闇の中に見えた光の糸に誘われて。
ナスモトククリ
第1話 プロローグ~宣告~
だれにも言えない悩みがある。
これは誰にもわかってもらえない、と勝手に思い込み、自分でネット検索で病院を探した。
二十代で甲状腺の手術をして以来、一度は回復したものの最近仕事が進まず困っている。頭の中が混乱して仕事に支障をきたしていた。
たまって進まない仕事、離れた実家に住む親の介護、相方の事業拡大の手伝い、甲状腺の治療は放射線しかない、と言われた事もあり、背負っていた荷物は思った以上に多かった。
小さな診療所に勤務していたからケアマネージャーと共に看護師の仕事の手伝いを頼まれる時もあり、それも断れず自分の仕事を後回しに相手から頼まれた仕事を優先してきた。
それが、昨日の午後、急に頭の中が真っ白になり何も書けなくなり涙が止まらなくなった。
「あれ、なんでかな?涙、止まらないや」
ティッシュで隠して誰にも見せないように下を向いていたがなかなか涙は止まらずそれが限界のサインだと気づいた。
地元の病院には精神科しかなく心療内科なら甲状腺の治療中だから何とか話ができそうな気がした。
入った途端、穏やかな音楽が流れ、癒される雰囲気が広がって自分の医院との差を感じる。
事務員も優しく声をかけてくれるのだが、優しい声かけは逆効果だった。
涙がまたあふれて止まらなくなり、そっとミニタオルで押さえたまま順番を待った。
「近藤様、近藤あやね様」
マイクで呼ばれた声を頼りにその部屋に入った。
眼鏡をかけた医師がじっと顔を見て問診する。
仕事の話になった時、また涙が流れだした。
なんで涙が流れて止まらなくなるのか、自分でもわからなくて困っていた。
医師はそんな私を見て一言聞いた。
「今、一番つらい事は何ですか?」
「どれか、と言われたら仕事です」
医師はちょっと考えたのか無言の時間があり、一言。
「うつ病かもしれないからしばらく仕事は休みなさい」
「え、仕事を休むなんてできません」
「でも、一番つらいのは仕事でしょ?それなら離れた方が一番いいと思うよ」
診断書を書いてくれ、うつ病と眠り薬と甲状腺の薬をもらって病院を出た。
これから、どうやって生きていけばいいかわからない。
うつ病なんて仕事、クビになるかもしれない。どうしよう!
私の頭の中は真っ白になった。
翌日から自分の生活が変わるなんて想定外の出来事が起こったのだ。
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