第69話 グレイの決断

エルフたちが救出した奴隷たちは合計で16人。

種族は半分はエルフで残りはバラバラ、年齢は標準換算で16~22歳、性別はほとんどが女性で男性は3人だけ。見た目ほど弱ってはいなかったので、食事を十分にとればすぐに元気になるだろう。

これなら明日にでも移動を始めることができるだろうし、装備があればモンスターくらい狩ることもできそうだ。


食事をしながら元奴隷たちに話を聞くと、やはりヒュマ領へ連れて行かれる途中で助けられた者がほとんどだった。


「急に売られることが決まったんです。悪い人が捕まったから、バレる前に売るんだって言ってました」


「やっぱり、ウラルトを捕まえたからだな。キミたち以外の奴隷がどうなったかは分かるかい?」


「買われた人たちの行方はわかりません。私たちはまとめて買われましたが、他はほとんどが別々な人に買われたんだと思います。買われなかった人たちは置いていかれるみたいでした」


「なら、すぐに踏み込んでもらった方がいいな。勇者に連絡しておこう。バラバラに買われた方は探すのが難しいな」


連絡板マジックボードを取り出して、今の話を書き込む。少しでも早く奴隷商のアジトに踏み込んでもらえれば、もっと多くの人を助けられるはずだ。

書き込み終わったところで、フィーが質問してきた。


「気になったんですけど、奴隷って目印とか付いてたりするんですか?」


「ステータスを調べれば分かるけれど、パッと見で分かるものはないかな。強制力もない」


「じゃあ奴隷の人たちがみんなで戦えば逃げられるんじゃないですか?」


「そうだけど、そうはならないんだよ。戦えば怪我をするし、失敗するかもしれないだろ?奴隷がたくさんいるほど、自分が反乱に参加しなくても誰かがやるだろう、自分が参加しても結果は変わらないだろう、ってみんなが思ってしまうのさ」


「たくさんいるのに?」


「たくさんいるからさ。例えば3対5だともしかしたら3の側が勝ってしまうかもしれないけれど、3対20とかだったら3が勝てるわけないだろ?この時20の側のみんなが、リスクを負いたくない、自分が頑張る必要ないと思ってしまうのさ。だからそもそも反乱が起きないんだ」


かつての奴隷船は、船員の十倍近くの奴隷を積み込んでいたこともあったらしいけれど、反乱が起きた割合は3%くらいだったらしい。


「だから反乱を起こすなら、しっかりしたリーダーを立てて指揮をとる必要があるんだよ」


「つまり貴殿がそのリーダーになるというわけなのだな?大きなことを言うわりに数が少ないと思っていたが、なるほど、ことを起こすにはまず少数精鋭から始めよというわけか。我らは数を集めた結果、ここで動けなくなっていたわけであるし、貴殿の言うことが正しいのだな」


背後にはいつの間にかブリセイダが立っていた。


「俺は別にそこまで考えていたわけじゃないんだが」


「謙遜する必要はない。我らは長い時を生きるゆえ、時を待ちすぎるきらいがある。ザラから聞いたぞ、貴殿は我らより早く行動を始め、より多くの者たちを助けているとな。さすがは我が見込んだ男だ。我らも貴殿の方針に従おうぞ」


ザラはいったい何を吹き込んだんだ。そもそもそんなにたくさんの人を救ってはいないような……。もしかして、ウラルトに捕まってた人たちのことも数に入れているのか?


「貴殿の言うとおり、仲間を助けるためとはいえ、非戦闘員をも攻撃したのはいささか無法であった。裁きが必要だと言うのであれば、我は素直に従おう。だが襲撃を命じたのは我であり、仲間はそれに従っただけである。勝手な言い分なのは分かっているが、我が仲間はどうか見逃してはもらえないだろうか。我が身はどうなってもいい。どうか寛大な処置をお願いしたい」


ブリセイダは大げさな身振りで頭を垂れた。

その芝居じみた動きは好きではないが、仲間を想う気持ちは理解できる。


「俺も、奴隷商なんかどうなったっていいと思っているよ。そもそも亜人領じゃあ奴隷制度なんてない。ゼニスの法でも奴隷売買は違法だし、犯罪者は殺されても文句は言えない」


この世界にも法律はあるが、警察も裁判も数が少なく管理が行き届いていない。私刑も決闘も黙認されているので、律儀に報告する必要もない。

俺は奴隷商よりも、奴隷を助けた彼らを守りたい。


「善良な商人を襲った犯人はいなかった。襲われたのは奴隷商だったって報告する。結界を張ってるんだし、見つけられるやつはいないだろ?明日にでもここから離れれば問題ないさ」


「貴殿の慈悲に、感謝する」


ついにブリセイダがひざまづいた。そういうの本当に止めてほしい。

ブリセイダの前にしゃがみ、その手を取る。


「助けた人たちをどうするかが問題だけど、受け入れ先に心当たりがある。キミたちにはそこで護衛をしてもらいたい。優れたエルフの戦士なんだろ?」


「もちろんだとも。貴殿の期待に応えよう」


ブリセイダは俺の手を強く握ってうなずいた。





翌日、ゆっくり休めたからか元奴隷たちも元気になっていた。

目的地までは数日かかるので、食料を確保しながら移動することになる。人数が多いので移動に時間もかかりそうなのが少し心配だ。


歩く速さは一番遅い者に合わせる。回復したと言っても今までの奴隷生活で体がなまっている者も多い。

斥候はブリセイダたちに任せた。本人たちがすごいやる気を出しているので心配ないだろう。


俺は地図マップサイトで目的地までの方角を確認する係だ。街道に出ると目立ちすぎるので、森の中を進むことになった。

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