プロデューサー


「声優界では、マネージャーさんを『プロデューサーさん』と呼ぶんですか?」

「普通は呼ばないな。プロデューサーと言ったら、偉い人達の事だ」

「それなのに、神谷さんはプロデューサーさんなんですか?」

「俺は、肩書きはマネージャーだけど、アイドル声優をプロデュースしている」

「アイドル……声優……?」

「簡単に説明すると、アイドルみたいな声優の事だな。容姿・歌唱力・演技力の三拍子が揃っている必要がある。うちの事務所は、アイドル声優専門なんだよ。エロゲーの出演はNG……と、この話はいいか。俺がスーツを着ているのも、この方がアイドルのプロデューサーっぽいからだ! ちなみに、声優界だとスーツ姿は目立つ」

「私をスカウトって……」

「『うちでアイドル声優にならないか』って意味だ。君には素質がある」

「確かに、私は美人高校生で歌もそれなりに上手いですけど……」

「自分で言うんだな」

「自分がカワイイと思ってなきゃ、アイドルになろうなんて思ってらんないです」

「それもそうか」

「私には、母親譲りの容姿と、レッスンで培った歌唱力はあります。でも、演技力はどうなるんですか? 声優さんにとって、1番大事なんじゃ……」

「君が通ってる養成所、声優コースもあるだろ?」

「はい。他コース体験という形で、アフレコ体験はしたことありますけど……」

「俺は、君がアフレコ体験するのを見た事がある」

「それも見てたんですか……」

「もう1度言うぞ。君には素質がある。アイドル声優としての素質だ」

「私に……素質が……?」

「君がただの美少女なら、スカウトしていない。君なら、容姿・歌唱力・演技力の三拍子が揃ったアイドル声優になれる。そう思ったからこそ、声をかけた」

「でも……私は……。私は……! アイドルになれなくて、アイドルになるのをあきらめた人間です! そんな私が……アイドル声優になれるはず…………ないです」


「なれる」


「どうして、そんなことが言えるんですか!?」

「俺が、君をプロデュースするからだ」

「っ!」

「何度でも言うが、君には素質がある。才能があるんだ。でもな。素質や才能ってのは、宝石の原石みたいなものなんだよ。放っておいて輝くわけじゃない。磨いてやらなきゃいけない。今の君は、アイドル声優の原石に過ぎない。それを、アイドル声優として輝けるように、君と俺とで磨いていくんだ」

「アイドル声優として、輝く……」

「考えてみてくれ。連絡先は、名刺に書いてある」



 結局、少女はコンビニに行かなかった。ヤケラムレーズンの気分じゃなくなったからだ。

 自宅に戻った少女は、DVDを再生。

 画面の中には、彼女がアイドルを目指すきっかけとなったアイドルの姿が。

 その夢も、諦めたはずだったが……。

「アイドル声優……か」

 憧れのアイドルを見つめる。

「このコに憧れた時から、私の夢が始まったんだよね。もしかしたら、私の本当の夢は……」

 少女が憧れたアイドルは、アニメのキャラだった──。

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