第13話 作戦会議~プレミアムガチャを回そう


「さあ!!作戦会議を始めますわよ!!」


「あはは…」


 さっきまで泣いていたとは思えぬほどカオル子は溌剌としていた。

 これには流石にツバサも苦笑せざるを得ない。

 ツバサと知り合ってから今までで一番穏やかで清々しい表情のカオル子。

 憑き物が落ちたとは正にこういう時に使うべき言葉であろう。


「それでは司会はツバサさんが務めてくださいね」


「え?私?…どうして…?」


「ツバサさん…あなたはわたくしとチヒロの仲を修復してくれました…

 正直、わたくし達二人では絶対に解決できなかった事でしょう…」


 チヒロもうんうんと頷いている。


「人と人の仲を取り持つ事は実はそんなに簡単な事では無いとわたくしは考えます…面倒で厄介で時には第三者であるはずの自分が嫌な思いを沢山する事もある… でもツバサさんはそれを成し遂げてくれた…尊敬に値しますわ…ですからあなたにはわたくし達のリーダーになって頂きたいの」


「ええっ?!」


 突然のリーダー就任要請!

 いつも学校ではあまり積極的に話さず、学級会ですら自主的に発言しない…と言うより出来ない程の引っ込み思案なツバサである…

 突然のカオル子の提案に戸惑いを隠せない。


「でも私…三人の中じゃ一番年下だし…成績だって…その…良くないし…」


 俯きながら両手の人差し指同士を胸の前でつつき合わせる。


「リーダーとは必ずしも頭脳明晰な人間がやる物では無くてよ?

リーダーの資質は人をやる気にさせたり尊敬や信頼を集める事が出来る人物がなるもの…ならこの三人の中ではツバサさんが適任でしょう?」


「うん、僕もそう思うよ!お願いツバサちゃん!僕たちをまとめられるのは君しかいないよ!大丈夫、ちゃんとサポートするからさ」


 二人からここまで言われてしまったらもう断る訳にはいかない。


「そう言う事なら分かったよ…やります…」


 完全に納得した訳では無いが、ツバサはリーダーを引き受ける事にした。




「じゃあ初めにみんなの使ってる魔法の種類を教えてもらえないかな…

作戦を立てるには味方の戦力を知らなきゃいけないからね」


「うん!」


「分かりましたわ!」


 三人は各々のマジカルカードリーダーをミニテーブルの上に乗せ、ステータスの『魔法一覧』の項目を開いた。




 まずは『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』の魔法一覧から。



 ・エアリーシュートLv10(風属性 攻撃魔法)…バージョンアップ可


 ・トルネードLv5(風属性 攻撃魔法)


 ・スカイハイLv5(風属性 移動系魔法)


 ・エールLv2(風属性 補助魔法)


 ・リフレッシュLv1(風属性 回復魔法)


 ・エアリーガードLv3(風属性 防御魔法)


 ・リプレイスメント(風属性 特殊移動系魔法)


 ・コピーLv2(無属性 分身魔法)


 ・ブーストLv2(風属性 補助魔法2)


 ・ダビングLv1(無属性 能力複製魔法)


 ・カマイタチLv2(風属性 中級攻撃魔法)




「あら…ツバサさん、攻撃魔法の『エアリーシュート』がバージョンアップ可能になってますわよ?」


「どれどれ…あ、ホントだ…」


 最近はバタバタしていたのでステータスをチェックしていなかった事を思い出す。


「このままにして置いたら経験値がこれ以上入らないから早めにバージョンアップをしておいた方が良いよ」


「うん、ありがとうお姫ちゃん」


 すぐにバージョンアップに取り掛かろうとカードリーダーを操作すると…


『エアリーシュート バージョンアップには500イェン掛かりますが宜しいですか? はい/いいえ』


 …と表示が出た。


「も~!やっぱりお金が掛かるんだ…」


 もはやお約束である…予想はしていたのでさっさと『はい』の文字にタッチした。


『マイドアリー!!』


「あ…!エアリーシュートが…」


 カードリーダーの画面を見るとバージョンアップ後に

『エアリーシュート』は『エアリーアロー』と名を変えていたのだ。


「強く…なったんだよね?どんな風に変わったのかな」


 早く効果を確認したくてツバサの心は久し振りにワクワクしていた。




 次は『虚飾の姫君プリンセス・イミテーション』の魔法一覧。




 ・ジェットストリームLv15(水属性 攻撃魔法)


