穴を掘っていた
黄金頭
第1話穴を掘っていた
ぼくたちは二列になって歩いた。歩いて針葉樹の森を抜けた。すこし起伏のある芝生の広場が目の前に広がった。ところどころに、ぼくたちの背丈くらいの白い石が置かれていた。
先生の号令でぼくらは整列した。ぼくたちの人数分のスコップが地面に突き立てられ、並んでいた。空は曇っていて、すこし肌寒かった。
「今日はみなさんに穴を掘ってもらいます」
そんなことはみんな知っていた。ぼくたちの学年になると、ぼくたちは穴を掘るのだ。ぼくたちはぼくたちの入る穴を掘るのだ。
ぼくは自分に割り当てられたスコップを手にした。大人用のそれは、ぼくには少し大きく、重かった。穴を掘る場所は自由に決めてよいとのことだった。気の早いやつは、スコップのささっていたその場所を掘り返しはじめた。
ぼくはスコップを両手で持って、あてもなく歩き始めた。なんとなく下に向かって歩いた。ふさがれた穴の上に置かれた石は、どれもこれも似たような白さだった。置かれた時代は違うはずなのに、置かれてちょっぴり時間が経ったくらいの白さで統一されていた。ぼくは石の少ない方を探していた。
ぴったりの場所があった、と思った。そこは針葉樹の森との境にあって、芝生の切れ目くらいのところだった。ぼくは重いスコップを地面に突き立てた。土は思ったより柔らかかった。まわりにだれもいなかったのだけれど、ぼくはスコップにのっけた土をそっと脇に置いた。ぼくは土を掘りはじめた。
ぼくはぼくの入る穴を掘る。どのくらいの大きさの穴を掘るべきなんだろう。今のぼくが入るのにちょうどいい大きさ? それとも、背が伸びて、大人になったときに入れるくらいの大きさ? ぼくはどんなふうに先生が言っていたのかすっかり忘れていた。ただ、穴を掘るのに没頭しはじめていた。
ようやく、縦長の、今のぼくが入れるくらいの穴が掘れた。正直、スコップは重かったし、ぼくは疲れてしまった。疲れてしまって、地面にスコップを突き立て一休みすることにした。スコップを握りながら腰を落とした。ふと、地面が、そう悪くないもののように感じられた。ぼくは四つん這いになって穴を覗き込んだ。土も、そう悪くないもののように思えた。ぼくは四つん這いで穴に入っていった。
土はあたたかい。そう思った。服や髪の毛が汚れることも気にしないで、ぼくは穴の中で仰向けに寝転んだ。土の枠の上に、灰色の雲が広がっているのが見えた。
不意に一羽の鳥が横切った。けれど、ぼくはその鳥の名を知らなかった。
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