第31章 レッドホットチリトーストからからましまし
(某月某日 午前7:55 喫茶店『望名(ぼうな)』内 ホール)
正直、予想していた2パターンの中の信じたくない方だった。Ver.2.0なら、強敵かもしれないが、ある意味、戦いやすかったのだ。
確かに彼女は、ここから追い出される時に、あっさり希(その時は望)を捨てて、ver.2.0に鞍替えした。あげくに“ガーディアンフェザー”を含めて、この世界の真実を知っていて、何も動揺する事無く、ver.2.0を受け入れて、順応し、そしてこの“俺の”店をver.2.0と切り盛りしていたわけだ。
例え、自分の“元カノジョ”だったとしても、今の本音は、容赦しない、そう思いたいと思っている。
だが、美佳は、前も今も、ここの唯一の優秀なウェイトレスであり、元仕事上での相棒でもある。Ver.2.0のような、馬の骨とも知らない輩とは、正直違う。
だから、心中複雑なのだ。
希「美佳…、キミが元からガーディアンフェザーの刺客だとしても、後でそうなったとしても、正直、このままのスタンスでは戦いたくないし、戦うのなら、せめて、“いきさつ”だけでも教えてくれ!」
デイライトガン“魅了銃『リリシアン』”の銃口を希達に向けていた美佳は、条件付きで、その要求を飲むことにした。
美佳「全員、銃口を下に向けること。机上に置くまでは言わない。それとムーンライトガンは限界突破を解除すること、黒崎のデイライトガンは拘束モードに切り替える事。攻撃意思がない事が確認出来れば、私も銃口を下に向けて、事情を説明することにする」
スイート「こっちが銃口を下に向けた瞬間に、お前が撃ってくるケースを否定できない」
美佳「なら、バトルスタートだ」
チャキ!
希「全員待ってくれ! 頼む! 俺の責任において、美佳も皆も、美佳の指示に従ってくれ! 頼む! 美佳が俺と過ごしていた時間だけは少なくても、デイライトガンなんて物騒な物は持ってなかった! 世界の真実を知っていたのも、あっさり鞍替えしたのもショックだったけど、少なくても、今ぐらい、事情だけは、お互い説明させて欲しい!」
リキュール「…わかったよ」
ギュン カチャ
リキュールは限界突破を解除し、ルシフェリオンの銃口を下に向けた。人差し指もトリガーから離した。
スイート「! おいおい! 幾ら希の頼みでもそれは…」
テンニャンも同じようにした。
テンニャン「希の頼み、今回だけはきいてあげるアル。同じ“カフェやバーの関係者”として、話は聞いて置いた方が得アル」
黒崎も蛭子もデイライトガンの銃口を下に下ろしてトリガーから指を離した。
黒崎「今回だけだぞ? 俺も今のあっちの内情を知りたいからな」
蛭子「全く・・・・・甘ちゃんだねぇ、もう」
最後にスイートが銃口を下ろした。
スイート「全く・・・・知らんぞ、どうなっても・・・・・」
そして美佳も“リリシアン”の銃口を下ろした。
美佳「信じてくれて嬉しい。では、話せるレベルまでは話す。そっちも戦力以外の事情を話して欲しい」
希「わかった」
こうして、美佳が何故こうなったのか、を美佳自身が語ることになった。
***
美佳「黒崎、あんた達が来て、希がバージョンアップで拘束されて退場した後、私は“ルールの通り”に、ver.2.0と、この店を営業していた。だけど、すぐに、ver.2.0経由で草薙から、このデイライトガンを受け取り、銃の特性が書かれたマニュアルを熟読した上で、休日にガーディアンフェザーの研究所内で、特訓したよ」
希「何故だ! そもそも俺の代わりにver.2.0とココで平和に暮らす、そう言われていたはずだ、悔しいが、それがルールなんだろ?」
美佳は目線を下に向けて、うつむいてしまった。しかし、どういうわけか、その表情に“悲しい感情”が見受けられなかったのだ。
美佳「私もね、ガーディアンフェザーが提示した報酬には勝てないんだよ。デイライトガンの所持、それだけでもデイライトエリアでは特権階級、更に、いずれ人を指揮していくだろう“希突起人類”の遺伝子を持つver.2.0との子供を産む事を許された。この条件を、ただ“あんたとの過去があるから、やっぱり出来ません”なんて、そんな事を、言えるはず、ねーじゃんよ!」
美佳は目線を希達に向け直し、不気味な笑顔に変わり、目つきが一変して、昼間の猫の目に変わった!
