第19話 オカルトファンタジーな仲間
「おっ、シン!試験はどうだった……」
「――――少しでもシン様のお役に立ちたいんです、その為に村から貯金も持ってきましたし」
「いや、だから俺は英雄何かじゃな……フレイ」
試験部屋を出てからもルナの真を持て囃す言葉の嵐は留まることを知らない。
余程自分にとっての憧れである英雄真とこうして話せるのが嬉しいのか、ルナはうって変わって饒舌だった。
部屋を出た所でフレイが待ってましたと言わんばかりに真へと近づくが、隣で青い髪をサラリサラリと揺らしながら真へと話しかける少女を見て言葉を出しあぐねていた様だった。
「……シン、試験中に女を口説くとは随分余裕があったんだな」
「違う」
勘違いを両脇に抱えるこの現状に、強いて言うなら逆ナンだと言うような軽口を返す余裕もなく真はその場で頭を抱えた。
「……って、この人はっ!?……そ、そうですか分かりましたシン様のお仲間の方ですね。この方の許可が必要と……え、えと……あのっ!」
「ぅ、えっ!?」
ルナはどうやら更なる勘違いを重ねて今度はフレイへ旅を共にする許可を求めに駆け寄った。
「ぇと、私ルナ=ランフォートと申します。シン様に憧れてこの度D三級のギルド員となりました。まだまだ未熟者ですがどうか私を仲間に入れて下さいませんか!?」
「お、おいおい……ってシン?これは一体何事だ」
「…………それは俺が聞きたい位だ」
突如として、いや、そこに現れるべくして現れた勘違い魔導士ルナ=ランフォート。
この少女の存在で真のひっそりとこの世界を生きる計画は頓挫の兆しを見せていた。
あの時咄嗟に助けた事が因果とは言え、その応報がこんな事態だとは。
真は盛大にその場に立ち尽くし溜め息を吐いた。
◆
「……成る程な。命の危機を救ってくれたシンがそれで英雄呼ばわりか、大体話は分かった。それで遥々南の村からシンの為に一人出てきたって訳か……シンも中々罪な男だ」
真、フレイ、そしてルナの三人はギルドの二階、待ち合い所と言ったロビーに並ぶ丸テーブルを囲ってギルド証の発行を待ちながら経緯を語っていた。
ルナは真にも話したように魔物に村が襲われ、自分の力が及ばない所を助けてもらった事、村に伝わる言い伝えによってシンが英雄だと確信した事をフレイに意気揚々と話した。
「俺は別に……」
「まぁその何だ……旅は悪くないがルナ、王都も初めてだろう?ここは広いぞ、先ずはギルド員として仕事をしながらゆっくりと自分の力を把握してそれからでも遅くはないと思うぞ?それにシンも当面はここで過ごす気でいたんじゃないのか」
「……まぁ、な」
むしろ永久に、その身が何処かで朽果てるまでここで暮らすつもりだったとはこの状況ではとても言える筈もない真であった。
だがしかしさすがは経験豊富なB階級のギルド員である、フレイは優しく諭すようにそう話して短いこの数分の会話の中であっという間にルナを手駒に取っていた。丸く話を収めたとも言う。
ルナは自分の行動が突飛していた事、シンがそれを迷惑がっている事を少し理解したのか俯き反省した小動物の様になっていた。
「……と、それは良いとして試験はどうだったんだ?シンならそこそこの評価が得られたんじゃないのか――――」
「それなんですっ!フレイさんっ」
「んっ!?」
先程まで反省し大人しくなっていた筈のルナはフレイのその質問に大きく反応した。
「確かに私は魔力マナは使えます、でも武器なんて触ったも事ないし、私の魔力はあっさりと消されてしまうし……それなのにあの試験官は私とシン様が同じDの三級だって言うんですよ!おかしいと思いませんっ?シン様なんか素手であの試験官を組伏せたんですよ?剣も……あの時に比べたら何かこう、あれでしたけど……それでもブルーオーガの大群を一人で倒せるシン様と私が同じ階級なんておかしいですっ、烏滸がましいです!」
「……」
あれだけ口が固いと言っておきながらよく喋ってくれるじゃないかと真はルナに視線を送るが、ルナの目は真剣そのもの。
ギルドの階級の在り方をおかしいとフレイに提言し続ける。
「ははっ、そうだな。確かにシンは強い様だがそれがギルドの方針だからな。魔力結石マナマイトを扱えない人間は寧ろもっと下から始まるからシンがD級というのはそこそこ譲歩され…………ん、ちょっと待て」
