第14話

「じゃあ、私も帰るね。

これからごはんだから。」


「そっか…じゃあ、そこまで送って行く。」




すぐそこだから良いっていうのに、ヒデくんはうちの近くまで着いてきてくれた。

大人だと普通に歩いて1分か2分。

その短い時間の中で、私は密かに思い悩んでいた。




そう…アレを渡すかどうかってこと……

渡せるはずのないものが、たまたまこんな偶然に恵まれた。

つまり、それは渡せってこと!?

いや、そんなの、都合の良い考えだ。




そんなことを考えながら、結局、決断が出ないまま、私達は家のごく近くにたどり着いてしまって……




「じゃあな。

帰る前にまた会えそうだったら、会おうな。」


「う…うん……」


「……どうかしたのか?」


「うん……あ、あのね…久しぶりの再会記念にこれあげる!」


私は手提げから例のアレを取り、ヒデくんの前に差し出した。




「え?これって、もしかして、チョコ?」


時期的にもそうだし、ハートだらけの派手な包装紙を見れば、誰にだってそんなことはわかる。




「当ったり~!明日はバレンタインだから。

実はね、友達が一緒にチョコを作ろうって言って来てね。

あげる相手はいないけど、ま、自分で作って食べるのも良いかな…なんて思って作ったんだ。

こんな時にたまたま帰って来るなんて、ヒデくん…ツイてるよ。

かなりうまく出来たんだから!」


心に秘めた想いを悟られまいとでもしてるのか、私はぺらぺらとそんなことをまくしたて、作り笑いまで浮かべてた。




「本当だね。

へぇ…手作りなんだ?嬉しいな。ありがとう。」


ヒデくんは意外な程素直に、私からのチョコを受け取ってくれた。

断られたらどうしようって、緊張してたのが馬鹿らしい程に…




「じゃあね!」


何事もなかったかのように私は笑顔で手を振った。

心の中は、余裕なんて少しもなかったのに……

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