと思っている。もし僕がLCを飼うなら、その時はちゃんとJCにご飯をあげたり、散歩に連れていったり、遊んで行ったり、可愛がったりしてあげたい。「JCには厳しい躾が必要だ」と言って鞭で叩いて喜んでいるような人々もいるけれど、僕は絶対にそんな酷いことはしない!


「いらっしゃいませ。ご主人様希望ですか?」

 機械的な、澄んだ綺麗な声が聞こえた。まるで、風鈴が歩いて音声を奏でているような印象だ。このように、最近は「リアリティ」という概念を放棄し、技術進歩の成果を誇示するようなJCが増えてきている。とてもいいことだと思う。「倫理」や「道徳」のようなくだらない物のために、科学の進歩を止めてはいけない。


「いや、恋人希望だ。できるよね?」

 僕は財布を取り出し、2万円を見せた。これは路上に立っているようなJCとお散歩デートするのに十分な額で、よほど特殊なシチュエーションさえ要望しなければ応じてくれる。これがもし1万円だと、場合によっては首を横に振られたり、シチュエーションを制限されたり、デート時間が短くなったりする。


 金を倍用意するだけで全てがスムーズに進行するようになるので、僕は大抵JCを2万円で買っている。僕の同級生には、JCをワンコインで買おうと奮闘している奴もいる。「金を持っていないと分かった時の、あの心の底から蔑むような視線がたまらなく、つい射精してしまった」とは本人の弁。流石に高レベルすぎて、ごく普通の男子高校生である僕にはついていけない。

「はい。かしこまりました」

 JCはスカートを摘み、優雅に一礼した。スカートは膝上××cmであり、少し動くだけで下着が見えてしまいそうだ。JCはとても活動的なので、運動を制限しないよう、スカート丈は短めであることが望ましいとされている。真冬であっても、短いスカート+ニーハイソックスで頑張っているJCはよく見かける。


「ところで、君の名前は何?こっそりと、でいいから教えてよ」

 JCは僕の耳に唇を近づけて、吐息混じりに僕の要望に応えてくれた。僕の耳はとても幸せだ。僕も幸せだ。全てが幸せに満たされていた。

「フィア、です」

「そう、いい名前だね。僕の名前は浅羽 悠。『ユウ』と呼んでくれ」

「わ、わかりました、ユウさま……」

「違う、そうじゃない。敬語はいらないから、普通に話してくれ。僕とフィアは恋人という設定なんだから、敬語はおかしいだろう?」

「う、うん、分かった、頑張ってみる」


 フィアはまだ、JCとして生まれたてのようで、客との会話には慣れていないようだった。これはこれで、初々しいカップルらしさが自然に感じられると考えれば、悪くはない。しかし、この調子だと僕がデートスケジュールを決めた方が良さそうだ。

「じゃあ、まずは映画館に行こうか」

 僕の言葉を聞いて、フィアは怪訝な顔をした。

「え、えいがかん、ですか?」

 JCは生まれてくる時点で、必要な知識はインストールされているが、それらの知識が沈殿して実生活に活用できるようになるためには、しばらく経験を積まなければならない。JCはコンピュータではなく生きているので、情報インストールの効率はコンピュータと比べると良くない。もっとも、JCのかわいらしさ、美しさ、暖かさ、そしてこの甘い匂い!これらの物はJCの持つその他の欠点を補って余りある。


「そう、映画館。フィアだって、映画館に行くのはデートコースの定番だってことは、よく分かってるだろう?」

「は、はい。でも、映画館に行くのは今日が初めてで……」

 フィアは頬を赤らめ、俯いてもじもじと身体を震わせている。どうやら、フィアは恥ずかしがり屋な性格のようだ。この性格は仕事の効率を落とすにも関わらず、男性諸君からの熱狂的人気によって支持されており、遠い未来に至るまで消える心配はない。

「心配しなくていいよ。怖いところじゃないから。僕が優しくリードしてあげるから、心配しないで」

 僕はさりげなく、フィアの空いていた手を握る。フィアの手は、マシュマロのようにふんわりとしていて、僕愛用の羽毛布団よりも暖かかった。

「あっ、あの、そのっ……」

 フィアは戸惑い、手を振りほどこうとしていたが、本気で嫌がっている、というよりは、戸惑っているだけみたいだ。そもそも、手を握ることに耐えられないJCというのは、流石に特殊嗜好に含まれるので、専門店に行かなければ発見できないと思う。でも、僕はまだ社会人ではなく、ごく普通の男子高校生に過ぎない。男子高校生にできるのはアルバイトだけで、時給は安く固定されている。専門店に通い続けるほどの余裕は僕にはない。また、僕のようなスタンダードな性的嗜好を持つ者が、専門店にわざわざ通うメリットもあまりない。結局、路上で客待ちしているJCを買うのが一番という、いつもの凡庸な結論に達した。


「そうだ。ソーダを口移しで飲ませてあげる。ソーダさえ飲めば、フィアの不安も静まると思うよ」


 僕は空いていた手を使ってトートバックからソーダを取り出し、自分の口に当てた。そして、ソーダを口に含み、適度に温まったソーダ入りの唇を、フィアの口ブルへと近づけていった。フィアは嫌がる様子を見せなかった。当然のことだ。合法ドラッグとして有名なソーダの誘惑に打ち勝てるJCなど存在しない、といっても過言ではない。