フレイがルナのそんな反論を子供の我が儘の様に軽くあしらった所で突然その表情をしかめ言葉を詰まらせた。
「……ルナ、村を襲った魔物と言うのは、何だ?」
「えっ、だからブルーオーガですよ。私の魔力じゃ歯が立たなくてそこへシン様が現れて一網打尽に……ってさっき話したじゃないですか、フレイさん」
ルナは自分の話を真面目に聞いてくれてなかったのかとフレイに若干の苛立ちを感じている様だったが、そこは英雄真の仲間であると言う事からあまり表情には出さない。
それよりも驚愕の表情で固まるフレイは口を半開きにしたまま視線を真へと泳がせた。
「……真、今の話は本当なのか?」
「……今更何だ、その魔物とかの種類を俺は知らないが確かに殲滅させた。青くてデカイ、そう言えば一丁前に剣も持って防具らしき物まで体に巻き付けていたな」
真はあの時に切り伏せた化物を思い出していた。青黒く鬼の様な体躯と形相、そして手に持つ大剣と腰に巻いた鎖帷子。
生物兵器バイオメタトロンですらあんな物騒な格好はしていない、と言っても初めて出くわしたこの世界の化物が生物兵器、ひいてはアンドロイドキルラーに及びも着かない程弱くて助かったと今なら思える。
フレイからこの世界の事を聞いていく内に、真はここにはもしかすると地球以上に、いやあの日本以上に危険な場所かもしれないと思い始めていたのだ。
「……間違いない、それはブルーオーガだ。その大群を、一人で……だと?あれは一匹でも私ですら手に余る魔物だぞっ!過去に討伐した記憶もあるがあの時はパーティを組んでいて……それでも実戦経験の少ない奴等は、犠牲になった……それをお前一人で……そんな……馬鹿な……シン、お前は一体……」
フレイはわなわなと体を震わせ拳を握る。
それほどの脅威には思えなかったがフレイでも手に余る化物、真はもっと危険な生物がこの世界にいると考えていた為に自分が行った行為がそれほど大層な事には思えなかった。
「そう言えばフレイさんの階級ってどれくらいなんですか?」
フレイが何か考え込む様子等自分には関係ないかの様にルナがそんな事を尋ねる。
そう言えばルナにはまだフレイの事を紹介していなかった事を思い出した真は、改めて自分とフレイの出会いを話してやった。
「……そうだったんですか……私の村の近くにそんな街があったなんて知りませんでした。村長さんはああ言っていたけど私自身あの村を出るのはこれが初めてでしたし……」
「そう言えばお前……ルナ、はよくあの森を越えて来れたな。途中獣とか大丈夫だったのか?」
よくよく考えればブルーオーガとか言う魔物に苦戦していたルナがあの森をよく無事に一人で越えてきたものだと思う。
丸一日はワイドの街で時間を使ったが、それでもこうして同じ時に王都にいるのだ。こんな世間知らずの少女が一人で、野宿など出来るのだろうかと真は疑問に思っていた。
「獣……ですか?大丈夫とは……ここまで案内してくれたのもグレイズウルフですし……あの子達も成体になると乗れる位にもなるんですよ?」
「……あ?」
「何だと!?」
ルナの平然といい放たれた言葉に真は理解が追い付かない、獣に案内、ましてや乗ってきたとはどういう状態か。
ますますこの星が真の理解の外にいるオカルトファンタジーだと思わざるを得ない、ただどうやら今回ばかりはフレイもその言葉に驚きを隠せない様子で先程までブルーオーガを一人で……とぶつぶつ呟いていたにも関わらずルナの乗獣話に再び声を上げた。
「えっ、え……何ですか……村の皆も獣達とは仲良くやってますよ、そんなにおかしいですか?え、お二人はどうやってここまで……」
「……獣使いモンスターテイマーが住む村が何処かにあるらしいと言うお伽噺を聞いた事があったがまさか自分の育ったこの国に……しかもワイドの街のすぐ近くに本当にあったとはな…………お前達は一体どうなってる」
フレイはそう誰に言うでもなく呟くと、力の抜けた人形の様に椅子の背もたれへと体を預けた。
そのお前達の中に俺を入れないで欲しいと、真はこの世界の現実に頭を抱えたくなった。
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