第四章 友を探して

第19話 第6号 『トラブルシューティング』


 「ようダニエル!!待ったでありんすか?」


 『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』とユッキーはプラクティス時空で『億万女帝ビリオネア・エンプレス』と待ち合わせをする予定になっていた。


「…ああ…旦那達か…」


 ダニエルにいつもの明るさが感じられない。


「あれ? ダニエル君…金ちゃんは一緒じゃないの?」


「…お嬢はちょっと訳アリでね…家に居るよ…お二人さん、悪いがこれからお嬢の家に来てもらえないかな?」


「…うん、もちろんいいけど…もしかして金ちゃんに何かあった?」


「………」


 ツバサの質問に答えず無言でゲートの設置を始めるダニエル。


「…来てもらえば分かるよ…」


 何とも言えない違和感を覚えながら『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』とユッキーはダニエルと共にゲートを潜った。




 ゲートを抜けると広い部屋に出た。

 明らかに普通の家庭であるツバサの部屋とは違う。

 豪華なシャンデリア、美しい壁紙に趣きのある調度品、いかにも高級な洋館と言った佇まいだ。


「あら良くいらっしゃいましたわね…お久し振りですわツバサさん、ユッキーさん」


 後ろから聞きなれた声が聞こえる。


「こんにちは金ちゃん…って…ええっ!?」


「お嬢さん…」


 振り向きざまに挨拶をした『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』とユッキーの目に飛び込んで来たのはカオル子の車椅子に乗った姿だった。


「どうしたの? その車椅子は…」


 変身を解きながらツバサは単刀直入に聞いてみた。


「あの守銭奴ラゴン討伐の戦闘時に受けたダメージが思いの外大きかったみたいで…少し手足が動かし辛いのですわ」


「…そう…」


 うな垂れるツバサ。

 よく見ると腕や脚には包帯やテーピングが至る所に巻いてあった。

 その痛々しい姿にツバサの小さな胸は痛んだ。


「そんなに心配なさらないで…必ず治して魔法少女に復帰しますからね」


 当の本人はそこまで悲観してはいないようであっけらかんとしている。

 その様子を見て少しホッとするツバサ。


「…うん、待ってるね…また一緒に魔法少女しようね!約束だよ?」


「ええ!! 約束ですわ!!」


 二人は指切りをして微笑み合った。


「ツバサさんはもう『週刊 魔法少女 第6号』は手に入れまして?」


「ううん、まだ買ってないけど…そうか~もう出てるんだっけ…」


 ここの所激闘が続いていた事もあって危うく購入を忘れてしまう所であった。


「何かチヒロ捜索の手助けになる魔法が手に入るかも知れません…プラクティス時空に戻る前に本の購入をお薦めしますわ」


「うん!ありがとう金ちゃん」




「…旦那ちょっと…」


「うん? どうしたダニエル…」


 ダニエルが小声でユッキーを呼ぶ、少女二人から離れた位置に移動する二匹。


「今晩『ワンチャンス』に来れるかい?…ちょっとここでは話せない事があるんだ…」


「ああ…分かった…必ず行くよ…」


 やはりきょうのダニエルは何かが違う…挙動不審とでも言おうか…

 もやもやしたままツバサとユッキーは帰路へと着いた。

 そして書店で『週刊 魔法少女 第6号』を購入、

 新魔法を仕入れたのち、再びプラクティス時空へと向かった。




「…う~ん…今は金ちゃんを頼る事が出来ないね…」


「…そうでありんすね…取り敢えず現場検証から始めるでありんすか」


 『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』とユッキーは魔法で飛行している。

 守銭奴ラゴン討伐の舞台であり謎の黒い魔法少女に襲撃されたプラクティス時空の現場を訪れるためだ。


 暫くして現場の上空へ飛来した二人の目に飛び込んで来た光景は

 巨大な守銭奴ラゴンの骨格とそれを更に上回る巨大クレーターであった。

 クレーターはあの黒い魔法少女の火球魔法によって岩が解け、真っ黒く焦げていた。


「酷い…」


 クレーターに降り立ち黒焦げの大地を歩く。

 何かチヒロ生存の手がかりになる物は無いかくまなく見て歩くが、先に進むにつれ絶望の色がより濃くなる。


 ここでおもむろにユッキーが語り出す。


「実は守銭奴ラゴンの討伐要請が『魔法少女協会マギカソサエティ』から来た直後に『魔法少女狩りマギカハンター』への注意勧告が俺達マスコットには来ていでありんす…

ただアチキは仇である守銭奴ラゴンを倒す事だけで頭が一杯になって『魔法少女狩りマギカハンター』の事を警戒していなかったしツバサたちに教える事を怠ったでありんす…本当に済まなかったでありんす…」


