第34章 母からのメッセージ

 希はSNSへの書き込みの全文を紙に大きな文字で書き写すと、バッテリーの事もあるのでスマホは電源offし、全員のスマホをチャージャーを経由させて、店のコンセントに接続して充電開始した。ちょうど解読終了した頃には、充電は完了しているだろう、そう当初は思っていた。


希「さて、充電している間に、さっさと暗号解読してしまおう」

リキュール「え? じゃあ、希はもう解読プラン、頭にあるの?」


希「ノープランだ」


 リキュールを含め、全員がガクッとずっこけた。


スイート「おいおい、少なくてもそれ、希の母さんからのメッセージなんだろ? なんか、こう、“そういえば、母さん、昔、こんなので遊んでくれたなぁ”とか、ないの?」

希「ない。暗号解読なんて、リアルでやったことないし、見たことあるのは、推理小説程度だし」

黒崎「じゃあ、その“読んだことがある推理小説”の中に、似たようなのは無かったのか?」

蛭子「私達も頭を絞ってはいるのよ。でも、こういうのはなかったんだよね」

テンニャン「そうアル。推理小説なら、事前に色々ヒント有りきで解読まで行くから、意外に簡単な事も多かったアルから…」

希「俺も同じ意見だ。今回はヒントらしい文章も何もない状況で、ポンと出されているから、どこから手を付けて良いやら…」


 そんな中、黒崎は冷静に、紙に書き写された“書き込み全体”を眺めて、まず1つ1つ分析する事にプランを固めようと皆に提案した。


黒崎「とりあえず、書き込みした名前から考えてみる」

希「OK。“From_your_mother_to_you”、つまり、“あなたの母からあなたへ”。まぁ母さんからのメッセージだ、とわかりやすく、且つ、すぐに他の人にわからないように英語で書いたのだろうね」

スイート「うむ、納得だ。だが、その後が問題だ。英語とか他の言語で書かれているわけでもなく、この数字の羅列だ。どうしろと…」


 確かに、数字の羅列だ。救われるのは、数字だけで、1個1個“カンマ”で区切られている所だった。


1,18,1,25,1,4,15,20,15,20,15,23,5,18,4,5

13,1,20,20,5,13,1,19,21

6,21,13,9,5,25,15,18,9


希「うーん。段落分けされているのは、たぶん、文章化した後、文章を読みやすくするためだと思う。いくら何でも、解読したら、なんらかの文章に変化するんだと思うから」


 黒崎は、手をあごに添えて、少し考えてから、1つだけ閃いた。


黒崎「そうだな。希の言うとおり、母親はメッセージを残したのだから、この数字の暗号文は、少なくても解読すれば、文章になる。これは確定でいいな」

テンニャン「地図とか方角とか、そういうのには、なりそうにないアルからね」

スイート「アクセスポイントとか、ネットのアドレスも考えにくいな」

蛭子「? スイート、アクセスポイントとかネットのアドレスとかは、まだ捨てられないと思うけど。ネットを見た所へ来てくれ、ならメッセージよりわかりやすいし」

 

 スイートは持論を述べた。


スイート「いや、ネットに自分の位置の特定情報を置くのは危険だし、アクセスポイントだけなら、暗号化せずに、これよりずっと少ない文字数の数字だけ書いておけば、それで事足りるはず。それにネットのアドレスなら、英文字、数字、記号をアスキーコード変換して、コンピューターでよく使う“16進数”として書いておけばいいけど、それにしては、暗号文の数字は、最低数が1、最高数でも25だから、10進数の“255”迄のまま書かれているとは考えられないし、16進数として考えても、16進数のA~Fが使われていない。おそらく、アドレスとかコンピューター関連の数字じゃないよ、これ」


 そこで少し唸ったのが黒崎と希だった。


黒崎、希「英文字が使われてないかぁ~」


テンニャン「そうアルね。数字だけじゃ、そのままではダメアルね。何かに変換する必要がある、ということアルかなぁ?」

リキュール「英文字なんて、あるのは暗号文じゃなくて、投稿者名だけね」


 さっきから暗号文を眺めていた蛭子が、その言葉にピンと来た。


蛭子「ねぇねぇ。考えてみると、なんで投稿者名を“英語”にしたんだろうね? 秘匿重視の暗号文だから英語にしたのだとしても、“母から子へのメッセージ”って日本語で書いても、そんな名前とかタイトルなんて、いくらでもあるから、むしろそっちの方が、目立たないと思うけど…」


 徐々に核心に近づいてきた。そして謎に更に1歩近づいたのが、希だった。


希「わざわざ英語にしている・・・・・・か・・・・・あ!!! つまり、暗号文は英語に関係している!」

黒崎「なるほど! ヒントにそう書いてないのは暗号性を高めるためか!」


 そして更に1歩近づいたのが、スイートだった。


スイート「!!! 最低数1、最高数25、それで英語に関係するメッセージを書いているなら!」


 ここで全員わかった。


全員「アルファベット!!!!!!」


***


 全員が暗号解読に取りかかった。希は、アルファベットA~Zを紙に書き、そのアルファベットの下に、対応するアルファベットの順番の数字を書き込んでいった。


希「いちいち1個1個取りかかるのは面倒だから、重複するのも含めて、まとめて数字をアルファベットに変換していく。俺が暗号文の数字を読み上げ、スイートが対応するアルファベットを暗号文の数字の下に書き込んでいく。サクサク行くよ!?」

スイート「OK。頼む」


希「まずは当然、使用数が多い”1”」

スイート「当然“A”だ」

希「次に、“5”」

スイート「“E”だ」

希「“20”」

スイート「“T”」

希「“18”」

スイート「“R”」

希「“25”」

スイート「“Y”」

希「“4”」

スイート「“D”」


 希は全体を眺めて、あとは1つか2つ程度の使用頻度だったので、一気に読み上げた。


希「以降は重複ほとんどないから、区切ってゆっくりと一気に読む。スイート、いいかい?」

スイート「OK、良いぞ」

希「では。“15”、“23”、“13”、“19”、“21”、“6”、“9”」

スイート「えーと、順に“O”、“W”、“M”、“S”、“U”、“F”、“I”」


 これで、全ての数字がアルファベットに変換出来た。


希「行くぞ!」


***


ARAYADOTOWERDE

MATTEMASU

FUMIEYORI


 これを自分達が知っている単語で区切って、英語かローマ字で読めば良いのである。


ARAYADO TOWER DE

MATTE MASU

FUMIE YORI


 更に知っている“日本語”に変換すると、暗号文は完成する。


希「チェックメイトだ!」


アラヤドタワーで

待ってます

文恵より


***


 希は暖かい気持ちに包まれた。久々の“両親からのメッセージ”だった。


希「母さん…」

黒崎「そうか! 俺たちも文恵さんとの連絡はメールやSNSだったから、実は入ったことが無い! 文恵さんの拠点、“アラヤドタワー”のどこかだったのか!」

蛭子「タワーの上はガーディアンフェザーの目が届く範囲だから、おそらくタワーと言っていても、“地下”エリアでしょう」

スイート「正直、詳しくない。黒崎、蛭子、案内頼む!」

リキュール「いよいよ、私達のボスとのご対面、ね♪」

テンニャン「たぶん、行けば、関係者が巧く案内してくれるアル」


希「みんな、準備が終わったら、アラヤドタワーで母さんに会いに行くぞ!!」


 全員が拳を揚げた!


全員「おー!!!」

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