第18話 第一村人発見?

 翌朝、俺たちは村への冒険を再開した。

 マップに描かれた通りに進んでいると、道が広く歩きやすくなってきた。おそらく出口が近いのだろう。

 そんな時、ザラが何かに気が付いたようだった。


「ちょっと、誰か向こうにいるわよ」


 ザラの案内に従って進むと、確かに誰かの声が聞こえてくる。なんだか言い争いをしているようで、とても穏やかでない雰囲気だ。


「向こうはセーブゾーンみたいだな。冒険者パーティーでもいるのかもな」

「それにしては、怒鳴るような声も聞こえます。もしかしたら襲われているのかもしれません。助けに行きましょう」


 パドマが先頭をきって走り出したので、それに続く。

 藪をかき分けてセーブゾーンに入るとそこでは、大タルのような全身鎧と毛玉が言い争っていた。どちらも俺の胸までくらいの身長だ。

 もう一人背の高い男がいるが、それは言い争っている2人の横で腕を組んで眺めている。

 全員が同じパーティーなのか、テントがひとつしかなかった。


「だから、オラ一人で行くって言っとるの!ついてこないでけろ!」


 鎧から出てくる声はくぐもっているが、女の子のものだとすぐに分かった。


「バカかあ!おまえ一人でなにができる言うんだあ!迷子になって村にさ迷惑かけるのがオチだわい」


 毛玉は毛深く逞しい腕を振り回して怒鳴っているので、声を聞くまでもなく男だとわかる。


「叔父さんの分からず屋!」

「一人で何もできない女が偉そうな口きくんでねぇ!」

「そんなんだから、ちいともモテないんよ!」

「な!?んなこと行き遅れに言われたくないわい!」

「ヒドイ!叔父さんなんかもう知らん!」


 そこから再び危機感のない、ただの口喧嘩が始まった。

 拍子抜けして武器をしまっていると、口喧嘩してる2人を遠巻きに見ていた男が、こちらに近づいてきた。

 こちらは普通の冒険者のようだが、茶色の髪の中からキツネのような耳が、そして尻尾が生えているのが見える。


【種族:フェルパー

 職業:冒険者】


「やあ、見苦しいもん見せたな。あれはオレの相棒とその姪っ子だ。ちょっとした意見の違いで揉めてるだけだから、気にしないでくれるとありがたい。きみらは休みに来たんかい?」


 落ち着いているが、あの2人は放っておいてもいいんだろうか?

 今にも殴り合いを始めそうに見えるが、そうなったら助けに行くべきだろうか。それとも部外者は黙って見ているべきか。ちょっと悩む。


「俺たちは、誰かが襲われてるんじゃないかって思って駆けつけたんだ。なんか両方とも、すごい剣幕だけど、なんでケンカなんかしてるんだ?」

「それがね、あいつの兄貴とその奥さん……あの子にとっては両親だね。それがおとといさらわれてしまったんだ」

「攫われた?」

「そう。村で一番の鍛冶屋なんだけど、家の者が出かけてる間に何者かに連れて行かれてしまったのさ。誰がそんな事をしたのか調べたら、ちょうどその時にヒュムの集団が来てたんだ。それが怪しいっていうんで、そいつらを追ってここまで来たんだけど」


