愛に始まり
吉田灑
愛と死
「愛してる」
「嫌だ、女は嫌いだ」
うたた寝をしていたら、いつの間にか隣に女がいた。えもいわれぬ黒い感情が渦巻く。
「女が嫌いってことは、男が好きなの?」
「格好つけた言い方をすれば俺は絶食系男子だから」
きっと僕がホモだとかいっても、彼女は言い寄って来ただろう。
黒、そう漆黒だ。『蹴りたい背中』――僕が大好きな小説だ――でハツがクラスメートに抱いていたような淡い灰色ではない。この漆黒は最近、自分でコントロールできなくなっている。
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『さぁ未来に駆け出そう』
新入生だった僕はこんなキャッチフレーズに思いを馳せていた。素晴らしい文言。世界はきっと美しいって信じてた馬鹿な僕。それなりに大学生活、つまり青春を謳歌するつもりでいたのだ。
タイムマシーンが出来ていたら過去に戻って現実を教えたい。
『因みに、君はこれから××という女性に騙され、貯金が全部なくなります。つまり、君は青春なんて送れません。徹底的に搾り取られます。トイチという意味不明な高利の借金を背負います』
……等等。憎き過去の僕。温くなってしまった風呂の水を捨てるかの如く金を捨てた。猫を買ったり、車を買ったり、終いには家を買ってあげたり。残り預金額が0の通帳を初めて見た。
傍からみたら僕は騙される馬鹿な男だっただろう。ひとえに××だけを見て、××だけを思って××だけのために。ふと通帳でお金をおろそうとした。変だ、何故か引き出せない。ほとんどスッカラカンになってから、ようやく目が覚めた。まぁこれが地獄の始まりだったのは前述の通り言うまでもない。
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醜くなってしまった。胸が、乳房がなくなってしまった。目から熱いものが溢れ出る。もうこれでは生きる価値などない。
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やっとこの命を捨てられる。夢が叶う。ようやく耳にしていた噂通りに。
「わざと君に告白したの、そうすれば消えるって言う噂があったから」
「女っていう存在が怖いんだ、特に君みたいに言い寄って来る女は」
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「ん」と、女は小さな声を上げ、板のような胸に突き立てられた刃物が、それをかつて女だったモノに変えた。
愛に始まり 吉田灑 @ray
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