 ・タイダルウエーブLv5(水属性 攻撃魔法2)


 ・ヒールLv7(水属性 回復魔法)


 ・バブルガードLv2(水属性 防御魔法)


 ・イリュージョンLv1(水属性 幻覚魔法)


 ・アンチポイズンLv2(水属性 毒回復魔法)


 ・水鏡Lv1(水属性 鑑定魔法)


 ・アクアマインLv2(水属性 中級攻撃魔法)




「あれ?お姫ちゃんの『ジェットストリーム』はレベルが10を超えてるのにバージョンアップは無いの?」


「あ~それね~…どうやら僕が男の子で基礎魔力が低いせいかバージョンアップに必要なレベルが高い様なんだ…」


「へぇ~そうなんだ…」


「さすが水属性、回復等いかにもな魔法が揃ってますわね」




 そして最後は『億万女帝ビリオネア・エンプレス』の魔法一覧。




 ・ゴールドラッシュLv5(金属製 攻撃魔法)


 ・ジャックポットLv5(金属製 攻撃魔法2)


 ・マネーウォールLv5(金属製 防御魔法)


 ・ハレーションLv3(金属製 撹乱魔法)


 ・エクスチェンジ(金属製 換金魔法)


 ・メモリーエクスチェンジ(金属製 特殊換金魔法)


 ・ギフトフォーユー(金属製 贈与魔法)


 ・スカウト(金属製 特殊魔法)




「何だか不思議な魔法が多いね…」


「金属性魔法自体がかなり特殊なのですわ…そもそも戦闘向きではないんですの…ここだけの話、少し使い辛いんですのよ…コストもかなり掛かりますし…」


まさにブルジョアにのみ許された属性だね…」




 発表が終わり、お互いに具体的な魔法の用途と効果を教え合いながら三人で作戦を詰めて行く。


「…う~ん…何かもう一つ決め手に欠けるな~」


「そうですわね…あ…そうですわ!!皆さん『プレミアムガチャ』を引いて見ません事?…多少博打要素が強いですけど、何か有効な魔法が入手出来るかも知れないですわ!!」


「『プレミアムガチャ』か…今の私のイェンの額では難しいかな…」


『プレミアムガチャ』とは高額な課金と引き換えに行うガチャの事で当たりを引けば通常では入手出来ない魔法やアイテムが手に入るが、はずれを引くと目も当てられない…。

 ツバサたち中学生のお小遣いではとても手が出せない物であるし、実際ツバサは一度も試した事が無い。


「ではわたくしの『ギフトフォーユー』の魔法でツバサさんに資金援助を…」


 ツバサは首を横に振った。


「…そうでしたわね…友達同士で金銭のやり取りはご法度でしたわね」


「ごめんね…」


 弱々しく微笑む。

 それを受けてカオル子は別の提案を申し出た。


「では何か思い出深い品物は有りません事?」


「え?」


「わたくしには『メモリーエクスチェンジ』と言って品物を直接イェンに変える魔法がありますの…その品物に持ち主の思い出がこもっていればいる程換金レートが高くなるのですわ」


 思い出の品…無意識にツバサが目を向けた物…。

 それは抱っこするのに程よい大きさの猫のぬいぐるみであった。

 あちこち縫い目を補修したあとがある、相当の年季物だろう。

 棚の上に載せてあったそれを手に取り抱きしめる。


「一番思い出がこもっているのはこの子かな…」


「初めに断っておきますけど『メモリーエクスチェンジ』を実行するとそのぬいぐるみは消滅してしまいますけどよろしくて?」


「え…?」


 一瞬ドキリとした。

 換金の性質上そうなるがまだ中学生になったばかりのまだ幼いツバサにとっては自分の持ち物とお金を交換するなど初めての経験だ。


「…うん大丈夫…もう子供じゃないんだしぬいぐるみ位…」


「本当にその子でよろしいのですね?」


「うん…」


 すぐさま変身したカオル子がゴールデンハンマーをツバサのぬいぐるみに向けてかざす。

 するとぬいぐるみは淡い光に包まれフワフワと宙に漂う…『メモリーエクスチェンジ』の鑑定に入ったのだ。

 空中に表示されたカウンターがカタカタと音を立て目まぐるしく動く。


ジャキーン!!


