銀の月に抱かれて見る夢は
あき
第1話 prologue
その昔。まだこの世界が海で満たされていた頃の話。
海は創造神アダルとその妻女神デアーを生み出した。アダルは海に大地を浮かべ大陸を創りデアーは様々な動植物をその地に放った。そしていよいよアダルとデアーが大陸に降りようとしたが自分達が降り立つには大陸はあまりにも脆弱過ぎて沈んでしまうことに気が付いた。
そこでアダルはデアーに自分と妻に姿形を似せた2体の人を造り代わりに大陸を治めさせた。やがて人は繁栄し大陸のほとんどを治めるまでになる。
アダルとデアーの間に至高神アデアが生まれると2柱の神はアデアに世界を引き継ぎ次の世界へと旅立った。アデアは人族から妻シアを娶った。2人の間に生まれた娘は神と人の中間でありそして神でも人でもない存在であったが神に見初められた母から受け継いだ純真さと優しい心を持ち稀なる漆黒の艶やかな髪と星が瞬く夜空を映しとったかのような黒曜石の瞳と雪のように白い肌の愛らしい姿をした娘は父母神だけでなく眷属である天使からも愛された。
娘は慢心することなく心も体も美しい乙女へと成長し神として天界に残るか人として地上に降りるかの選択をしなくてはならない時が来た。
人の暮らしを全く知らない娘が迷い考えあぐねる姿に母である女神は自らの一族に娘を託す。娘は祖父母である族長とその一族に受け入れられ大切にされた。やがて娘は1人の若者と出会い人として地に降り立つことを決意する。
娘の決意を聞いたアデアは娘を手離すのを大層惜しみ娘の元へ鬣の見事な牝馬を遣わす。牝馬は娘を騙し背に乗せると翼を広げ天界へと駆け戻った。
アデアは娘が二度と地上へと降りられないように幽閉し眷属の中でも一番忠実たる天使に見張らせると娘を追いかけて数々の苦難を越えて娘を迎えに来た若者に言い放った。
「何者になるかも分からぬ若輩者に娘を嫁がせるわけにはいかぬ。」
愛妻シアがいくら宥めてもアデアは頑なで聞き入れず終には若者を荒地に落としてしまった。
幽閉され若者を慕い嘆く娘は若者が迎えに来たことも知らず毎日泣き暮らした。やがて衰弱し床につくことが多くなった娘は見張の天使に地上の若者の様子を尋る。アデアに忠実たる天使は事実を曲げて娘に伝えた。
若者は娘をとうに諦めて違う娘を娶り幸せに暮らしていると聞いた娘は
安堵の微笑みを浮かべて若者とその家族を祝福しそして天使に礼を言って息を引き取った。
荒地に落とされた若者は彷徨っているところを旅を生業とする一族に拾われた。
やがて若者は一族を率いる長となり荒野一帯を治め、そしてついには国を治める王になった男は王国の名を神の娘である恋人がなんの憂いもなく嫁げるようにと娘の父母神の名前を戴いたアーシアと名付けよく治めた。
国が平定し男は再び苦難を越えて娘を迎えに行くと娘は既に亡くなっていた。
男は失意の中誰を責めるわけでもまた嘆くでもなく地へと帰り兄の子に国を譲ると自刃した。
娘を失った父母神は悲嘆にくれる。地上では太陽が隠れ何日も雨が降り続いて病が蔓延し海が荒れ川や湖からあふれ出た水が大地を覆った。ただ男の治めていた王国だけは娘の祝福で難を免れていた。
人々の悲痛な祈りに耐えられなくなった忠実な天使の告白にアデアは激昂し天使からその不死たる魂を鷲掴みすると投げ捨てた。投げ捨てられた天使の魂は偶然にも王国の霊廟に眠る男の亡骸に落ちた。
娘のもとへと天へと駆け上がろうとしていた男の魂は引き戻され天使の魂と融合し朽ちかけた肉体に留められてしまった。
神の呪いによって未来永劫不死の苦しみを受ける屍王として復活した男は自分から
娘を取り上げたすべてを憎悪しかつては娘を迎えるために造り上げた自らの王国を
蹂躙し世界を崩壊させようとした。
界の間を往来する精霊王が人々の惨状を看過できずに屍王を討とうとしたがかつては神の眷属だった天使の力は強大で封印するだけで力尽き100年後に屍王は封印を破り復活すると予言を残して精霊達を引き連れて界を去った。
屍王の復活を恐れた人々は祈った。祈りは悲嘆に暮れる神に届き神は異界より一人の乙女を選定し男の子孫である王に教え召喚させた。
乙女は神の娘と同じ色を有し王族の中で1番男の血を濃く引き継ぐ者と騎士の中で最も強き者そして世界から選定された勇者と共に復活した屍王を封印した。
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