最終章 見えざる魔の手

幕間6 束の間の平穏


 この夜のスナック『ワンチャンス』はとても賑やかであった。


 それと言うのもユッキー達が『地獄の吐息インフェルノ・ウィスパー』打倒成功の打ち上げを貸しきりで開催しているのだ。


 この場には…。

 ユッキー、ダニエル、ネギマル、タカハシ、ペンタスが出席している。

 会場は立席パーティーの形式だ。


「みんなお疲れさん!! 飲み物は行き渡ったかな? では…かんぱ~い!!」


 次々とグラスのぶつかる小気味良い音が響く。


「いや~やっぱりウチのマスターは凄いな~何てったってあの『地獄の吐息インフェルノ・ウィスパー』を倒しちゃったんだから…」


 ユッキーが胸を張り自慢気に語る。


「おっと! そいつは聞き捨てならないな…アンタのマスターの活躍があったのはオレのマスターの作戦と助力があったからだと思うんだが…」


 フフン…と鼻を鳴らしタカハシが話の腰を折って来た。


「何だと!? あのとどめはツバサの魔法センスがあったからこそ決められたんだ!!」


「だが事実上現場の指揮を執っていたのはオレのマスターではないか!!

通常称賛はその部隊の指揮官が受ける物だ!!」


 いがみ合う二人、目と目で火花を散らす。


「まあまあ…リスの旦那も鷹の旦那も落ち着きなって…」


 ダニエルが仲裁に入る。


「邪魔するな!! お前のマスターは戦闘に参加していないどころか現場に遅刻して来たではないか!!」


「あ…? 今何つった、てめえ…!!」


 仲裁に来たはずのダニエルがタカハシに言い分にブチ切れてしまった。

 取っ組み合いになる二人。

 ゴロゴロと床に転がりながら殴り合いをする。


「いい加減にしないか…!! 見苦しい…そもそもオイラのマスターのお手柄が無ければこの作戦自体成立して無い事をお忘れなく…」


 すまし顔でカクテルを煽るペンタス。

 しかしこれは逆に火種に燃料を投下したような物だ。


「ふざけんな!!」


「さりげなく自分のマスター自慢をするんじゃね~!!」


 ダニエルとタカハシが二人掛かりでペンタスに掴みかかり遂には三つ巴の争いにまで発展した。


「…やれやれ…」


 ネギマルが一人、我関せずとカウンターでウーロン茶をストローですすっていた。


「あら~ん…皆さん盛り上がってるのね~ん…でもおイタはダメよ~ん?」


「「「ママ…!!」」」


 この店の白猫ママだ。途端に三人が大人しくなる。


「おイタだなんてそんな…オレ達はただじゃれていただけだよ…なあ…?」


「…そっ…そうそう…それが証拠にホラ…こんなに仲良し…な?」


「…ハッ…ハハハハッ…!!」


 引きつった笑顔で三人は肩を組み仲良しアピールをする。

 ママの機嫌を損ねて店を出禁にでもなったら目も当てられない…。

 マスコットの男たちはママに頭が上がらないのだ。




「ちょっといいか?」


「はい? 何でしょう…」


 宴もたけなわ、ダニエル、タカハシ、ペンタスの三人が酔って騒ぎ立てる中…ユッキーはカウンターにいるネギマルの隣の席に座った。


「確かに魔法少女たちが『地獄の吐息インフェルノ・ウィスパー』を倒してくれて、一見ファンタージョンに平和が戻ったように見えるが…オレにはまだ終わって無い気がするんだ…」


「同意見ですね…まだ『地獄の吐息インフェルノ・ウィスパー』の仮面の出所が分かっていません…」


 神妙な表情の二人。

 炎の龍サラマンドラ戦ののちに保護した少女、『燃える強打者バーニング・スラッガー』と言う魔法少女だったのだが、自分が『地獄の吐息インフェルノ・ウィスパー』として活動していた時の記憶が全くなかったのだ…その証言により彼女が仮面を何処かで発見、誤って自ら被ったと言う線は薄かった。


「オレには事件の裏に何かしらの組織が存在していると思えてならない…これだけの事件だ、単独犯では無いだろう…」


「今の所は全てが憶測と推測の域を出ませんけどね…目撃情報があるじゃ無し…完全に手詰まりですよ…」


 ため息ののち二人に沈黙が訪れる…


「何難しい話してんです…? 折角の打ち上げなんだから楽しみましょうや…」


 完全に出来上がったダニエルがユッキーに圧し掛かって来る。


「…あ~分かった分かった…!!」


 確かに今その事を考えても答えは出ない…。

 気持ちを切り替えユッキーは宴の輪に戻っていった。

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