 お店のレジスターが開くのに似た音でカウンターが止まる。

 果たして換金額は…




「500万イェン!!!?」


 あまりの高額に思わず大きな声を出してしまったチヒロ、慌てて口に手を当てる。


「何ですの…この金額…!わたくしも今迄何度か自分の持ち物で試しましたけどこんな額は初めてですわ!」


 魔法の使用者である『億万女帝ビリオネア・エンプレス』も驚いている。

どうやらこの結果はレアケースの様だ。

 金額が確定したところで光っていたぬいぐるみは急速にしぼんでいって、遂には小さな光の球へと姿を変える。

 そしてそれはスーッと移動しツバサの持っているシルバーのプリカに吸い込まれて行った。


「あっ!」


 するとどうだろう、プリカは眩く輝きカードの色がシルバーからゴールドへと変化したのだ。


『ハイッタ!ハイッタ!コレハオオキイ!!』


 初めて聞く電子音声だ、かなりふざけている。


「!!…ツバサちゃん…どうしたの?」


「え…?」


 ツバサは泣いていた。

 両目から頬を伝い顎の先端から止めどなく涙が滴る。


「あれ…?どうしちゃったのかな…?こんな…」


 何度も涙を拭うが全く間に合わない。




『はいツバサ、プレゼントだよ、お誕生日おめでとう』


『わ~ネコさんだ~!!おばあちゃんありがとう!!』


 ツバサが五歳の誕生日に祖母からもらった猫のぬいぐるみ。

 『ベル』と名付けられたこのぬいぐるみはいつもツバサと一緒だった。

 ままごとの時も寝る時も、お風呂にまで入れてしまって母に怒られた事もあった。


『ベルだ~い好き!!ずっと一緒にいようね!!』


 ベルを空に向かって両手で持ち上げ、クルクル回りながら楽しそうに笑った。




「ツバサちゃん!!」


 グイッとツバサを引き寄せチヒロが抱きしめる。


「いいよ…思いっきり泣きなよ…それほどあのネコちゃんのぬいぐるみはツバサちゃんにとって大事な物だったんだね…」


「うっ…ぐすっ…うわああああああんん!!!!!」


 チヒロはツバサが泣きやむまでずっと抱きしめていた。

 カオル子はその様子を複雑な心境で見守るのであった。




「じゃあ次は僕だね…僕はこれを使うよ」


 チヒロは前髪を止めていたヘアピンを外して差し出す。

 ひまわりの花を模った可愛らしい物だ。


「…これは…あの時の…!」


「そう…これは君が僕にくれた物だよ…」


 懐かしさと愛しさが入り混じったような優し気な眼差しでヘアピンを見つめる二人。

 これはまだ女装に不慣れだった頃のチヒロに、彼が女の子と信じて疑わないカオル子が友情の証としてプレゼントした物だ。


「消えてしまうのは忍びないけど…これを仲直りの証にしたいんだ…

これからはふたりの思い出が新しく一杯出来るんだし…自分を偽っていた頃の思い出は消してしまおうと思って…」


「…分かりましたわ、では行きますわよ~!」


…結果は50万イェン…それでもかなりの高額だ。




「ツバサさん、少しは落ち着きましたか?では本命の『プレミアムガチャ』をはじめましょうか」


「うん、ごめんね…みっともない所を見せちゃって…じゃあ行くよ~!」


 ツバサの目はまだ赤かったが気を取り直して…



 ダラララララララ………。



 ガチャ恒例のドラムロール。

 ゴクリと喉が鳴る…いつにもまして緊張するツバサ。



『『エアバースト』!! コングラッチュレイション!!!』



「凄い!!上級魔法が来たよ!!」


「攻撃魔法が増えたのは大きいね、これは心強い…じゃあ僕も…」



『『逃げ水』!!コングラッチュレイション!!!』



「…何だこれ…」


 ガクッと落ち込むチヒロ、こんな名称ではあるがれっきとした魔法だ。


「魔法は全て使い方次第ですわ、きっと役に立つ時が来るでしょう…ではわたくしも…」



『『黄金の林檎』!!アイテムゲットダゼ!!』



「初めて見ますわね…幸運のおまもり?…無いよりはマシでしょうか…」


 透明な立方体の中に金色のリンゴが入っている、大きさは掌に乗る位。


「じゃあ今手に入った魔法も込みで作戦を組み立てよう!!」


 改めて作戦を練り直す事にした三人、そして…




「いいね!! これならあの強敵『守銭奴ラゴン』を倒せるかも…!!」


「本来わたくし達のレベルでは挑んではいけない敵ですけど、各自の魔法の特徴を生かせれば勝機は見えてきますわね!」


