デミナントストーリー ~亜人になった俺は異世界で美女たちと生き抜きたい~
天坂 クリオ
第1話 最悪の目覚め
因果応報という言葉がある。
自分がやったことには、それにふさわしい結果がやってくるという意味の言葉だ。それはごく当たり前のことだし、また間違っている部分もあると思う。
なぜなら、俺が直面しているこの状況は、俺が何かやらかしたせいではないハズだからだ。
「やあ、お兄さん目が覚めたかな?私がこうやって起こすまで眠っていたということは、おそらく昨夜は遅くまで仕事に精を出していたのだろうね」
低いベッドに横になっている俺の顔を、仮面をつけた男が覗き込んでいた。
男の仮面には薄気味悪い笑顔が描かれている。声も姿も若く見えるが、彼が本当に若いかどうかは知らない。
この状況に心当たりがあるのだが、それが俺の身に起こっているというのが理解できない。
だってこの男が現実に存在する訳がない。なぜならコイツは――。
「お兄さん、まだ目が覚めきってないのかな。私がここに来た理由はわかるかな?もし、わからないなら……」
男の右手が懐に向かうのが見え、慌てて言葉を絞り出す。
「か、金?」
声は出せた。違和感が少しあるが、紛れもなく俺の口から出た声だ。
「そうだよ。ちゃんと起きているみたいだね。それじゃ、きっちりと20金、出してもらえるかな?」
男の言葉に、若干の混乱を覚える。20金?単位が違うような気がする。
「それは……」
「まさか用意できなかったと!?そうか、なら仕方ない。私としてもとても残念だが、キミには……」
「違っ、そうじゃない。いつもの!いつもの場所にある!持って行ってくれ!」
男の手がふたたび懐へ向かいそうになったのを言葉で遮り叫ぶ。
身を起こそうとするが、感覚の違いにバランスを崩して低いベッドから無様に落ちた。
体が、重い。打ち付けた体をさすると、たるんだ皮膚の内側にそれなりの筋肉がついているのを感じる。
おかしい、俺はいつからこんなに肉が付いたんだ?
俺が自分の変化に戸惑っているうちに、男は小さな箱の中からボロい布の袋を取り上げていた。
「ちょうどピッタリ20あるね。わざわざ分けておくなんて、お兄さんは几帳面なんだね」
「ええ。その、あなたに面倒をかけたくないので」
「そうかい。ところで、だいぶ貯めこんでいるみたいだけど、そっちはどうするつもりなのかな?」
その金を貯めていた時と、今の状況は大きく変わってしまっている。だから、いろいろやるためだなんて正直に言うことができるはずない。
当たり障りのない言葉で誤魔化しながら、今のうちに確かめておきたいことを聞いておくことにする。この男に警戒されたくないが、何もしないわけにはいかなかった。
「……次の仕事に必要なんですよ。それに、もう借金は払い終えてますよね?」
「……」
仮面の奥から、疑うような視線を感じる。正直すごく逃げ出したいが、いまの状況でそれができるわけがない。
視線を彷徨わせながら耐えていると、男の気配が緩んだ。
「この20金は、この家の使用料みたいなものだ。それと、お兄さんのやらかしたことの後始末に使っている。確かに借金は払い終えてるけど、お兄さんがまだここにいたいと言ったから、ついでにそっちの代金も払ってもらってるんだ」
「ええ、わかってますよ」
これはもちろんウソだ。本当はまだ分からないことがいっぱいだ。でもある程度は予想通りだということはわかった。半分以上絶望的だが、なにもわからないよりはマシだとしておこう。
「今の世の中、
男は芝居がかった仕草で肩をすくめる。
「そういうアナタは、どうなんですか?」
反射的に質問してから後悔する。これはちょっと踏み込みすぎた。
予想通り、男のまとう雰囲気が重くなった。
こちらをじっと見つめる視線に耐え切れず、誤魔化すために笑いかけてみた。
そんな俺に男は興味を失ったようだった。
「ちょっと話しすぎたな。じゃあ、また2週間後。20金取りに来る」
男はそう言うと、手を振りながら扉を開けた。
そのわずかな隙間から見えたのは、濃い緑の木々と、そこに埋もれかけているような細い道だけだった。
遠ざかる足音を聞いて、ホッと息をつく。あの男と話すのは、心臓によくない。
いつまでも突っ立ってはいられないので、家の中の探索を始めよう。
今どういう状況なのか、もうほぼ確定してるが、それでもやっぱり確かめなくてはいけない。
一階には、リビング兼台所、ベッドとわずかな荷物だけの自室だけしかなかった。入り口が直接リビングとつながっている構造だ。
台所は水道が引かれているわけではなく、どこかから汲んできた水を水がめに溜めてあった。
その水がめを覗き込むとそこには、たるんだ顔の男が映し出されていた。
全てを諦めたかのような顔なのに、目だけはギラギラしている。髪の毛は頭の上の方にしかないのに、黒々と茂っている。
まるで外側と中身がつり合ってない、アンバランスな男だ。
俺が頭へ手をやると水がめの中の男も同じ動作をする。俺が水がめへ顔を近づけると、男もまたこちらを覗き込んでくる。
水がめへ手を入れると、男の手がそれに重なった。
ここまで来たら、いい加減に認めるしかない。この、豚のような顔をした冴えない男が俺なんだろう。
そうだよな、イケメンだったらこんな目に遭うはずないよな!あっはっは!
