第32話 名探偵ユッキー
カランカラン…。
「あら~ん…いらっしゃ~いユッキーさん、ダニエルさん」
「やあママ…取り敢えずいつもの…」
「オレも…」
「はいは~い!!」
いつものスナック『ワンチャンス』だが少し様子が違っていた。
「お二人さんが今日初めてのお客さんなのよ~ん?ホント今日はどうしちゃったのかしらね~ん」
いつもはマスコットで賑わう店内が今日は一人もお客がいない。
それ所か従業員の女の子達も来ていないのだ。
それでも白猫ママはいつもと変わらず艶っぽく微笑んでいる。
「それなら丁度良かった…ちょっと珍しいムービーを手に入れたから、一杯やりながら一緒に見ないかい?」
ユッキーは手に持っていたポータブルの液晶画面付き映像プレイヤーをカウンターに乗せた。
「いいけど…どんな内容なのかしら~ん?」
「…これはある魔法少女の記憶の映像をコピーした物なんだが…」
そう言い金色に輝くディスクを取り出すとプレイヤーにセットし再生ボタンを押す。
映像は物凄い爆発から始まった。
「きゃあああああっ……!!!」
悲鳴と共に一人の魔法少女が吹き飛ばされ背中から強烈に地面に叩き付けられる。
美しいブロンドのウェービーなロングヘア、絵本から出て来たようなフワフワのピンクのドレス…。
あれは…『
「…うっ…ぐあっ……!!」
うめき声を上げてすぐに彼は気絶してしまった。
手に握られていたマジカルスタッフは真っ二つに折れてしまっていた。
そしてそのすぐ近くまで歩いて近づいて来る者があった…それは『
「………」
無言で『
「お待ちなさ~い!!」
女性の声がした…その途端まるで固まってしまったかのように『
「殺してはダメと言ってあったでしょ~? この子は私の目的に欠かせない大事な
ふざけた口調とは裏腹に不快なセリフを吐くこの人物は…。
白猫ママだった…。
「…まぁ~良く出来たCGだ事…何ですのこれは~ん? …ドッキリか何かかしら~ん?」
映像を見た後でも白猫ママの態度は変わらない…相変わらずの笑顔を浮かべている。
ユッキー達は勿論遊びに来た訳では無い。
先日の『サーチ』の魔法のコンパスの異常反応はこの店の前で起こり、先程プレイヤーで再生した『
「…あくまで知らばっくれるんだ…ツバサ…ちょっと来てくれるかえ?」
「は~い」
入り口から『
スナック『ワンチャンス』はマスコット専門のお店だ…人が入れる様には造られていない。
何とか四つん這いで上半身だけ店に入る事が出来た。
「わぁ~!! 本当にネコさんだ~!! 私、『
「えっ…あ~よろしくね~ん…」
大好きなぬいぐるみを見つめる時の様に目を輝かせて迫る『
「あっ…しまった!!」
白猫ママは突如大声を上げたが時すでに遅し…。
「あれ~? 何がしまった!なのかな~? ママはツバサと手を繋いだら何か不都合でも?」
「………」
押し黙る白猫ママ。
この反応でママはツバサに掴まれると『リーディングエア』が発動し、記憶や思考を探られる事を知っていると予測できる。
ユッキーは一度たりとも『ワンチャンス』でマスターであるツバサの魔法やアビリティについての話をした事は無い。
だからそれを知っていると言う事は、ツバサを始め目立った活動をしている魔法少女たちに何かしらの探りを入れていたに他ならない。
「あっ…来た来た!!決定的瞬間!!」
『
こうする事でダイレクトに読み取った記憶を映像として衆人の面前に晒す事が出来るのだ。
「ここがファンタージョンなんスね!! いかにもファンタジーって感じっス!!」
両手を空に突き出しながら大声を上げる魔法少女。
赤いサンバイザーに細いストライプの野球のユニホーム的コスチューム。
左手に真っ赤なバット型のマジックデバイス。
彼女こそ『
「ここからが本当の魔法少女としての活動が始まるんだよ」
パタパタと傍らを飛行しているのは
「プロ野球がオープン戦からペナントレースに入った様なもんスか?」
「…まあそんな感じかな…多分…」
野球に詳しくないソバットがそう例えられて困惑する。
「君にはこれからカキン虫と呼ばれる害虫を退治してイェンを稼ぎながらファンタージョンに平和をもたらして欲しいんだ」
「バッチコ~イ!! 自分にまかせるっス!!」
マジカルバットをブンブン振り回す『
