第13話 節制

 もう一人のオートマチック能力者? ああ、そういえば、昨日アイリがそんなことを言ってたな。

 しかし、制限を受けているとはどういうことなのだろうか?

 死神くんに訊いてみると、

「確かにいまのおれは完璧な状態じゃない。だが、兄弟、おまえが覚醒してくれたおかげでだいぶマシにはなったんだぜ? もう少ししたら逆に奴の能力に干渉して制限をかけてやることも出来ると思う。そうなりゃあ、こっちの勝ちだ。世界の加護がある今の状態で制限が解ければ間違いなく全人類を皆殺しにするくらいのことは余裕で出来るつもりだ」

 なんてことを言う。

 ということはそいつさえ倒してしまえば姉さんの望みは叶うのだろうか?

 そう姉さんに訊いてみると、

「ええ、そうよ。それさえ排除できればあなたの能力をちゃんと行使させることができる。つまり、星殺しの病を今度こそ完治させることができるのよ」

 姉さんは満面の笑みを浮かべてそう言った。

 そうか、なるほどねえ。

 そこでぼくは姉さんの作ったリストを眺めながらインターネットで調べた情報を思い出していた。

 ―――ワシントン周辺に置いてシェルター化計画を発動。

 そんな文面があった。

 もし、それが本当ならぼくたちは最終決戦を迎えるまでもなく、この物語に終止符を打つことができるかもしれない。

 ぼくは思いついたことを口に出してみる。

「ねえ、いまの人類って殆どすべてがアメリカ―――それもワシントンのシェルターにいるんだよね? そうなると当然として、ぼくらの天敵のオートマチック能力者もそこにいることになる。なら話は簡単だ。香月は能力で原爆とか作れる?」

 いきなり話を振られた香月は訝しげな表情を作り、

「まあ、やろうと思えばできると思うけど………」

 何を考えてるんだ? こいつ、とでも言いたげにそう答える。

 ぼくは話を続ける。

「香月が作った原爆をアイリがワシントンのシェルター内部に転移させて爆発させれば今すぐにでもこの状況を終わらせることができる。大昔に日本が二発も喰らったプレゼントを今お返ししてやるんだよ」

 ぼくの話を聞いていたその場の全員が唖然としていた。

 静寂がその場を支配する。

 その静寂を初めに破ったのは姉さんだった。

「その提案は却下よ。わたしの弟君」

「どうして? なかなかいい方法だと思うんだけどな」

 姉さんは溜息を吐いて、誰かこの馬鹿に何とか言ってくれないかしら? 的な視線をぼく以外の全員に送る。

 何が、問題なんだよ。まったく。

 次に口を開いたのはアイリだった。

「あのさ、シェルターって言うけど、いまの全人類の人口は把握してる?」

 ぼくは、大体三億人ぐらい、と答えると、アイリは正解、と返し話を続ける。

「じゃあさ、三億人を収容できるシェルターなんて本当に作れると思う? どう考えたって現実的じゃないよね? 当時はそんな馬鹿でかいガチなシェルターを作っている技術も時間も絶望的なまでになかった。そこで、どうしたと思う?」

 そうだな、巨人が跋扈する世界みたいに馬鹿でかい壁を覆って対策したとか? そういえば、高い壁に囲まれた世界で記憶をなくした主人公が図書館でよくわからない仕事をしながら生活する、なんて小説があったな。

 そう言うとアイリは、そんな訳ないじゃん、と呆れたように首を横に振り、

「………実際はね、居住区の周囲に大体高さ10ヤードぐらいの柵を設置してそこに電流を流して対策してたんだよ。空には重火器装備した無人ドローンを飛ばして、極めつけは国立動物園の動物たちにサイボーグ化技術を施して―――勿論、人間を襲わないようにプログラミングされてからだけど―――柵の外や中の警備に当たらせたんだ。いわゆる、擬似シェルター化計画ってやつだね。だから、あなたが思っているような効果はあんまり見込めない―――とは言わないけど、いまいち決定力に欠けるね。向こうにはそれぐらいは余裕で対応しちゃう能力者がいるし。それ以前に、あなたの提案には、大きな瑕疵かし がある。それは―――」

「星の抗体たるあたし達が逆に星を傷つけてどうすんのよ」

 丁寧にぼくにアメリカの現状を説明した後、アイリが言いかけた言葉を香月が継いで言う。

 ………まあ、そうだよな。正直、姉さん以外は別にとうなったってかまわないぼくとしては、その問題を一切考慮していなかった。

 ていうか、柵ってそれはどうなのよ。いくら高圧電流を流しているとはいえここにいる連中なら簡単に突破できそうだよな。それに、10ヤードといえば、大体9メーターぐらいだが、よくそんなちゃちい設備で満足したもんだよな。まあ、やらないよりはマシと思ったのだろうか?

 ぼくがそう言うと、

「たしかにその設備は問題じゃない。一番の問題はそのなかにいるオートマチックなのよ。あれは人類の運命に干渉してなにが起きても彼らの都合のいい方向に修正されちゃうから最悪に厄介な相手なのよ。わたしの弟君。だから、本当の意味であれに対処できるのはあなただけなのよ」

 溜息まじりに疲れた微笑を浮かべ、姉さんが答える。

 ぼくしか対処できない、か。

 正確に言えば、死神くんしか対処できない、ということなのだろうけれど。

 そう考えれば別にぼくがどうこうしなくたって―――

「おい、兄弟。何を考えてるか顔に出てるぞ。ここではっきり言っといてやるが、オートマチックは本体オリジナル がちゃんと意思を持ってないと能力 おれにバッチリ影響が出てくるんだよ。だから、おまえが前向きにちゃんと考えてくれないとおれが本来のパフォーマンスを発揮できない。前に言ったよな? おれはおまえで、おまえはおれだ、と。おれがどうのこうのじゃなくて、おまえがどうするのかちゅうのが一番大事になってくるんだよ」

 変なところで足を引っ張ってくれるなよ、とぼくの思考を遮ると眼光を鋭くして死神くんは言った。

 やれやれ、ぼくの意思が大事、か。

 つまりは彼の殺意は、ぼくの殺意にしなきゃならないということか。

 それじゃあ、ぼくはなんのために人類を殺すのか?

 決まってる。姉さんを不死の呪いから救うためだ。

 姉さんを救うたった一つの冴えたやりかたを実行する鍵はぼくが握っているわけか。

 なら、本腰を入れてやってやろうじゃないか。

 本腰を入れて、人類にしっかりとした殺意を抱こう。

 ぼくは、ゆっくりと口を開く。

「姉さん。具体的にぼくはなにをすればいいんだい?」

 ぼくの言葉に姉さんはにっこり微笑んで指令を下した。

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