盗賊団とリーダー

第5話 ワイドの街


 村長から聞いた道なりを頭で反芻し、森へと足を踏み入れながら真は先程貰った銀硬貨を指でつまみながら眺めていた。


 デバイスを起動させ、フィールドを半径1メートルで展開。もう少し狭い範囲で展開させられるならばこの硬貨の素材がはっきりするのだがフィールドの範囲設定が最低半径1メートルなので仕方ない。


 真はデバイスに注視し、元素一覧を確認した。

 フィールド内で補足された元素は高濃度順に表示される様になっている。

 N、O 、H、C、Ag、Si、Mg、Fe、Rb、unknown1、unknown2、数多くの元素記号、他にも多くの元素があるだろうがあまり濃度がその範囲内で低いと判定されれば表示はされなくなる。



「半径1メートルとなると鑑定も難しいか、だが金属だな」


 銀が高濃度に含まれて事からやはりその硬貨が銀だと判定出来た。

 他にもケイ素やマグネシウムも含まれるが、それが硬貨に残存する物かはたまた大地の鉱物分かは検討が付かない。



「Rbか、この銀貨に含まれているのか?それで酸化してこんな色に」


 だが土に含まれる鉱物は多用である。

 どうあってもこの判定方法では銀が含まれる事ぐらいしか分からなかった。


 それより気になるのは先程ブルーオークと対峙した時にも表示されたunknownの表記である。

 未知の元素を補足出来る機能などこのデバイスにあったのかどうかと疑問だ。


 確かに新元素の発見は科学の発展と共に容易にはなったが、現在と言っていいのか真のいた時代の地球ではもう新元素はあり得ないと言われていた。

 ここは恐らく、いや間違いなく他の星だろうがこの元素が何か分かれば大発見になるだろう。

 と言っても、もう戻る術の無い真には関係の無い事だが。



 とにかく今、これからの目的は村長の言っていた街へ向かう事。

 そこで出来る限り現地民を装い、情報を得る事だ。

 先程の村より人口が多ければ真の存在に疑問を持つ者も少ないだろうと考えての事である。今度は下手に地球上の技術を使わない様に気を付けようと心に誓った真であった。



「加速システム」


  設定を改め1.3倍に変更した加速システムの程よい速度で森を疾走する。

 ついでに反発応力を上部に向けて発動、木々を突き抜け一気に上空20メートル程まで飛び上がった。

 鬱蒼とした木々の海が辺り一面に広がり、夕陽が真の視界を一瞬奪いそうになるが目を反らしながら薄目で周りの状況を確認する。

 数キロ程先に一筋の河が見えた、恐らくはあれが村長の言っていた物だろうと当たりをつけ、引っ張られる重力によって真の体は地面へと落下する。


「あっちの方角だな……重力操作と」


 空中で体勢を立て直しながら冷静にデバイス操作を行い、重力設定を範囲1メートルで0.1倍に。

 真の体はまるで木々から落ちる木の葉の様な速度でゆっくりと地面へと降り立った。









 街、そう呼ばれるからにはそれなりの範囲で構造物や家屋が建ち並び人が行き交う地域を思い起こしていた真にとって目の前にあるそこはまるで都内の外れの一角を切り取ったかのような場所だった。


「これがワイドの街ね」


 街全体が簡単に見渡せる程小さいじゃないかと検討違いな事を思いながら、街の入り口であろう二本の柱に刻まれた街名を一瞥し真は足を踏み入れた。

 辺りは草地に囲まれ、まるでそこだけがどこからか運ばれてきたかのように家屋が密集しその街を形作っている。


 村からこのワイドと言う街までも随分距離があったように思う。

 この世界に他にも幾つか街があったとしてひとつひとつがこうも離れ敷地が狭いとなればこの世界はよっぽど開発が遅れている事になる。


 それでも真はポツポツと歩く同じ人間を見るなり僅かばかりの安心感を得ていたが、その誰もが真をチラチラと伺い見ては目を逸らして過ぎ去っていく。

 少しばかり気になる視線に自分の服装に原因があるのかとも考えた。確かに周りの人間が灰色や茶ばんだ色合いの皮服に身を包んでいるのを見れば自分の合金製ブーツはどこか浮いて見えるが上は見かけだけならただの黒いシャツにしか見えない筈だ。


 実際は対アンドロイドキルラー戦闘用の特殊化合物によるメッシュアーマーだがそんな事は知る人間でなければ分からないだろう。


 そんな不可思議な視線を受けながらも真は街を静かに見渡しながら練り歩いた。


 街には殆ど人通りが無く、たまに見かける人間もどこか生気を失った様な表情で黙々と何かの仕事に従事している様に見える。

 建物は一階から二、三階程度の木造家屋しか見られなかったが時折見る鉄製の看板であろうそれの文字を読める事に真は安堵し、とりあえずは人の集まっていそうな場所を探した。



 ふと看板に酒場とだけ書かれた一軒のログハウス調の家屋を見つけ、そこから外まで響く笑い声を耳に留めて真は足を向けた。


 真の突然の入店に店内の喧騒はぴたりと止み、中にいる数人の人間が一斉に振り返る。

 中は酒樽やグラスが散乱し、アルコール独特の臭いが充満している上、此方を鋭い眼光で睨む男達は皆屈強に見えた。

 先程まで外を歩いていた人間とは違う生気のある、怒気を含んだ異様な雰囲気に一瞬呑まれそうになる。


 しかもそこにいる男達の中にはまるで中世ヨーロッパの騎士かの様な剣を腰に差している者までいる。

 真はほとほと此処が今までいた世界では無い事を実感せざるを得なかった。




「おまっ――」



 真が店内に一歩足を踏み入れると、一人の男が立ち上がり様此方へ何かを言おうとしたがもう一人の、銀色に光る胸当ての様な物を付けた男がそれを止めて真の元へ近付く。



「見ねえ顔だ、あんた冒険者だろ?」



 男の突然の問いに真は答えあぐねたが、直ぐ様頭を切り替えそうだと答えた。


「見た所武器もねえって事は魔力マナ使いか、まあいい。宿ならこの先の二階家が空いてるぜ。まぁゆっくりしていきな」



 男はそう言うと真に背を向け再び散らかったテーブルに足を乗せて悠々とグラスを煽る。

 周りの連中も真に一瞥くれたがそのまま何事もなかったように黙って自らのテーブルにあるジョッキやらグラスに手をつけていた。


 先程とは違い静まり返る店内に何処か場違いさを覚え、真は何も聞くこと無く先程男が言った宿とやらにとりあえずは向かうことにした。

 

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