第27章 ジュエルジェイル

 黒崎の奇策により、一行の道は大きく開けたのだった。B19Fの上り階段からB18Fへ上った一行の前には、誰も待ち構えていなかったのだ。


 一般人は全員エレベーターで避難し、誘導していたガーディアンフェザー関係者は、非戦闘員は一般人とエレベーターに随行したり、B18F内部を調べて、一般人の取りこぼしがない事を確認してから自身もエレベーターで避難していた。


 戦闘員、つまり、対テロリストチームの面々は、実はB19Fに降りて一般人をエレベーターで避難させた後、希達の殲滅に向かったわけだが、さっきの電撃による感電で気絶したのが全員だったのだ。八握等から連絡を受けていたガンナー達は全員、相手がテロリストではなくムーンライトエリアから登ってきた住人である事を唯一知っているわけで、当然、テロリスト相手では定石の“各階の通路の確保”等、必要なかったからだ。唯一必要なのは、B19Fにまだいるターゲットを始末する事だからだ。


 だが、それが徒となった。突破された場合、少し上階にいる、単独行動でターゲットを待ち構えている、チームで来る連中とは比べものにならない程の腕の“刺客”に任せるわけだが、テロリスト制圧部隊に奢りが無かったとはとても言えない。


 確かに地下街は迷路に近く、同じ階のルート全てに全員を配置させ、チーム戦に持ち込めば、相当に堅牢な壁となる。突破されてしまった場合、チームの追撃部隊に追わせて、と考えていたのだろうが、それが奢りだったのだ。やはり硬くて堅実な戦法でも、チームを各階に分けて配置させ、各階で対処しながら、上階で追い詰める、そうするべきだったのだ。


 だが、主人公側からみれば、何とも運の良い展開だった。B18Fから更に上階に登っても、B15Fの階段を出たところに到達しても、本当にガンナーの一人とも出会うことは無かった。


(某月某日 午前6:00 地下街アラヤドB15F)


 B15Fは休憩できるエリアで、道が迷路ではなく、階段から上り階段までを通す、とても広い一本道が1つだけで、道の中央にベンチや自販機等が配置されており、両サイドに店がある、そういう場所だったのだ。


 当然だが道に人気は無く、店もガランとしていた。照明等は、避難する都合で付いたままだった。


黒崎「さて、B19Fを突破した後、ここまで不気味なくらい順調に来たわけだが…」

希「一見して休憩エリアとわかる場所だけど、一休みさせてくれるとは、思えないわけだ」

リキュール「あれ? あの店だけ、なんか営業してるような感じだけど、まだ避難してないのか?」

蛭子「それは双方にとってまずい。こちらも銃を隠して、それとなく避難を促そう。こちらの顔は一般人にはばれてないし、こちらも一般人のように接すれば、わかってくれる。私がガーディアンフェザーの身分証明書などを出せば、応じてくれるはずだ」


 一行が立ち寄った店は、宝石店だった。


(某月某日 午前6:05 地下街アラヤドB15F 宝石屋螺具(ラグ)前)


希「すいませーーーん! まだ避難してないんですかーーー!」

蛭子「ガーディアンフェザーの者だ。早く避難してください!」


 バックヤードと店内の間の扉を開けて、奥から、いかにも宝石店の店主のような、黒のスーツに蝶ネクタイの男が出てきた。


店主「これはすみません。私が店主ですが店の奥にいたので気づきませんでした。すぐに避難の用意をします」

希「あ、そうか、流石に“貴重品”の山のような店だからね。厳重にロックしてからでないと、逃げられないですね」


黒崎「…店主、1つだけ聞いて良いか? この宝石ショーケースの上にある、“呼び出しベル”、この音も聞こえなかったのですか?」

店主「当然です。聞こえませんでした。だから気づかなかったのですから」

黒崎「この“呼び出しベル”は、いつも、こんなに乱雑に置かれているのですか?」

店主「これはお恥ずかしい限り、整理整頓がなってませんでした。すぐに置き直します」

黒崎「では、失礼ながら、我々が見ている前で、元の位置に戻してくれないか?」

店主「・・・・・私をお疑いになってますか?」

黒崎「中にテロリストが侵入しており、危険なのです。一般人である事は一目でわかるが、テロリストが巧く制圧チームの目から逃げるための変装なのかもしれないので、一応、確認したいのです」