大きくため息をついてから、探索を続ける。現実を受け入れる気にはならないが、とにかく今は時間がない。
自室の中には探すまでもなく、色の変わっている床があった。
そこを持ち上げれば、地下へと続く階段が続いている。
覚悟を決めて地下へおりると、淡く光る石が、4つ並んだ部屋を照らし出していた。
一番手前の部屋を開けると、そこには鎖に繋がれた美しい女性がいた。
【種族:エルフ
体力:50
理性:25
友愛:-82
忠誠:98
愛溺:125
状態: 】
彼女は、服の役目を果たせていない布を体に巻きつけ、硬い表情で俺を見ている。
肌に張り付く長い金髪が、ひどく
予想通の光景にため息をつきたくなる。それを我慢して扉をしめ、次の部屋を見る。
【種族:ドラゴニュート
体力:82
理性:14
友愛:58
忠誠:62
愛溺:48
状態: 】
そこにいたのは、色黒の肌に小さな羽を生やした、大柄な女性だった。
こちらは手枷足枷だけではなく、不思議な模様の刻まれた
彼女は俺を見ると微笑んで、両手を差し出してきた。そのせいで、わずかばかりの布からこぼれたとても豊かな胸が、不用心に揺れる。
慌てて逃げるように扉をしめて、ため息をついた。
あとこの先に2部屋あるが、そこを描写したら確実に規制に引っかかるだろうからやめておく。
なぜならそこにいるのは妖精シルフと呼ばれる種族であり、その姿はいたいけな少女にしか見えないからだ。
それに、今の2人の数値を見て確信した。やっぱりこれは、間違いない。
ここは、俺が最近やっていたゲームの世界だ。
ストーリーとしては、借金が返済できなくなった主人公が人身売買組織によって、何処とも知れない廃屋に連れ去られる。そこで亜人の女性を買って、調教してから売り、その金で借金を返済するように迫られる。そういう、同人エロゲだ。
フリーゲームだったし、単純なシステムだったから気軽に遊んでいた。
その最新のセーブデータの状態で、俺がここにいる。
借金を返し終えてはいるが、普通の暮らしへ戻ることを拒否してここでの生活を続けている。いわば終わりのないエクストラステージの挑戦中というやつだ。
なんでそんなゲームの中に来てしまったのは分からないが、これが現実なら、俺はこれから彼女達にゲームのような酷いことをしなくてはならない。
でも正直、あれはゲームだからできたことだ。ゲームと現実は違う。
ゲーム内でやっていた調教をこの手でできるわけなんてない。
そのことを、彼女たちを見て実感した。
でも払えるお金がないと、俺はさっきの男に処分されてしまうだろう。つまりは死ぬか、それ以上に酷いことになるか。
それは絶対に避けたい。
さっき男に確認した通り借金を払い終えているんだから、帰りたいと言えば帰してもらえるだろう。
でもそうすると、ゲームと同じであるならば記憶を消されることになる。彼らのことを憶えていると不都合なんだろう。
もし記憶を消されたとして、俺は俺でいられるのだろうか?
ゲーム内では、スタートからすでに3カ月以上経過している。今の俺でも不安なのに、3か月前の俺がいきなり見知らぬ異世界に放り出されたら、生きていけるわけがない。今まで稼いだ金も、そのまま持たせてくれる保証は全くない。というかそんな事はありえないだろう。
ならどうすればいいか?
結論、逃げるしかない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます