告死者
紫織
告死者と少女
告死者キールは今日もまた人間に死期を伝えため、告死者リストに載った人間のもとへ向かっていた。キールはこの仕事にうんざりしていた。死期を教えると決まって人はそんなことはあり得ないと怒鳴り散らす。きっと今日もそんなんなんだろうと思いながらリストの少女のもとへ向かった。
少女は病院の窓から顔を出し都会にしてはよく星が見える空を眺めていた。すると黒い何かがこちらに飛んできた。驚いて窓から離れると、その黒い何かは窓の縁に足を掛け立っていた。少女はもう一度窓の方を見ていると黒い衣装とは正反対の白く美しい髪の青年がいた。青年は言った。
「俺はキール。人間に死期を告げる者だ。」
少女は頭が良く、キールと名乗った青年がこの世の者でないことも、彼が言った言葉の意味も理解した。 少女は悟っていたのだ自分自身の身体がもう長くないことを。残された時間が僅かであることを。
そして少女は言った。
「はじめまして、キールさん。私はマリアです。」
「窓からいきなり知らない男が飛び込んできて驚かないんだな。しかもよくわからないことを言い出すやつを。いつもなら警察呼ぶぞって怒られるのに。」とキールは笑った。顔が整っているからかキールの笑顔はとてもきれいで見とれてしまいそうだった。
「別に驚かなかったわけではありませんよ。普通に考えてこの高さの建物に窓から入るなんて不可能ですし。」とマリアは微笑んだ。
「お前、変わったやつだな。」キールはまた笑っている。
「早速で悪いのだが、本題に入らせてもらう。俺は死期を告げる告死者だ。」
「こく…ししゃ…?」マリアは首を傾げた。
「まあ、簡単に説明するとだな 死期の近い人間に貴方はあと何日で死にますよって教えるんだ。そして死んだ魂を天界に送り届ける仕事だ。最近では未練たらたらで死んで地縛霊になっちゃうやつもいるから残りの時間でやりたいことができるようにサポートする役割を担っている。」
「じゃあ、やっぱり私もう少しで死ぬんだね。」マリアは諦めたような微笑をした。
キールは驚いた顔で言った。
「お前は死ぬなんてあり得ないとか怒ってきたりしないんだな。まるで元々わかっていたみたい…」
「うん。何となくわかってた。日に日に体調は悪くなっていたし…。 あの、キールさん。私にはあとどれくらい時間が残っているのですか?」マリアは尋ねた。 キールはすべてを諭していながらも希望を
「あと…1ヶ月だ…」
その言葉を聞いてマリアは嬉しそうに笑った。キールには何故嬉しいのかまったく理解出来なかった。
「どうしてあと1ヶ月しかないのに嬉しそうなんだ?」
「嬉しいよ。だって1ヶ月もあるんだよ。」マリアはまた微笑んだ。
考え方によって時間の感覚はこうも変わるものなのだとキールは思った。
「まあ、お前がどう思おうがあと1ヶ月だ。やりたいこととかあったら出来る限りサポートはするよ。何か手伝って欲しい時は俺の名前を呼ぶといい。やりたいことはやっておいた方がいい。あとで後悔しないように。因みにお前の肩に残りの余命が表示されるようになってる。それを目安にするといい。それじゃあまたな。」キールはそれだけ言い残すと病室から姿を消した。まるで手品のように。
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