 フェルパーの男は首をすくめて両手を上げた。


「ここで手がかりがなくなっちゃたんだ。どこかに抜け道があると思うんだけど……そういえば、君たちは普通の道から来てないよね?」

「ああ、昨日遭遇した野盗から、抜け道の描かれたマップを手に入れたんだ。そのおかげでここまで来れたんだ」

「それ、ちょっと見せてくれるかい?」


 別に問題ないだろう。

 見やすいように差し出すと、男は奪い取るようにしてそのマップを覗き込んだ。


「ふむふむ、ここがここだからこう辿ってくと……これだ!ここの砦がアジトだ!おーい、ミルド、ミミル!手がかりが見つかったぞ!」

「なに!それは本当か!!」

「オラにも見せて見せて!」


 毛玉と鎧がドスドスガチャガチャ音を立てて走ってきた。

 フェルパーの男が説明すると2人は興奮して、そのままこちらに顔をむけてきた。

 若干引きながらも、それを手に入れた時のことを簡単に説明する。するとミルドと呼ばれた毛玉の男が、納得したようにうなずいた。


「なるほど、あんちゃんたちも人攫ひとさらいいにったのかい。大変だったな。無事に切り抜けられてよかった」

「なあオークスのあんちゃん、頼みたいことがあんだけんど……」

「こらミミル、今ワシが話してるとこだ!後にせい」

「だども、オラ、すぐにでもお父ちゃんとお母ちゃんを助けたいだ!なあ兄ちゃん、オラたちに力を貸してけろ!」


【種族:ドワフ

 名前:ミルド

  職業:冒険者】


【種族:ドワフ

 名前:ミミル

 職業:村人】


◇◇


 ドワフとは、ファンタジーものによく出てくるドワーフのことだと思って間違いない。

 身長は低めだが力が強く、そして手先が器用だ。他に特徴を挙げるとするなら、それは男も女も毛深いということか。見た目のイメージとしては、類人猿とか原始人に近いだろうか?ただ、容姿はファンタジー補正が入っていて、男は無骨なかっこよさがあり、女はあどけない可愛さがある。

 このミルドというドワフの男は無精者なのか、髪も髭も伸ばしっぱなしで鎧がそれに埋もれてしまっていた。顔がそれらの隙間から出ているだけなので、何も知らずに見たら野人か妖怪とかと勘違いしそうだ。

 一方ミミルの方はとても頑丈そうな鎧を着ているカワイイ女の子だった。兜をとると、薄い赤色の髪がショートに切りそろえられていた。ドワフらしく頬から首まで毛に覆われているが、それもサラサラで触り心地が良さそうだった。

 ホントに触ったらセクハラになりそうだからしないけど、いつかはモフらせてもらいたい。


 ミミルは一生懸命に俺たちに協力を頼んでくるし、ミルドはそれを失礼なことだと叱っている。

 2人ともドワフらしい、思い込んだら一直線の頑固な性格のようだ。

 そんな2人を放って村に行くのが忍びないので、ザラとパドマも呼んで全員で話し合った。


「アタシは別にどうでもいいわよ。それにヒュムが相手なら、遠慮しなくていいしね」

「グレイ殿の亜人救済の第一歩、ワタシも全力でお手伝いさせていただきます」


 結局いつも通りの意見によって、俺たちは彼らに協力することになった。ただしミルドたちに条件として、食料と武器防具を譲ってもらうことを約束してもらった。


「なあに、元から半月くらいかけてここを虱潰しらみつぶしにするつもりだったからな。まったくもって心配ないわい」

「オラんチの武器防具はお父ちゃんとお爺ちゃんのお手製だあ。量産品なんかよりもよっぽど頑丈だぞ」


 2人はそう言って、快く分けてくれた。

 むしろこの程度じゃ安すぎると言われたので、残りは攫われた夫婦を無事に取り返したらということにしておいた。

 俺は金属製の鎧と盾、そしてショートソードを一振りもらった。

 ザラは革製の鎧と護身用のナイフ。パドマは同じく革製の鎧と、鋭い槍をもらった。


「いつもこんなに武器防具を持ち歩いてるのか?重くて大変そうだな」

「普段は冒険者相手に商売しとるからな。それにワシは容量キャパのほとんどをアイテムボックスにしとるから、たくさん仕舞えるから問題ないわい」


 毛玉のような男、ミルドは、その毛深い腕がよく見えるように掲げた。筋肉ムキムキだ。


「パドマ、キャパってなんだ?」

「魔法を憶えられる容量のことです。本人の資質次第ですが、魔法が得意な方が容量が大きい傾向があります」


 なるほど。

 つまりアイテムボックスの魔法は、記憶の容量をたくさん使えば持てる量が増えるのか。他の魔法も憶えようとするなら、どれだけの容量を使うかとても悩ましいことになりそうだ。

 ちなみにパドマはアイテムボックス一つ分しか容量がなく、それしか魔法を憶えてないらしい。

 そもそもドラゴニュートとという種族は容量が少ない特性があるのだとか。


「冒険者ギルドへ行けば、容量の測定もしてもらえます。もちろんお金がかかりますが、大した金額ではないので大丈夫ですよ」

「そうか。冒険者ギルドへ行く楽しみがまた一つ増えたな」

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