「こんなに素晴らしい作戦が立てられるなんて…僕たちでファンタージョンの平和を取り戻そう!」


 三者三様に盛り上がる彼女たち、しかしそこへノックの音がした。


「は~い」


「ツバサ~? 随分と賑やかだけど…あら…お友達が来てたの?」


「お…お母さん!?」


 不意にドアが開き部屋を覗き込んだのはツバサの母だ。


「お…お邪魔しております!!」


「こ…こんにちは!! 初めまして!!」


 慌てて立ち上がり深々とお辞儀をするカオル子とチヒロ。

 余りにも突然だったので挨拶がぎこちなくなってしまった。


「今お茶とお菓子を用意するわね…ってそう言えば玄関にお友達の靴が有ったかしら…?」


「「「………!!」」」


 二人はプラクティス時空から直接このツバサの部屋へやって来たのだ…

玄関に靴が有るはずも無い。

 母がお菓子などを取りに一階に戻った時に玄関を確認してしまったら変に勘繰られる…これはちょっとしたピンチだ。


「何を言ってるんだい? お友達の靴ならちゃんと玄関に揃えられて置いてあるじゃないか…」


 そう言いながら階段を上がって来たのはツバサの祖母のノドカだ。

 手には三人分のお茶とお菓子が載ったお盆を持っている。


「お母様…ちょっと失礼します…」


 ツバサママはそんな馬鹿なと言いたげな顔で急いで玄関まで階段を駆け下りる。


「あら…本当…」


 何とそこには高価そうな革靴とピンクのスニーカーが確かに有った。

 『どうして…?』ツバサは部屋から顔だけを出して階下の母の様子を窺いながら心の中で思った。

 不思議な事もある物である。


「みんなで集まって何をしていたんだい?」


 テーブルの上にお盆を置きつつノドカは尋ねる。


「え~と…そう!! 宿題を…みんなで宿題をしていたの!!」


 物凄く棒読みな苦しい言い訳をしてしまった…怪しまれたか…?


「そうかい…でも明日が休日だからってあまり遅くなるんじゃないよ?

外はもう暗くなってるんだからね」


「わぁ!! 本当だ!!うん…良い所で切り上げるよ…」


 引きつった笑みを浮かべるツバサ。


「皆さん」


「「はい!!」」


ノドカに話しかけられビシィと気を付けの姿勢で直立不動になるカオル子とチヒロ。


 本人たちも何故だか分からないが、目の前の初老の女性から得も言われぬ雰囲気を感じ取っていた。

 だが威圧感や焦燥感の類の物ではない様だが…


「ツバサが家にお友達を連れて来るなんて今まで殆ど無かったんですよ…

どうか末永く仲良くしてあげて下さいね」


 二人に深々と頭を下げる。


「ちょっ…!やめてよおばあちゃん…」


 ツバサは顔から湯気が吹き出そうなほど真っ赤になって俯いた。


「も…もちろんですわ」


「頭を上げて下さい!むしろこちらからお願いしたいくらいです」


「ありがとうね…頼りない所があるけど根は良い子ですから…」


「だからやめてよ~!恥ずかしいな~!」


 ツバサの顔色が元に戻るにはやや暫く掛かりそうだ。


 程なくして挙動不審な孫を怪しむでもなくノドカは部屋を出て行った。

 何とか上手く誤魔化せた様だ。


「あ~ドキドキしたね~」


「でも良いお母さんとおばあちゃんじゃない…どっちも居ない僕はには羨ましいよ」」


「…お姫ちゃん…」


 チヒロが一瞬寂しそうな顔をしたのをツバサは見逃さなかった。


「おばあ様も心配なさっていた事だしちゃっちゃと守銭奴ラゴンを討伐は明日にして帰りましょう」


 ポンとチヒロの後ろから両肩に手を置くカオル子。


「そうだね!作戦通りやればきっと大丈夫!私達三人の力を合わせれば怖い者無しね!」


 カオル子の方を振り向くチヒロの表情が見る見る和らぐ。

 やはりチヒロにとってカオル子は特別な存在なのだと改めて思うツバさだった。


 夜が更けてしまってはこれ以上ツバサの部屋には居られない。

 作戦の決行時間を決めて今日はお開きになった。

 帰りはツバサママにバレない様に、二人は誰が用意してくれたか分からない靴を履き玄関から帰路に就いた。




 翌日…

 

 三人は各々の自宅から守銭奴ラゴンの待つプラクティス時空へ向けてゲートを潜った。

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