カチッ! パシュ! パシュ!
スイート「くっ!!!!」
黒崎「ぬぅ!!!」
美佳は銃を持つ手とは反対の“左手”に隠し持っていた“リモートコントロール”のトリガーを引き、スイートと黒崎、何故か“男性”だけ、“遠隔操作用の対の銃=リリミアン”で銃撃した。
美佳「あのさぁ、なんでガーディアンフェザーが私をここに配置したのか? わかるでしょ? あんたが身内には“トコトンお人好し”だからよ! 私のデイライトガン、魅了銃“リリシアン”と“リリミアン”で、『同士討ち』でもしていなさいな! バッハハーイ!」
そういうと、美佳はお客さんが使うドアを開けて、さっさと逃げてしまったのだった。行動があまりに早かったので、リキュールとテンニャンのルシフェリオンでの銃撃は間に合わなかった。
スイート「オ・・・オマエラ・・・・ウチコロス!」
黒崎「コウソクスル!」
バシュ! バシュ!
スイートがこの状態では限界突破出来ず、黒崎も束縛モードから変更できなかったのは、美佳が相手に条件をのませるためだったとはいえ、運が良かった。
だが、かなりむちゃくちゃな銃撃を繰り返していて、店が相当ダメージを受けていた。
希「す・・・すま」
リキュール「んなこと、どうでもいいの! あのアマ! だから希以外の男を狙ったのね!希! この二人、魅了されてるの! アイツの言った通り、コレじゃ同士討ちよ!」
テンニャン「で、でも、仲間は撃てないアル・・・・・」
希は“俺の責任において”の言葉通り、知恵を絞った。この店の事は誰よりも知っている。
希「・・・・・確か二人とも、“甘党”だったよね?」
蛭子「た、確かに黒崎はお汁粉好きで、甘党だけど…」
テンニャン「スイートもパティシエで甘党アルけど、なんで今、それ必要アルか!?」
希「すまん、みんな。この机の盾で防御していてくれ!」
黒崎とスイートは、魅了されているとはいえ、ちゃんと自分をコントロールできるまで、自立した魅了に到達していなかったのは幸いだった。今のところ、めちゃくちゃな銃撃を繰り返しているだけだった。だが、時間が経てば、自立魅了まで到達し、それこそ“同士討ち”は避けられない!
希はそんな危機的状態なのに、銃撃に気をつけながら、カウンターに入り、キッチンに躍り出た。
希「待ってろ、二人とも。凄いランチ、喰わせてやるよ!」
無駄の無い動きで、冷蔵庫から、“薄切りハム”、“スライスチーズ”、“キャベツの千切り”、“マーガリン”、“練りからし”、“赤い調味料数点”を取り出し、ランチ用のパンが立てかけてある“バケット”から、食パンを4枚つまみ上げて、まな板で調理をはじめたのだった!
希「よし! あの頃と同じ食材が残っていて助かった。Ver.2.0、ここだけは感謝する!」
テンニャン「ちょ! 希! なんで今、調理アルか!!!」
リキュール「ちょっと!!!! そんなことやっている場合じゃないでしょーが!」
蛭子「あ、でも、ちょっとお腹空いたから…」
テンニャン「いやいやいや蛭子さん、そんな状況じゃないアルよ!」
そんな罵声に一切眼中無しで、希は慣れた手つきで、テキパキと“アレ”を作っていた。
パンにマーガリンを塗り、練りからしを厚めに塗ってから、ケチャップを塗り、韓国の辛み調味料の“コチュジャン”を薄く塗ってから、薄切りハムを載せ、スライスチーズを更に載せてから“キャベツの千切り”を少し載せ、タバスコを思いっきりかけて、更にマスタードを少しおとし、ケチャップを少しかけて、その上からパンを載せて、ガーリックソルトを振った“サンドイッチ”を2セット作り、トースターに仕掛けて、希のレシピのトーストコースにセットして、焼きはじめた。
リキュール「ちょ・・・・・あ・・・・でも、良いにおい~~」
ぐぅ~
テンニャン「う・・・お腹は正直アル~、辛くて美味しそう~」
蛭子「希、そ、それ、誰のなのよ~」
そうこうしている間に、焼き上がった。
ほかほか~♪
リキュール「お・・・美味しそう・・・・」
その仲間の言葉を聞かないで、まな板に移してから、半分に折り、更にその上からマスタードとケチャップを適量かけて、片手に両方持って、そして、希は、スイートと黒崎の所に突っ込んでいった!
希「パンドリオン!!! 相手の銃撃だけ撃ち落として援護しろ!」
パンドリオン「了解だ!」
バシュ! カキン! バシュ! カキン!
パンドリオンの弾丸は精確に二人の弾丸を撃ち落としていった。そして片手に2つのホットサンドイッチを持った希は、遂に二人の目の前に来た!
黒崎「ウ、ウマソウ…」
スイート「イイ、ニオイダ…」
希「二人とも、口を開けろ! 俺の奢りだ!」
あーん
二人とも腹ぺこだった本能には勝てず、魅了されていても希の言葉に素直に従った。
希「店の名物ランチ!!! 『レッドホットチリトーストからからましまし』だぁ!!!!!!!」
ガボォ!
その“赤くて黄色いホットサンドイッチ”は、黒崎、そしてスイートに、2つに折りたたまれて食べやすい状態で、口の中に放り込まれた。そして、二人は本能に従って、味わって食べ始めた。
黒崎「ウ・・ウマ・・・・・・カ・・・・・・カラ・・・・・」
スイート「グォ・・・・・カラ・・・・・・」
希はニマっと笑った。
希「どうだ? 激辛フードファイターをも唸らした、俺のスペシャルランチの味は!!!」
黒崎、スイート「ぬぉぉぉおわぁあぁおおおお!!!! 辛いーーーーーーー!!!!!」
バタッ
二人とも、超が付く甘党なのに、この超絶辛い、正に“HOT”なサンドイッチを食べて、ショックで気絶してしまったのだった。
希「最後の辛いのセリフ、あれは二人の素の言葉だったな。これで正気に返ったはずd」
リキュール「希、私達にも作って!」
テンニャン「喰わせろアル!」
蛭子「ほ・・・・欲しい・・・・」
希「え? あれ、めっちゃ、辛いぞ?」
リキュール「私は酒好きの辛党だ! いいから喰わせろ!」
テンニャン「ガルルル! 早くアル!」
蛭子「ちょーーーーーだい♪」
希は、なんか、変なスイッチまで入れてしまった事に、少し動揺したが自分もお腹空いていたので、笑顔でこう言った。
希「はいはい、待っていてよ、ちゃちゃっと4人分追加で作るから。それと珈琲も入れておくよ」
リキュール、テンニャン、蛭子「やったぁー!!!!」
どのみち、美佳もガーディアンフェザーも、次の駒は仕掛けているし、美佳をここに配置したのにも、自信があるからである。向こうも時間はかかるだろう、と高をくくっているわけで、こっちも、疲れた体と睡眠不足を解消するため、黒崎とスイートが起きるまで、
希の店
で、休憩することにしたのでした。
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