弓張 下弦

おはようございます。今日の月の出は二三時四五分。


夜も深まりひんやりとした空気は、ひっそりと忘れられたように咲いた名も知らぬ花や、家主のいなくなった蜘蛛の巣に、透明な水滴を落としてゆきます。淡い月明かりを受けて静かに光るそれは、そっと指で弾くとどこまでも澄んだ音を奏でてくれます。それはとても切ない響きで、映り込む世界は夢の泡沫そのものでした。そっと湛えた涙もまた、月光を浴びて光るのです。


私は頬を伝う水滴を感じながら歩き出しました。少しぼやけた世界は光が滲み広がって、夢の世界に迷い込んだ私の存在までもが泡沫のように消えてしまいそう。けれど涼しい夜の風はすぐに私の頬を優しく撫でて、そんな夢の世界をあっという間にぬぐい去ってゆきました。そしてやがて来る薄明過ぎの光を浴びて、月光とは違う色に輝く朝露が夜を見送り、まさに始まる日を迎えるように見える頃、私は静かに笑みを溢すのです。その視線の先にはきっと、夢より素敵な世界が広がっています。


今日の月の入りは一三時一一分。おやすみなさい。

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