第64話 報酬と呪い~白い部屋にて~
そこは、白いタイルで構成された空間だった。以前にも来たことがある、女神の空間。
やっと呼び出されたかと思っていると、あの球のような竜、フータがやってきた。
「二つ目の封印の女神像の破壊、ご苦労だった。女神様は大変お喜びであるぞ」
「そりゃあどうも。ところでその女神サマの姿は見えないけど、お休み中か?」
「その通りである。女神様はお忙しいので、お休みの時間は貴重だ。なので些事は我だけで行うのである」
女神サマ直々の依頼のはずだが、本人(?)は聞かないのか。
「お前ならやってくれるとおっしゃられていたぞ。見事に期待に応えたことを我からも褒めてやろう。まあ今回は我らも布石を打っておいたから、遅かれ早かれ達成されると思っておったがな」
「布石ってもしかして、あの勇者が受けた預言のことか?」
「その通りだ。以前に貴殿が女神像を壊したおかげで、下界に干渉することが可能となった。この通信もその一つであるぞ」
女神像を一つ壊しただけで預言を下せるようになったのなら、全部の像を壊した時はどうなるのだろうか。地上に顕現して世界を造り直すとかだったら阻止するのだが。
なんて考えたら、フータに鼻で笑われた。
「以前も言ったが、我らは直接下界に手を下しはしない。女神サマはお前のいる世界【カナーン】の行く末に自ら手を加えることを禁忌とされた。それに、幸いにも【運営】がまだ残っていたからな。無事に連絡もついたし、細かいことはあの者たちに任せた。貴殿も縁があれば出会うこともあろう」
「【運営】だと?」
「うむ。女神様が世界をお造りになられた後、その運営を任された者たちである。我らと連絡が途切れた際に何やらあ奴らにも問題が発生していたようだが、いらぬ心配だったようだ」
「いや、そうじゃなくて、世界を操っているやつがいたっていうのか?ずっと運営してたってことはつまり、そいつらが今のような世界にしたってことかよ!」
戦争を起こし、被害者を出し、差別を作ったヤツがいるっていうのか。そんなヤツがいるのなら、許してはおけない。
「今すぐそいつらをわっぷ!」
熱くなった頭に、物理的に冷や水がぶっかけられた。
水はあっという間に蒸発して、頭の熱もどっかへ行った。
「己の勝手な妄想に自分勝手に怒るでない。例え世界を操るものがいたとして、ヒトの全てを自在に操れると思うか?同じ言葉を話したとして、自分の思うように相手が返すと思っているのか?そうだと言い切れるほど、貴殿は愚か者ではないと我は思っていたのだがな」
……こいつの言うとおりだ。
話して理解し合えるやつらばかりなら、そもそも戦争なんて起こらない。【運営】とやらがなんでもできるなら、ディストピアみたいなユートピアを作った方が効率がいいはずだ。
それなのに世界は今も不満や腐敗がなくなっていない。世界は醜いということが、人々の自由を証明している。
「話が逸れたな。【運営】のことは気にするな。女神像を破壊することで我らの干渉幅が広がることが、世界の維持に必要だと分かっていればいい。我らの影響が途切れていたせいで世界が崩れつつあるが、女神像をあとひとつふたつ壊してくれれば、我らがなんとかできる範囲だ」
「世界が崩れつつある?」
「それはお前が気にすることではない。カナーンをカナーンたらしめるシステムの話だ。人の身で関われるものではない。また世界情勢については【運営】に任せておけばよい。もう一度言うぞ。ヒトが全てを自在に操れるわけがない。それはお前にも言えることだ。お前が全てを救えると思うな」
丸くてかわいいと言える見た目なのに、それは竜らしく威厳のある言葉だった。が、直後に悪そうな顔でニヤリと笑った。
「ただ、貴殿がどうしても世界情勢に関わりたいと言うのなら、協力しないでもないぞ。貴殿もまたかの地に生きる命の一つである。それの願いを我らは否定しないし、貴殿は我らから報酬を受け取る機会に恵まれている」
俺が、世界に関わることができるだと?俺はスゴイ人間ではないが、そんな俺でも何かができるというのか。
いや、そんなはずがない。特別扱いされているようにも聞こえるが、こいつは神に近い存在だ。運営とやらがどんなヤツラか知らないが、そいつの他にも手駒が欲しいから俺に声をかけたのかもしれない。
でも、いや、だけど……。
色々と考えてはみるが、根拠が足りなくて堂々巡りしてしまう。本当にコイツの言うとおりにしていいのだろうか。
「さあ、貴殿はどのような報酬を望むか。欲しいスキルはあるか?」
そもそもコイツは俺の思考を読んでいる。ならこんなことを考えても仕方ないのかもしれない。
さっきから楽しそうに口元が笑っているのも、俺が悶えているのを面白がっているのだろう。なら頭を切り換えて、自分のためになることをしよう。
旅の間に考えていた、俺に必要なスキルを思い出す。まずは俺のこの体質をなんとかしたいと思っていた。
「【超絶倫】のスキルを消したい。これのせいで仲間に負担をかけてるからなんとかしたいんだ」
みんなと仲良くする役に立ってはいるが、そのせいで動きが制限されるのは辛い。
それに今回みたいなことがまた起こったら、俺自身も辛いと実感した。だからこそ言ったのだが、フータは首を横に振った。
「できないこともないが、それはこれから先もお前に必要なものだぞ。貴殿は亜人を救うのだろ?多くの者をまとめるためには残しておくべきだ。仲間の負担を減らしたいというなら、仲間を増やせばいい。そうすれば一人当たりの割合が減るだろう」
「増やすって、解決になってない。というか問題も一緒に増えるだろ。それに【超絶倫】がどうして亜人を救うのにつながるんだよ」
「ふむ、貴殿が思いつかないのならば仕方ない。特別に我から提案してやろう。貴殿にかけられている呪い。それを改造するのだ」
竜がウィンドウを開いて何かを操作すると、俺の体が淡く光った。へその下、丹田あたりに黒いもやが浮かび、それに光が混じったように見えた。
「呪い?俺は呪われていたのか??」
「そうだぞ。お前は相手を妊娠させない呪いをかけられている。その効果をお前の意思でなくせるようにしてやろう」
なんでそんな呪いが、とも思ったが、すぐに思い当たった。調教師をやらされていたからだ。奴隷に言うことを聞かせるための調教で、妊娠させるわけにはいかないからだろう。
その呪いを改造するのは別にいいとしても、なんだよその妊娠オンオフ機能とかいうエロゲーにありそうな能力は。世界をオーカスで埋め尽くすつもりはないぞ。
「ん?『お前の子供が作れない』呪いを『お前の
「は?バカなのか??」
思わず声に出してしまった。
違いがよく分からない。
オーカスだけが増えるという心配はなくなったが、どちらにしろ相手を妊娠させるという事実は変わらない。
それが俺が世界に関わることに、どう役立つというんだ。
「さて、そろそろ時間のようだな。こちらで見つくろっておいたスキルも付与しておいた。後で確認するといい」
「ちょっと待て、まだ言いたいことが……」
「お前の貢献を期待しているぞ。それではな」
直後、足の下に穴が空く。
「またこれかあぁぁぁ!」
再びのボッシュートにより、俺の意識は暗転した。
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