「ん……んむ……ちゅ……」

 フィアは、僕の唾液とよく混合されたソーダを、無我夢中で飲み込んでいる。

「はふぅ……あ、あの、もっとソーダ飲みたいれす……」

 フィアの瞳はとろんとしており、先程までの緊張はもう解消されていた。やはり、ソーダは素晴らしい。ソーダは男性に対しても適度な快楽をもたらすが、JCに対しては効果絶大で、ほんの1滴飲ませるだけでそのJCの人生を永遠に変えてしまうことができると言われている。ソーダを飲まされるだけで、どんなJCであっても反抗心や敵対心といった邪悪な心を取り除くことが可能だ。


「はい、どうぞ」

 僕はソーダのペットボトルをそのまま手渡した。これは、僕からフィアへのサービスだ。そもそも、僕は映画館デートの予定でここに来たのであって、こんな路上で口移しして時間を潰すためではない。腕時計を見ると、次の上映開始時間は着実に近づいていた。急ぐ必要があった。

「え、いいんれすかぁ?」

「もちろん。これは僕からのご褒美。さて、映画館に行こうか」

「はい!」


 数分後、僕たちは映画館に到着した。フィアは僕にお姫様だっこされながら、ソーダをのんびりと飲んでいた。ソーダには一時的に運動能力を低下させ、全身を半強制的にリラックスさせる効果がある。歩く前にソーダを飲ませたのは、間違いだったかもしれない。しかし、ソーダを飲んでいる、フィアの幸せに満ちた表情を見ると、「これで良かった」という思いも浮かんでくる。この2つの感情は矛盾しているように見える。だが、それでいいではないか。感情とは元来矛盾したものなのだから……。


「どんな映画を見たい?」

「……ユウが決めて」

「じゃあ、このラブロマンスにしよう」

 その映画のパンフレットを見る限り、「ロミオとジュリエット」をハッピーエンドに改変したような、よくある物語のようだ。やはり、バッドエンドは映画としてはあまり人気がない。映画館から出ていく客が、皆すっきりした表情であるのが理想ならば、ハッピーエンドは正しい。僕はバッドエンドで終わる映画も嫌いではないが、どちらかと言えばハッピーエンドの方が好きだ。もちろん、僕の人生はバッドエンドではなく、ハッピーエンドであってほしいと願っている。




「面白かったね」

「はい。……2人が無事に結婚できて、本当によかったです……」

 僕たちは、映画館から出た後、喫茶店で映画の感想を語り合っていた。途中から、フィアがぽろぽろ涙をこぼし始めたので、あまりに面白くなかったか、と不安になったが、杞憂だったようだ。2人の男と1人の少女を軸に回転する、最小限の舞台装置とキャラクターによって演出された低予算映画であっても、ストーリーには人を感動させる力があった。本格的なオーケストラが導入されていた音楽も良かった。幻想的に世界を彩るCGも美しかった。総じて、金の使い所を間違えなかった良作と言える。この映画のストーリーラインはありきたりなので、歴史に残るものではないだろうが、見た人の記憶の中には一生残り、何か暖かい物を残す、そんな映画だった。


「ああ、2人の結婚を見届けて、2人の親友であり、仲人であり、恋敵でもあった男が拳銃自殺する所では、僕も涙が出たよ」

 こうして1時間ほど、僕たちは映画の話で盛り上がった。しかし、楽しいデートの終わりは、すぐそこに迫っていた。映画館デートの場合、相場は映画+1時間+α程度。JCの拘束時間を考えると、妥当なものだ。


「えっと、もうそろそろ時間みたい。どうするの?延長する?」

 どうやら、この後のフィアは特に予定がないようだ。延長は大抵、新規にJCを買うより安くなっている。だから、時間単価だけを見るなら延長した方が得なのだが、あいにく手持ち資金はもうほとんどなく、バイトの時間も迫っている。


「ごめん。今日は予定があるから。あ、そうだ、メールアドレス交換しておこうか」

「……また私を買ってくれたら、とてもうれしいです」

 こうして、僕はフィアのメールアドレスを手に入れた。そうは言っても、フィアの側からメールを送られてくることは、あまりないと思う。JCが男性に勝手にメールを送り始めると、複数人のJCとお付き合いしている場合に男性側が大変なことになるからだ。うっかりメールの送り先を間違えて関係破綻、といった笑えない事件が起こったのを期にJCメール規制法案が提出され、賛成多数で可決された。その結果、JCが無断で男性にメールを送ることは、直接罰則を受けることはない(ペットを裁く方がないことと同じように、JCを裁く法もまた存在しない)代わりに、社会的に望ましくないこととされた。法令違反を繰り返すJCは路上営業を禁止され、法令違反JC専用施設に送られ、様々な懲罰を受けるという。まあ、アブノーマルなプレイに興味のない僕にとっては、一生行かない予定の場所だ。


「ありがとう。デート楽しかったよ。また指名するからね」

 そう言い残して、僕は去っていった。

「は、はーい。お待ちしています……」

 最後にもう一度振り返ると、頭を下げ一礼するフィアの姿があった。

 その姿を網膜に焼き付けて、僕は雑踏へと紛れた。





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