第14話 仲間
野盗Bのナイフは、首の皮一枚の所でピタリと止まっていた。
本当にギリギリ、あと少し踏み込まれていたら俺の命はなかったかもしれない。
傷つかないよう慎重にナイフから離れる。野盗Bはナイフを握っているポーズののまま俺を睨みつけた。
「う、動けねぇ。てめぇ、何をしやがった。これはいったい何だ!?」
何が起こったのか分かっていないようだが、それも当然だろう。正面にいた俺から見ても、一瞬の出来事だった。野盗Bは俺へと必殺の攻撃を仕掛けようとした瞬間に、地面から伸びた草によって全身をしっかりと固定されたのだ。
魔法の気配がかなり出ていたので、それがこいつにバレないかとヒヤヒヤしていた。コイツが勝利を確信していたがために、自分への注意が疎かになっていた。だからこそ、こうも上手くいったのだろう。
「俺じゃないさ。俺の仲間だよ」
「仲間、だと?」
野盗Bが目を必死に動かして、パドマと野盗Aの方を見る。そこには、地面にへたり込むパドマと、その目の前で首まで埋まっている野盗Aがいた。
「マジで何が起こったんだよ!?」
何も知らなければ、そう思うのも無理はない。だが知ってる俺からすれば、タネは簡単だ。
「ザラ、助かったよ。ありがとうな」
「間に合っちゃったのね。残念。ギリギリアウトを狙ったんだけど」
ザラが木の影から出てきた。
ザラは、俺とパドマがレベリングしている間はヒマだと言って、この森で採れるアイテムを拾いに出ていたのだ。もちろん何があるか分からないのて、彼女が俺たちの状態を感知できる範囲を超えないようにしてもらっていた。
だから少し遅れたとしても、こうして危ない状況を切り抜けることができたのだ。
「照れなくてもいいさ。お前の気持ちは分かってる」
「アンタがアタシの何を分かっているっていうのよ」
「昨日の夜にたくさん聞かせてもらったじゃないか」
「このっ!アンタはデリカシーってものがないの!?」
「だから照れるなよ」
売り言葉に買い言葉。
こんなやりとりができる仲間がいるってことがすごく嬉しい。
実は、野盗Bが出てきた時にはすでに、ザラがそのすぐ近くにいたのだ。だからあの時の言葉は、パドマではなくザラに向けたもの。まずパドマを助けろという意味で言ったのだった。
たった1日の間に、こんなに思いが通じるようになるとは思ってもいなかった。それはもちろん俺の人徳……ではなく、ザラが俺が思っていた以上に頭がよかったからだろう。
先ほど飲みかけだった回復薬の残りを飲んで、とりあえず細かい傷だけは治しておく。今は全身の傷を治している暇はない。
「さて、やるか」
気合いを入れて意識を切り替える。山をひとつ越えることはできたが、その前から続く山は、まだ終わってないのだ。
動けない野盗Bの前に立ち、その手からナイフを取り上げる。
「くそっ、何しやがる。これをなんとかしやがれ!」
「嫌だね。お前には色々と聞かなきゃならないんだからな」
「えっ」
そう、これからパドマに使われた毒のことを聞き出さなきゃならない。俺の大切な仲間を助けるためなら、極悪人にでもなってやろうじゃないか。
自分が思った以上の不気味な笑いができたのだろう。野盗Bの顔が青くなった。
「てめえ、お、俺に手を出したら、ホワイトフェイスのヤツらが黙ってないぞ!」
「どうせお前は下っ端だろ?ぜんぜんホワイトフェイスらしくないじゃないか」
「き、今日は仮面は置いてきたんだよ。四六時中あんなの付けてられるわけないじゃないか」
「そうか。ホワイトフェイスってのは、みんな仮面を付けているんだな」
「しまった!」
ああ、やっぱりバカだこいつ。
「その話も気になるが、先に答えてもらたいことがある。できれば自主的に話してもらいたいんだけどな?」
「だ、誰が言うかっ!」
強がっているが、説得力のかけらもない。
