【3分で読める】ゴブリンが女性をさらう理由

@kudo-ryoutaro

【3分で読める】ゴブリンが女性をさらう理由

 天気のいい午後。


 小川のせせらぎが聞こえる。

 そんな草の丘で俺は少しばかりの休憩をしていた。


 あたりを見回すと、森が見える。

 とても素晴らしい森だ。きっと森の動物達も多いのだろう。


 ――最近にしては珍しい。


 なんせ俺たち人間は木々を切って家を建てたり様々な道具を作っているからだ。 

 モンスターも増えているし、初心者向けの武器でもある「こんぼう」や「ひのきのぼう」も数が足りない。


 木をどんどん切らなければ追いつかない。

 森の動物達には悪いが、人間も木がないと生きていけないのだ。


 俺はそんな事を思いながら、手に持っていたスモークジャーキーを食べ終えると、ドカっと横になり、昼寝をしようとした。


 そんな時、声がした。


「きゃー!誰か、誰か助けてー!」


 起き上がり、悲鳴の方を向くと少し遠いところで女性が悲鳴をあげていた。

 その周りをみるとゴブリンがいた。


 まぁ、なんというかわかりやすい図だ。


 俺は持っている剣でゴブリンを追っ払い女性を助けようとした。

 ただ、一つの疑問が頭に浮かんだ。


 そういえば、ゴブリンはなぜ人を襲うのだろう?

 襲った先には何が待ち受けているのだろう?


 俺は単純にそう思ったのだ。

 あたりを見回すと、やはり人影はいない。


 俺が助けなければ女性はゴブリンに襲われるだろう。

 でも、俺は静かに様子を見ることにした。


 もしも命の危険があるようなら、その時は助ければいい。

 ゴブリンを追い払う事なんて朝飯前だからだ。


 しばらく見ていると、女性はゴブリン数匹に引きずられる形になった。

 必死に抵抗する女性。


 だが、1対数匹の力関係は簡単には崩れなかった。


 ゴブリン達は人間よりも小さいが、力は人間の倍はある。


 しかも人間の方は女性だ。見たところ武器もないようだから、勝ち目なんてあるわけがない。

 また、しばらく見ていると、ゴブリンは草陰に女性を引きずっていった。

 面白そうだから俺は後をついていった。


 すぐに助けなかった理由はもうひとつある。

 それは女が美人だったのだ。


「すぐに助けてはもったいない。ギリギリまで待とう」とヨコシマな思いがあったのは、言うまでも無い。




 草陰を抜けると小さな洞窟が現れた。

 どこにでもある他愛も無い洞窟だ。


 ――なるほど。これがゴブリンの巣か。ここに女性を連れ込んだんだな。

 俺はゴブリン達が洞窟に入って、しばらくしてからその洞窟に入った。


 中はしっとり暗かったが明かりがあった。

 光る苔のおかげだろう。こういった洞窟でたいまつも無く進めるのは大抵こいつのおかげだ。

 しん……、とする洞窟内で、きいきいという声が奥のほうで聞こえる。

 きっとゴブリン達だ。

 俺は、声の方に進んでいった。奥に進むと、拓けたところに出た。

 そこは50匹くらいのゴブリンが集まっていた。視線を中央の祭壇のような場所に向けると、縄でくくられたさっきの女が生贄の様に祀られていた。


 生贄、か。


 しかし女がゴブリンに囲まれている図を見ると、なぜか色気を感じてしまうのは俺だけだろうか。


 とにかく、俺は、その様子を物陰に隠れながら見ることにした。

 この数だとさすがに負けるかもしれないからできるだけ息を殺してその祭壇を見た。

 すると、なにやら呪文のような詠唱をゴブリン達が一斉に唱え始めた。

 それを見て、俺はひとつの仮定を想像した。


 きっと、彼らは生贄ではなく、ゴブリンにしようとしているのだ。


 あの祭壇の上の女を。


 そういえばゴブリンの生殖活動を見たものはいない。

 きっとゴブリンは太古よりこうして仲間を増やしているのだ。


 俺は、さらに興味が湧き、人間がゴブリンに変わるのを見届けようと、祭壇から目を離さなかった。

 やがて、詠唱が終わると女性が”緑色”に光り始めた。


 緑はゴブリンの色だ!

 やっぱりそうだ! 


 これはゴブリンが仲間を増やす為の儀式なのだ! 

 そう俺が思った時、女性の形がどこかで見たような形になった。


 あれは……まるで、植物、いや樹木だ。木だ。

 なんて事だ、ゴブリンは彼女を「木」に変えてしまったのだ!


 俺は、急に怖くなり洞窟を出ることにした。

 木に変える理由がわからなかったし、自分もあそこにいたら祭壇の上に乗せられるかもしれないからだ。


 しかし、洞窟から出た瞬間、俺はゴブリンに捕まった。

 そして祭壇に連れて行かれた。


 案の定、また儀式が始まった。

 残念な事に、あっけなく俺は姿を変えていった。


「どうせ、木になるんだろう……。」そう思っていたら体が緑に変わっていき、背もどんどん縮んでいく感覚に陥った。

 明らかに目線が変わっていくのだ。


 ひと通り儀式が終わると、早く自分の姿が見たかった。

 すると、都合よく横にいたゴブリンが大きな鏡を持ってきた。


 そこには俺が写し出されていた。

 その姿は、なぜかゴブリンだった。

 なぜだ!? なぜ俺はあの女のように木にならずにゴブリンになったのだ?

 不思議に思っているとゴブリンが話しかけてきた。

 その時、すでにきいきいという声ではなく、明らかに言葉だった。


 ――そうか、俺もゴブリンになったから言葉がわかるのか。


 そのゴブリンはこんな事を言った。



「やあ新人君!キミもこれからはボク達みたいに森林伐採反対運動に加わるんだよ!人間の女をすべて樹木にして、男はゴブリンにしてこの星の緑をどんどん増やそうよ!人間は木を切りすぎだよ!キミもそう思うだろう!?」

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