店主「わかりました。では、元の位置に」


 そういうと、店主はガラスケースの右角の緑のフェルトの上に置き直した。


店主「これでどうですか? そろそろロックをして、避難の用意をしたいのですが…」


 店主が店の奥に行く前に黒崎が店主を呼び止めた。


黒崎「もう1つだけ。貴方が置いた緑のフェルト、つまりガラスケースの右角の下。そこに落ちている物が、わかるか?」


 店主は面倒くさそうに、黒崎が指示した場所に目線を移した。そして、“そこにある物”を見た瞬間、顔が歪んだ。


 そこにあった物は、“割れた花瓶”だった。


黒崎「店主、お前が戻したと思ったベルの元あった場所は、さっきの場所のままだったはず。そして対テロリストチームやガーディアンフェザー関係者がここに来て店主を避難させる時に、うっかりその花瓶を落としてしまったのだろう。お前はその後にここに来て、待ち伏せのために利用していた。そのときベルの位置や割れた花瓶などに注意はしてなかった。違うか?」


 くっくっくっ・・・


 明らかに店主と自称していた男の声は変わっていた。


自称店主「くっくっくっ。こんな所で正体を見破られるとは、ツイてない。ところで黒崎、この割れた花瓶が無かったら、どうやって見破るつもりだったんだ?」

黒崎「間抜けそうだったから、店内で引っかかりそうな物を他に探すつもりだった」

自称店主「けっ! で、黒崎、俺が誰だか、わかっているのかよ?」

黒崎「変装だけは完璧だ。それは褒める。だから知らん。いずれにしても、こんな狙撃や罠を仕掛けるに十分使えるエリアで、ガンナーが何もしないのはおかしいと思ったし、この下の階に刺客のガンナーが誰も来ないなら、ここら辺で待ち構えているだろう事は予測出来た。あと、そのまま階段に直行したら、潜伏しているだろうガンナーのやりたい放題なシチュエーションで罠にかかる事は明かだったから、こちらから潜伏しそうな店に行ってみた」

自称店主「で、店でエンカウントした感想は?」

黒崎「おまえの正体がわからない状態とはいえ、お前のデイライトガンの能力の幾分かは封じられたと思っている。お前、ここで待ち伏せして、前の通りを俺たちが通って背後を取れる状態になった時に何かするつもりだっただろう?」

ガンナー「そうさ! その能力、ここでも使えるんだよ!」


 そう叫んだ自称店主だった男がスマホをいじると、スーツの姿から、ラメ入りでキラキラした、何というか、“どうしちゃったのこの人”な姿に変貌した。そして隠し持っていたデイライトガン、“捕縛銃『ジュエルジェイル』”を構えると、店内と通路を繋ぐ入り口に向かって、弾丸を数発放った!


 弾丸は“エメラルド”、“ダイヤモンド”、“パール”等、数種あり、各宝石が壁に着弾すると、着弾地点から、各種宝石の色をした“牢獄の鉄格子”のようなネットが張り巡らされ、そして、入り口は完全に封じられた。


赤穂吉良の助(以下、赤穂)「ひゃひゃひゃ! 俺は赤穂吉良の助、デイライトガン、“捕縛銃『ジュエルジェイル』”のガンナー! 少々狭い空間での、捕縛と銃撃になるが、十分お前らを片付けられるわ!」

蛭子「ジュエルジェイル? あんたガーディアンフェザーのどこの部署のガンナーよ?」

赤穂「ひゃひゃひゃ! 聞いて驚け、俺は“秘密兵器開発ラボ”で改造された、改造人間よ! おまえら“サラリーマンガンナー”とは意味が違うだよ!」

蛭子「私が上から出発した時に、そんなガンナーいなかったぞ!」

赤穂「当然だ! お前の裏切りの時点で新規に投入されたんだよ! ま、文字通り、秘密兵器の投入って奴だ♪」


黒崎(そんなラボ、俺でも知らん。だが、“アレ”をそういうのに使っているのだとしたら、ガーディアンフェザーの連中、一体、集めた『希突起人類の遺伝子』で何を作ろうとしているんだ?)

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