堕天使の男とエルフの女


 堕天使となった男は、ある地域に隔離される事となった。島流しのようなものだ。

 彼がそこで出会ったのは、別の世界から来たエルフの女だった。


「アタシにも、殺したい神がいる」

「……」

 エルフの言葉に、堕天使は何を思ったのか。酒が入った杯を口に運ぼうとして、その手を止めた。

「神を殺すなんて、出来るとは思えないがな。1度失敗しているオレが言うんだ」

「でも、その時は万全の状態じゃなかったんだろ?」

「万全でも、神殺しなんて無理だったろうよ」

「アンタだけじゃ無理でも、アタシもいたらどうだ?」

「……何?」

「補助系の魔法なら、お手の物だよ。これでも、アタシは巫女だったんでね」

「エルフの巫女が使う補助系魔法……か。確かに、強力だとは聞いた事があるな」

「神を殺してくれないか」

「聞かせろ。どの神を殺したい? どうして、そいつを殺したいんだ」

「獣遣いと、故郷の神だよ」

「獣遣い……!」

 それは、男にとっても因縁の相手だった。

 彼が死にかけた時──。あの時の魔物は、その神の眷属だったのだ。

「アタシの知り合いが、何人も喰われた。あいつのとこのケダモノにね。アタシも、喰われていたかもしれない」

「……オレも、喰われるところだったな」

「アンタも売られたのか」

「売られた? どういう事だ」

「その様子じゃ知らないんだな。あの獣のエサとして売られたんだよ、アンタは。アタシも、アタシのとこの神に売られていたかもね。アタシの知り合いも、売られて喰われた」

「オレを獣に喰わせる事に、何の意味があったんだ……?」

「アンタが邪魔だったんだろ。でも、神は、自分の眷属を殺せない」

「そうだったのか(だから、あの時……)」


『……何故、オレを殺さない』

『殺せるなら、そうしている』


「奴の獣どもは、エサを選ぶらしくてね。アンタくらいの力があれば、エサとして申し分なかっただろう。アタシもだろうけどさ」

「獣遣いは、オレにとっても殺すべき相手だな。いいだろう、獣遣い殺しには協力してやる」

「本当か!?」

「なんだ、お前が持ちかけてきた話だろう」

「そうなんだけどさ」

「だが、協力するのは、まずは獣遣い殺しだけだ」

「まずは?」

「お前に協力してやるから、オレにも協力しろ。それが条件だ」

「アンタに協力したら……」

「お前の故郷でも、神を殺してやってもいい。──だけどな、エルフ。タダで手伝うつもりはないぞ」

「もちろんだよ。この体で払う」

「……巫女の力は、処女じゃないと使えないと聞いたんだがな」

「あはは、ちょっと違うよ。処女じゃないと使えないんじゃなくて、妊娠すると使えなくなるんだ」

「巫女の力が使えなくなると、オレも困るんだ。オレだけじゃ、神殺しなんて出来っこないぞ」

「わかってるよ。でも、心配はいらない。エルフのアタシと堕天使のアンタとじゃ、赤ん坊を作ることはできない」

「そうだったのか」

「アタシを孕ませたかったんなら、残念だったね」

「孕ませたいとは思わないな」

「抱きたいとは思ってくれるのか」

「さあ、どうだろうな」

「タダ働きでいいなら、そうしてくれよ」

「……それは御免だな」

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