第18話 半夏雨とのそうぐう ※
ザザーーザザーー
雨の日に外へ出ると
街には誰もいなかった…
人も鳥も旗もマネキンも
周りを見渡すといつもより少しだけ広い道は
私が一人でいることを誇大させた
うちに傘は置いてなかった
たぶん母が仕事に持って行ったのだと思う
来る台風に備えてカッパと長靴を買いに行こうと家を出た直後の出来事だった……
街中を自転車で抜けるのは初めてだった
近場の外出は歩きで済ませる
街に広がる子供達が怖くっていつもなら乗れない
風を切る私の両耳が次第に
冷えていくのを感じる……
顔に当たる雨粒が痛くて
結局、歩道を歩くことにした……
曇天模様で顔が上がらず
地面ばかり見ていた
足元だったり遠くの向こうだったり
少し離れたところに
黒い布切れのようなものが
地面に張り付いているのが見えた……
私はこれを何度も見たことがある
「最悪、電話持ってないぞ私」
スッと立ち止まり、匂いの届かない距離を保った
そこには猫の死骸が落ちていた
トラックにでもぶつかったのだと思う
持ち物を確認してみたが
自転車、財布、懐中電灯、ハンカチ
……私にできることはない
顔を伏せ、頬をとじ、鼻をつまんで、目を塞ぎながら反対側の道を進んだ
さながら夏祭りのとき
縁日に来る客の視界から外されるあれ
飲みかけのまま地面に放置されたプラスチックのコップのように
取り除くべきなのに触れない異物、そんなふうにそれは転がっていたんだ……
「……ップ(小)一点、
「あ、これで」
「はい!5千円からでよろしいですね!」
「えっと、袋二重にしてもらえますか」
「はい!わかりました!」
「どうも」
ついでに昼食も済まそうと思っていたけれど
どうにも食欲が湧かない……
水だけ買って胃を膨らますことにした
お釣りの小銭を財布に戻すとひどく邪魔なものに思えた
当然帰り道も同じ経路を辿った
これまた当然、先ほどの場所も通ることになった
「はぁ、どうしよう……」
初夏だというのに寒さで手の震えが止まらない
雨を受けたせいなのか、気持ちが落ち込んでいるからなのか
見つけた
自転車は道路の隅の方に寄せて停めた
生前、三色の網模様が張り詰める糸のようだった毛皮も
こうなってしまっては蝋人形のように固まっている……
それもそうか、死んでるんだものな
その場所は余りにも前近代的で
コンクリートとセメントばかり
足元は硬く、空気を吸わない
辺りを見回して軽い柔らかな土壌を探す
雨に濡れる猫の身体からは潮の匂いがする……
亡骸を埋めた帰り道
得も言われぬ疲れを肩に乗せ、進む二輪車の上で
人前では死にたくないなと思う……
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