第17話 哀しい別れ


 突如現れた漆黒の魔法少女の放った巨大火球が迫る。


「皆の者!! 各自防御魔法を展開しろ!! 急げ!!」


 『大地の戦乙女グラン・バルキリー』の掛け声で魔法少女達は各々防御魔法を唱える。


「『エアリーガード』!!」


「『バブルガード』!!」


「『キャッスルウォール』!!」


 『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』の竜巻と『虚飾の姫君プリンセス・イミテーション』の巨大な泡、そして『大地の戦乙女グラン・バルキリー』の出現させた西洋の城壁の様な分厚い壁が目の前に展開される。


 防御魔法が設置された場所まで火球が迫った所で異変が起こった。

 火球が『エアリーガード』に触れた途端、急に燃え上がり勢力を増してしまったのだ。

 それにより水の詰まった泡である『バブルガード』は瞬時に蒸発、『キャッスルウォール』にも大きな亀裂が入ってしまった。

 とは言えギリギリ持ちこたえた防御壁。


「…おい『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』!!

何故風属性の魔法を使った…!!あれでは炎を煽っているだけだろう!!」


「…そんな…!! 私はただあの炎からみんなを守ろうと…!!」


 良かれと思って発動した防御魔法を『大地の戦乙女グラン・バルキリー』に否定され落ち込んでしまった。


「ここは退却だ…!! 守銭奴ラゴンを討伐した今、ここに居ても意味は無い…」


 『大地の戦乙女グラン・バルキリー』の意見はもっともだ。

 当初の目的が『守銭奴ラゴン討伐』であった以上、突然現れた伏兵に構う意味は無い。


「賛成するよ…で…僕らはどうすれば…」


「奴の隙をついてゲートから人間界に戻ればいい…ここからは各個散会して撤退だ」


「えっ!!そんな…!!みんなで協力して切り抜けるんじゃないのかい?!」


 先程の凄まじい火球の威力を目の当たりにした以上、個別に襲われたら一溜りも無い。

 ましてや炎属性と相性が悪い『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』を一人になんてとても出来ない『虚飾の姫君プリンセス・イミテーション』はそう思ったのだ。


「纏まって行動すれば奴に一網打尽にされるぞ!! それに…この程度の危機を乗り越えられないのであれば我が同志たる資格は無い!!」


「そんな勝手な言い分…!! 僕は頼まれたってアンタの同志になんかなるもんか!!」


「…まあまあ…落ち着いてお姫ちゃん…私達がここでケンカしても仕方ないよ」


 今にも『大地の戦乙女グラン・バルキリー』に噛み付きそうな勢いの『虚飾の姫君プリンセス・イミテーション』に抱き着いて制止する『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』。


「『アンダーグランドパッセージ』!!」


 『大地の戦乙女グラン・バルキリー』が魔法を唱えると地面が開き丁度人ひとりが通れる位の穴が現れた。


「では生きていたらまた会おう…健闘を祈る!!」


 そう言い残し彼女はタカハシ共々地面の穴に消え、その直後その穴も閉じてしまった。


「ああっ…!! アイツ~!! こんなに薄情だとは思わなかった!!」


 『虚飾の姫君プリンセス・イミテーション』は悔しくて地団太を踏む。


「…っと僕とした事がはしたない…」


 蟹股で地面を踏みしめるが、自分がお姫様然としたコスチュームを着ているのを思い出しハッとなり慌てて内股に戻した。


「お姫ちゃん!!あのコまたさっきの魔法を唱えてるよ!!」


「ええっ!?」


 空に巨大な火の玉が浮かぶ、まるで小型の太陽だ。

 『虚飾の姫君プリンセス・イミテーション』は考える。

 

(またあの魔法を受けて次も防ぎきれるだろうか…

さっきは『大地の戦乙女グラン・バルキリー』の『キャッスルウォール』もありギリギリ防げたのであって自分一人では…)


「『ヘルズファイア』」


 遂に第二撃がこちらに向けて発射されてしまった!!

 炎をまき散らし突っ込んで来る巨大火球。


(いや…やるんだツバサちゃんの魔法に頼れない今自分が何とかしないと…)


「『バブルガード』!!」


 皆の前に出て防御魔法を展開する『虚飾の姫君プリンセス・イミテーション

 巨大火球と巨大水球の激突!!

 ジュゥゥゥゥっと蒸発を始める水球。

 想像以上に火力が強い!!

 マジカルスタッフを両手で横に持ち耐える。


「ユッキー君!!」


「どうした姫」


 「僕がここでアイツの魔法を防いで時間を稼ぐから、君は奥でゲートを開いてみんなで逃げてくれ!!」


「そんな…それじゃあ君はどうなる!?」


「そうだよ!!お姫ちゃんを置いて私だけ逃げるなんて出来ないよ!!」


「チヒロ…!!無茶だよ…」


 『虚飾の姫君プリンセス・イミテーション』の提案に反対する一同。


「だけどそうしないと僕たちは全滅だ…」


 だが彼は頭を振り意見を曲げない。

 次第に火球に圧されて足が後ろにずり下がる。


「ツバサちゃん…君の風の魔法が逆に炎の魔法を強くしてしまうのはさっきので分かってるよね?」


「…うん…」


「なら炎に対抗できる水魔法の僕が防ぐのが一番いいんだ…」


「でも…」


「早く行って…!!そう長くは持たない…!!」


 『虚飾の姫君プリンセス・イミテーション』の裾が燻り始め顔中から汗が噴き出す。


「…分かった…」


 その様子を見てユッキーも覚悟を決めた。

 全速力で後方に飛んで行きゲート開放の準備を始めたのだ。

 それに続くダニエル。


「そんな…!! ユッキー!!」


 『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』は悲痛な声を上げる。


「ピグ…君も逃げろ…ツバサちゃんの事お願い…」


「チヒロ…!!何言ってもるんだ!!パートナーの私が君を置いて行けないよ!!」


「君に何かあったら僕は魔法が使えなくなる…守りきる自信がないんだ…頼むよ…」


「…分かった…」


 『虚飾の姫君プリンセス・イミテーション』の目があまりに真剣だったので願いを聞き入れる事にした。


「ほら…ツバサちゃん…君も早く行くんだ…えっ?」


 嫌々と頭を振り『虚飾の姫君プリンセス・イミテーション』の背中にしがみ付く『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』。

 背中の感触に今までに無い安らぎを感じたチヒロ。

 もう何も怖くは無い…。


「ツバサちゃん…何だかんだで僕は魔法少女になって良かったと思うんだ…君と出会えたし…カオル子さんと仲直りも出来た…

今までの人生は不幸続きで最悪だったけど…ここ数日はとても充実したものだったよ…」


 嗚咽をもらすツバサ…背中が涙で濡れているのがチヒロにも感じられた。


「だから…君には生きていてほしいんだ…ありがとうツバサちゃん…」


 ツバサの身体が強い力でチヒロから引き剥がされ後ろに下がっていく。


「えっ…!! ああっ…!?」


 それはどんどん加速していく…チヒロが『逃げ水』の魔法を唱えたのだ。


「だめっ…!!お姫ちゃん!!お姫ちゃん!!嫌だ~~~~!!」


 泣きわめきながらチヒロのニックネームを呼び続けるツバサ。


「ツバサちゃん…    」


 その直後、火球が大爆発を起こしチヒロを覆いつくす。

 物凄い爆風が後ろに居た全員に吹きかかった。

 少しだけ顔を横に向けて何か言葉を発したチヒロだったが爆音に掻き消されツバサには聞き取れなかった。


「ああああああああっ!!!!!!!チヒロちゃああああんんん!!!」


 ツバサの絶叫がプラクティス時空に響き渡った…

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