「そのバットで直接殴ったら駄目だからね? それはそんな見た目をしてるけど魔法の杖みたいな物なんだから…」
慌てて彼女をたしなめるソバット。
「こんにちは~ん…」
そんな二人に背後から声が掛かる…振り向くと白い猫のマスコットがこちらを見て微笑んでいる…紛れも無く白猫ママだ。
「自分らに何か用っスか?」
「…あなた…見た所炎属性の様だけど…間違いないかしら~ん?」
「…そうっスけど…それが何か?」
「実は炎属性の魔法少女だけを大幅にパワーアップするレアアイテムがあるのだけれど…いかがかしら~ん? 安くしておきますよ~ん」
『
「要らないっス…初めからそんな物に頼っている様ではスポーツマンとして恥ずかしいっス」
実際はスポーツマンでは無く魔法少女なのだが…。
『
「…そう…でもそれを使ってもらわないと…私が困るのよ~ん!!!」
いきなり態度が豹変…白猫ママは何処からともなく不気味な仮面を取り出すと、ジャンプ一番、無理やり『
「うわっ…!! 何をするっス…!! わわわっ…!!!」
仮面はグニャグニャ生き物の様に蠢き彼女の頭を覆っていく…。
そしてそれは泥の様に滴り落ち、遂には身体全体を覆い隠してしまった。
その蠢きが収まった頃には彼女は『
「あんた!! アケミに何をしたんだ!?」
アケミとは『
「お前はこの中にでも入ってな!!」
白猫ママが手に持った真っ赤な宝石をソバットに向けると赤い光が照射され彼を強烈に吸い込み始めた。
「うっ…うわああああ!!!」
赤い宝石に完全に吸い込まれてしまったソバット。
「フフン…これで最初の道具が手に入ったわね~ん」
鼻を鳴らし満足そうな白猫ママ。
「さあ!! お前にはこれからあたしの指示で動いてもらうよ!!」
「………」
『
「…何だい…こうなると意思表示一つ出来なくなるのかい?」
「………」
「まあいいわ…あたしに着いておいで!!」
踵を返し去って行く白猫ママに付き従い『
「これを見ても…まだ言いたい事はありますか? ママ…」
鋭い目つきで白猫ママを睨みつけるユッキー。
「…フッ」
「フフッ」
「アハハハハハ…!!」
急に気でも触れたかのように高笑いする白猫ママ。
「まさかこんなに早くバレるとは思ってなかったわ~ん!!」
クックックッと笑いを堪えられないといった様子の彼女。
「…こんな事ならしっかり始末しておくべきだったわね…『
今度は耳まで口が裂け化け猫の形相で『
ツバサはあまりの恐ろしさに身震いしてしまった。
すぐさま振り向き、逃げる体制の白猫ママ。
「おっと!! 逃がさないよ!!」
裏口から巨漢のペンタスが入って来て道を塞ぐ。
今度は別の出口に向かうが…。
「悪いけどここは通行止めでね…」
煙草をふかしながら立ちふさがるタカハシとネギマル。
「…くっ!!」
周りを固められ逃げ場を失う白猫ママ。
「さあ…年貢の納め時だ!! 観念してもらおうか!!」
ユッキーの合図でその場にいたマスコット達が一斉に飛び掛かる。
「あたしがそう簡単に捕まるか~!!」
ママを中心に囲う様に店の床を突き破り水柱が何本もそそり立つ。
「…うわっぷ!!」
「何だ何だ!!」
水柱に阻まれ前に進む事が出来ない一同。
やがて水柱の威力が収まり消える頃にはママの居た所には床に大穴が開いており彼女は既に何処にも居なかった。
「チッ…逃がしたか!!」
悔しがるユッキーだが足元に何かが当たりふと視線を向ける。
「こいつは…!!」
なんとそれは先程の映像に出て来た真っ赤な宝石だった。
きっと白猫ママが逃げるのに必死で落としたのに気付かなかったのだろう。
「ツバサ!! ちょいとこいつに『アナライズ』を掛けてくれないかえ?!」
「うん、分かった!! …『アナライズ』!!」
赤い宝石が光り輝く…ピキピキと音を立てながらひびが入っていく…
パキイイイイインン!!!
まるで卵がかえる様に宝石が割れ、中から蝙蝠が現れた。映像で見た『
「…はっ!! ここは何処?!」
慌てふためき挙動不審なソバット。バタバタと無闇矢鱈に飛び回る。
「落ち着いてくれ…!! いま事情を説明するから…!!」
ユッキーがソバットをなだめる。
白猫ママを逃した今、これ以上の捜索は困難だ。
取り敢えず
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます