みんなが森に身を投げた
TNネイント
第1話
ここは、地球とは遥かに遠い宇宙にある異世界「カナエア」。
文化水準は、50年ほど前の西部ヨーロッパと同レベルとされる。
実際、カナエアでも鋪装された道路の道やテレビ局は増えた。
それでいて魔法や魔物の概念が残っており、様々な種族が生息し、地球よりは文化水準は低いこの世界―――――。
だが、地球人で知っているという人物はいなかった。
そもそも、地球の故人で召喚された例が少なかったのだ。
その上、カナエア人の間では、地球でいう「都市伝説」に相当する噂があった。
それは、「カナエアで唯一の召喚士のいる場所の周辺の森に、恐ろしい魔法使いがいるらしい」というものだ。
どう恐ろしいか等は「人を魔法で殺す」くらいしか触れられていないか無視かのいずれかだったため、嘘の可能性が高かった。
が、その噂が真実味を帯びるきっかけになる事件が起きた。
ある日地球とは違う世界からカナエアに召喚された人間が、何者かに森の中に誘われて行方不明になっていたのだが、それが遺体として発見されたというものだ。
その犯人が、今作の主人公でもある「ココラ」だ。
鮮やかな緑髪のショートヘア、緑の生い茂る木と鉄で作られた斧と槍と杖を組み合わせたような武器。
地元の一部では、「回復魔法使い」として親しまれていた。
そんな彼女が、何故召喚された人間を殺し続けたのか?
これは後に、「トリップアゲイン事件」として語り継がれる事になる物語―――――。
―――――――――――――――
地球の西暦で2016年のカナエア東部、「アルチ国」。
魔術と技術が共存する、「テマー大陸」のそこそこ大きな国。
電気で動く、電話に近い機械「テスフ」を介して、違う地域の人間とコミュニケーションを取る事ができるようになった。
通貨は紙に相当する「ネーフェ」で作られたものと、銅で作られたものが存在するが、「ネーフェ幣」の方が広く流通している。
そんな国の西部の田舎「ランセ」にある大きく白い神殿のような建物に、カナエア唯一の召喚士「ジクルマ」が住む。
今日も、ジクルマは他の世界の死者を召喚する。
大小様々な線で形成される魔方陣。
その中心に立つ、白髪で体が良く、眼鏡をかけた男性。
それが、ジクルマという人物だ。
ぶつぶつ言っているように見えるが、これは召喚魔法の詠唱。
詠唱が終わると、どこからか故人が召喚された。
黒くぼさぼさの髪、少し黄色い肌、上下は横に白い線が入った青色のジャージ。
どこの世界から召喚したのかは分からない。
そんな故人を見て、ジクルマはこう言った。
「とんでもない事をやらかす予感がする……」
一方で、その周辺の森の中。
ここに、ある魔法使いがいた。
「
緑髪のショートヘアにピンと立っている毛、
砂漠でも無い限りは自然と同化していても分からなさそうな服装。
少し高い身長と、少し軽い体重。
そして、特徴的な形状の杖。
彼女は茶色の眼鏡のようなアクセサリーをかけながら、とても分厚い本を朗読している。
拾い物と思われる緑色の鳥の羽根を栞代わりにして本に挟むと、杖を両手で握りしめて魔法の詠唱を始めた。
「
デタラメにも聞こえるだろう単語の数々を呟いていると、周囲に緑色の魔方陣が広がっていく。
実は、これらの単語は「メデルソ語」というアルチ国民の8割が使用する言語。
アルチ国の公用語でもあり、メデルソとは国民の間で語り継がれる「ルィフク神話」に登場する人物の名前である。
神話では勇者として登場し、単独で邪神・クォファースを打ち破ったという話で知られる。
詠唱が終わると、放射状に緑色の光が広がる。
すると、光に包まれていた木々の枝には、葉っぱや木の実が生え始めた。
それだけではなく、先程まで体調の悪かった動物が活発に動き始めた。
その様子を見た彼女は、こう呟いた。
「
一方、森から田舎への道では―――――
先程召喚された故人が立ち止まっている。
故人といえど、体は生前と全く同じなのだが。
故人は建物から出た先にあった、鮮やかな緑の光景を見てこう言った。
「ここが、新しい世界か……」
その故人の言語は、「日本語」というものだった。
地球の日本という国の人間がよく使う言葉という事は、カナエア人は知らない。
そんな中で、回復魔法の練習をしていた緑髪の少女が、先程の本を片手に担いで森から田舎への道に出てくる。
故人の男が歩き始め、しばらくすると―――――。
「うわっ!」
身体をぶつけてしまう。
「誰なんだ?」
故人は話を聞こうとするが、少女には伝わっていない。
「……?」
少女は首を傾げ、視線を左下に逸らす。
すると、頬を赤らめ始める。
「なんだよ、いきなり?」
メデルソ語では、「ダレナンダ」は「今夜ベッドで寝よう」という意味になってしまうのだ。
「
メデルソ語の分からない故人は、日本語を話せない少女に困惑する。
「何を言ってるんだ……?」
そんな中、少女は故人を森へと連れていこうとする。
左手を、右手で掴んで。
「
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