 『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』に向かって深々と頭を下げるユッキー。


「仕方ないよ…まさか戦いの後に続けざまに敵が襲って来るなんて誰にも想像出来ないよ…」


 ユッキーを責めてもどうにもならない…今はただチヒロの無事を信じて行動を起こすのみ。


「あっ!!」


 『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』が地面に棒切れが落ちているのを発見した。

 近付いて拾い上げるとそれは真っ黒に焦げ付いたマジカルスタッフの先端であった。

 少し離れた所にもう一つ…どうやらほぼ中心から真っ二つに折れてしまっていた様だ。

 それらを観察するとある事に気付く…マジカルカードリーダーがどこにも無いのだ。


「『魔法少女狩りマギカ・ハンター』は魔法少女を倒してはその子の所持しているイェンを強奪しているらしい…恐らく奴が持ち去ったに違いないでありんす」


「そんな…お金の為に仲間を襲う魔法少女がいるなんて信じられない…」


 チヒロの持ち物…マジカルスタッフであったはずの二本の棒を力強く抱きしめた。


「お姫ちゃんの杖は見つかったけどこれからどうしたらいいかな…」


「こんな時こそ新魔法の出番でありんす」


 実はここに来る前にインストールしてきた新魔法がこの事態にうってつけであったのだ。




 少し前に遡る…。


「さて、今回の魔法は何かな?」


 書店の紙袋から『週刊 魔法少女 第6号』を取り出しページをめくる。


 【トラブルシューティング】


『魔法少女たる者、戦闘に特化だけしていてはいけません。

幾多のピンチ、トラブルを前もって取り除く方法もしくは解決する方法を持つべきです。』


 そう言う前置きから始まった本書。

 魔法は以下の物だった。



 ・サーチLv1…風属性 索敵魔法 半径500mの索敵が可能、地中の探知は精度が落ちる。 500イェン

 ・ダウジングLv1…無属性 探索魔法 消失物、人物の方角を捜索可能、しかし明確な距離までは測定不能。 500イェン

 ・アナライズLv1…無属性 鑑定魔法 敵のステータスの可視化及び物質の正体を解明、看破する。 500イェン

 ・ウェザーLv1…風属性 天候魔法 雲を呼び寄せる。 500イェン



 どれも直接戦闘力にならない魔法ばかり、しかし使い方によっては有効に活用できそうな物があるのではないか…

 『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』の手腕が試される。




「『サーチ』!!」


 まずは周りが安全かどうか確かめる。

 『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』を中心に風が放射状に広がっていく…本の解説通りならこれが500m先まで届いている訳だ。


「うん!何の反応も無いみたい…」


 本来プラクティス時空は敵の侵入を防ぐ魔法障壁が存在するのだが

 守銭奴ラゴン級の強力な怪物や『魔法少女狩りマギカ・ハンター』の様な 元々普通に出入りできる立場の者などは防ぎようが無いのだ。

 これでもういきなり敵に襲われる心配はない。


「じゃあ次は…」


 『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』は先程見つけたマジカルスタッフの残骸二本を地面に並べた。


「『ダウジング』!!」


 その上にマジカルステッキをかざし魔法を唱えると二本の棒は淡い光に包まれクルクルと回り、まるでコンパスの針の様な外見に姿を変えた。

 実はマジカルスタッフを材料に使ったのには意味がある。

 人物探索の為にはその人物にゆかりのある物を使う必要があるのだ。

 だから魔法少女を探すならマジックデバイスは正にうってつけ、これ以上ない素材なのだ。


「これでお姫ちゃんのいる大まかな方向が分かるよ…」


「ああ…」


 固唾を呑んでフワフワと宙に浮くコンパスの針を凝視する二人。

 仮にもう『虚飾の姫君プリンセス・イミテーション』が絶命していた場合は針自体が数秒で消滅するだろう…


 針が物凄い勢いでグルグルと高速回転を始め、ある方向でビタッと動きを止めた。

 赤く塗られている方の針が示す方向にはファンタージョンへの入り口になっているゲートが一つある。


「こっち!? ファンタージョンにお姫ちゃんはいるの?!」


「ああ!!そう言う事になるな…!! ツバサ!!チヒロは生きてるでありんすよ!!」


 俄然テンションが上がる二人。

 ユッキーに至っては言葉遣いが滅茶苦茶だ。


「良かった…本当に良かった…」


 胸に手を当て安堵の表情を浮かべる『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル

 目元には涙が滲んでいる。


「よし…行こう!!ユッキー!!お姫ちゃんを探し出すよっ!!」


「ガッテン承知の助っ!!」


 二人はコンパスの針が示したファンタージョン行きのゲートを急いで潜り抜けた。

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