できるだけ手荒なことはしたくないが、悠長にもしてられないので、とっとと始めてしまおう。
◇◇
協力的でないヤツから話を聞くには、やはり忠誠度を上げればいいはずだ。
そして忠誠度を上げるには、恐怖を与えるのが一番いい。恐怖を与えるのに一番簡単な方法は、そう、暴力である。
というわけで、質問をして俺の求めた答えでなければ一発殴るというスタイルで尋問してみた。
そして数10分後。
正直、やりすぎたかもしれない。
パドマに使われた毒がなにか知るためとはいえ、全くうごけない相手にちょっと調子に乗ってしまったようだ。まさか自分にここまでのSっ気があるとは思ってもいなかった。
ちなみに結果は、こんなありさまだった。
【種族:ヒュム
職業:野盗
体力:20
理性:9
忠誠;53
友愛:-80
状態:】
うん。やっぱりやりすぎた。
体力以下のステータスは、忠誠が20を超えた辺りで見えるようになった。おそらくそこを超えることがフラグになっているのだろう。
話が二転三転して怪しかったので、結局忠誠が50を超えるまでお仕置きしてしまった。でもそのおかげで、やっと信用できそうな答えを聞き出すことができた。
「か、かすり傷程度だったら半日も経てばクスリは抜けます。そ、その間に心を折っちまえば、か、関係ないですから、はい。す、すいません」
こいつが使った毒とは、いわゆる催淫剤。つまりエロくなるクスリだ。過去にも何回もそれを使って、通りかかった女冒険者を捕まえていたらしい。
そんなクスリを使われたパドマの方はというと、今はもう毒がだいぶ回ってしまっているようで、立ち上がることもできなくなっていた。
ザラがそばについていてくれてるが、彼女にも治療は無理らしい。つまりクスリが抜けるまで半日は動けないということになる。
命にかかわるものじゃないという点では安心できた。
自分の残りの傷を癒すために追加の回復薬を飲んでいると、野盗Bが弱々しく声をかけてきた。
「そのビンの形。ひょっとして、ホワイトフェイス御用達のウラルト商会のものですかね?」
「ウラルト商会?俺は顔色の悪い悪党面のオッサンから買ったものだぞ」
「やっぱり!しかもウラルト会長本人から買ってるとは、アニキはすごいお人なんですねえ」
怯えの混じった、おもねった笑みを浮かべてくる。こんな汚い笑顔を見せられても、嬉しくともなんともない。
それよりも、ちょっと聞きたいことができた。
「質問に答えろ。さっきも言ってたが、ホワイトフェイスって全員仮面を付けているのか?」
「いえ、仮面を付けてるのは実働部隊とエリートたちだけです。オレらがいつも会うのは、仮面なんかつけない、パッとしない使いパシリばっかしです。でも、前に上玉を捕まえたことがあって、その時に来た偉そうなヤツは仮面をしてました」
やっぱりか。イヤな予感がした通り、ホワイトフェイスとは俺をあのボロ小屋に連れて行った組織のことだ。
そしてヤツらと繋がりがあるこいつらは、このまま逃すわけにはいかない。さて、どうしたらいいだろうか。
悩んでいると、ザラに声をかけられた。
「なにやってるのよ。パドマがすごく辛そうなのよ。解毒剤はまだ?」
「それが……」
パドマに使われた毒のことをザラに説明すると、ため息をつかれた。
「ったく、しょうもないクズどもね。これだからヒュムは嫌いなのよ」
「ヒュムとか関係なく、ろくでもない悪人はどこにでもいるさ」
「ヒュムはみんなクズよ。それに今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょ」
睨まれた。先に話を逸らしたのはザラの方だろうに。
「まずパドマを楽にしてあげないと」
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