怪物的思考。
砂塚一口
遭遇
「貴方は他人の手を千切りたいと思ったことがありますか? 他人の足を潰したいと思ったことがありますか? 他人の舌に爪を立てたいと思ったことがありますか? 他人の目を齧りたいと思ったことがありますか? 他人の内臓を引きずり出したいと思ったことがありますか? 貴方は、他人を殺したいと思ったことがありますか?」
その青白い頬に無数の痣を作り、美しかった黒髪は他者の手によって乱され穢され、唇から赤い血を艶かしく流しながら、クラスメイトの森ちゃんは私に尋ねた。
私の返答を待たずに、森ちゃんは引きつった笑みを浮かべる。
「私は、あります」
夕日の日差しが教室を金色に染め上げ、彼女の髪も制服も頬も瞳も唇も、全てを赤く照らしている。まるで血にまみれたような光景に、私は呼吸が止まりそうになる。
私は自分が無意識に手を震わせていることを悟る。
震えるな、震えるな。
私の心の奥底から吹き出す、喉をかきむしりたくなるような激しさを伴った感情。私は必死にそれを押さえつける。そうしないと、森ちゃんに気付かれてしまう。
森ちゃんは狂気の色をその瞳に鈍く宿し、それでいてどこか怯えたように肩を震わせていた。弱々しくて、守ってあげないと折れてしまいそうな華奢な体に、彼女は『女子高校生』という外面を飾りつけるように、セーラー服を纏っていた。
森ちゃんは、セーラー服という殻を纏っていた。それは、彼女にとって容易に獲物に近づくために纏う、擬態でもあった。
彼女はクラスメイトを、自分の同等の存在だとは認めていなかった。彼女はクラスメイト達を、ただの下等生物程度にしか思っていないのかもしれない。
「私は怪物です」
私はそんな森ちゃんの素顔を初めて知った。誰もいない教室で二人、私は〝怪物″と対峙しているのだという、言い様もない不可思議な重圧に、全身に鳥肌が立った。
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