すごいサルの話
@kudo-ryoutaro
すごいサルの話
砂漠に囲まれたヴィディラス峡谷に
一匹のサルがいる。
『このサルを捕まえると
その者は未来永劫裕福になる』
そんなサルについての逸話が
近隣の国々で噂になっていた。
そう。実はこのサル。
全身の毛は黄金おうごんに輝いており
目はダイヤモンド以上の輝き持っていた。
世にも珍しいサルである。
しかも世界で一匹しかいない希少なサルだ。
このように珍しい動物を見ると人間は
必ず捕らえたくなる。
これは人間のDNAに組み込まれた
仕方のないものなのだ。
しかし、サルを捕まえるのは困難を極めた。
その理由はふたつある。
まずその動きだ。
他のサルと違い、このサルの動きは
音速を超える速度で動く。
かのスカイフィッシュと同様の速度である。
驚くべきスピードなのだ。
次に頭脳だ。
これも完全に人類よりも上だった。
著名な数学者が酔狂で、
人類が600年以上も解けなかった
『ニュラムス予想の証明』の数式を紙に書き、
ヴィディラス峡谷にぱらりとペンと一緒に落としたところ、
サルは数分で完全な答えを記入し、ぴゅうーっと
紙飛行機にして数学者の元に飛ばしてきたのである。
驚くべき頭脳を持ったサルである。
知能や速度が完全に人間よりも上だとわかると。
心の狭い人間達は無性に腹が立った。
こうなった人間が
サルに対しておこなうべき行動は、ひとつしかない。
人間は自分たちに理解できないものに対する行動は
いつの時代の歴史の紐を解いても必ず同じだ。
そういう時は必ず人類は”ある行動”に出る。
そう。攻撃だ。
「生け捕りは不可能だ」と思った人類は
様々な武器を使ってサルを殺そうとした。
まずはオーソドックスに銃だ。
これは人類史上最も普及した武器であり
最も頼れる武器である。
どうやっても手に馴染む。弾丸は鉄製。
これに当たると出血は免れない。
当たりどころが悪ければ一発であの世行きだ。
その銃でサルを狙った。
そして撃った。
しかも一発や二発ではない。
数千発撃ったのだ。
しかしサルは、弾丸をすべて
素手で受けとめ、射撃された速度と
同じ速度でそれを投げ返した。
狙撃手は全員死亡した。
人類は多数の犠牲を払ったが、諦めなかった。
”サルよりも劣る人間達”という事実を
どうしても受け入れたくなかったからだ。
次に、戦車を用意した。
これも人類の戦争では欠かせない存在だ。
重厚な装甲に砲塔から伸びる主砲。
人間の男子なら誰でも憧れる勇ましい乗り物だ。
砂漠を深く剔えぐった形のヴィディラス峡谷の谷底で
その勇ましい戦車をなんと1000台も走らせた。
そして、サルにめがけて
主砲で撃った。
轟音が鳴り響く。2時間以上も連続で撃った。
その光景はまるで戦争だった。
一匹のサルに対しての攻撃とは思えない程だ。
しかし、サルは戦車を見た途端に
少量の水と渓谷の砂を使ってあるものを作っていた。
砂と水の成分を光速と同レベルの速度で
素手で元素レベルまで分解し、再構築した。
そしてあるものを作った。
そう。サルは『電磁バリア』を即席で作ったのだ。
それを使って戦車からの主砲の弾頭攻撃を全弾防いだ。
2時間以上もの集中業火を防いだ後、
サルは立って、きいきい、と言っていた。
そして今度は人間に対して反撃を仕掛けた。
バリアを作った要領で、元素を組み替えて即座に
『高性能のレーザー砲』を組み立てたのだ。
そして、すぐさま反撃した。
この時のサルの動きは人間からは見えず、
きいきい、という声だけが不気味に聞こえた。
ちゅん、という音の後に
ドゥンという轟音が鳴り響く。
1000台の戦車は、すべて壊された。
恐るべきサルである。
人々はさすがに降伏して
サルから手を引こうと思った。
しかし血気盛んな国王は言った。
「たかがサルごときに
撤退などバカなことはせん!
核でもなんでも使って
ヤツを必ず仕留めるのだ!」
そう言ってついに核爆弾を使うことにした。
説明すると……いや。
これは言わずと知れた
人類最強の武器である。
説明はすでに不要だろう。
問題は使う弾数だった。
これは通常の戦争とは違い、
人類の沽券こけんに関わる問題だ。
通常なら一発や二発で勘弁してやるところだが
人類は十発の核爆弾をサル相手に使うことにした。
そして攻撃が始まった。
最初は光が周辺を覆った。
その後は衝撃。
そして熱波。
その後は爆発である。
峡谷は形を変えた。
しかしサルは生きていた。
宇宙の法則を完全に
理解していたサルにとって
核爆弾というものは人類でいう
豆鉄砲と同じ程度の
まさにおもちゃのような存在なのだ。
それよりも恐るべき武器は
宇宙には山程ある。
サルはそれを知っていたのだ。
豆鉄砲を防ぐ方法を改めて
ここで説明するのもどうかと思う。
それと同じ理由で核爆弾の攻撃を
サルがどうやって防いだかは、
ここであえて説明はしない。
サルは無傷で、きいきいと言って立っていた。
それで説明は十分だろう。
これで人類は、完全な敗北を味わった。
たった一匹のサルにこれほどの
挫折を味わうことになるとは
誰も想像出来なかったのだ。
●
南が丘動物園の監視員専用の
休憩所に、二人の従業員が働いてる。
椅子に深々と座っているタバコを吹かす中年の小林と
プリント用紙を持った若手の稲原だ。
小林が着ている青い作業着の左胸の名札には
「監視長」と書かれていた。
稲原は、一服している小林に
一枚の、A4のプリント用紙を渡した。
彼は、休憩中に似合わず驚いた顔で言ってきた。
「これなんですけど、どう思います?小林さん」
小林は吸っていたタバコを
口から外し灰皿でタバコの火を潰し、
稲原からプリント用紙を受け取った。
しばらくすると、小林の表情が変わった。
眉間にシワを寄せ、深々と座っていた椅子の背もたれから身を起こした。
「これを本当にあのサルが打ったのか!?」
「はい……。動物知能テストとして、サルにパソコンを与えました。
試しにワープロソフトを使って文字の入力が出来るか試したんです」
稲原は、小林の質問に真面目な顔で答えた。
普段はおちゃらけている男とは
到底思えない程の神妙な面持ちだった。
そして小林に渡したプリント用紙を指差して続けた。
「最初は ”あいうえお” とか、50音を練習して、
入力出来るようになれば、この動物園の宣伝に
なるかもしれない、と思ったのですが……」
小林は、稲原の言葉を助けるように言った。
「文章、つまり物語を書き始めたのだな……」
「はい……。黙々とタイピングしてました」
「これを全部サルが考えて入力したっていうのか。
すごいサルだな……」
小林が持っていたプリント用紙には
サルが書いた物語が書いてあった。
最初の文章はこうだ。
” 砂漠に囲まれたヴィディラス峡谷に一匹のサルがいる。”
すごいサルの話 @kudo-ryoutaro
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます