第3話 異世界へ
「加速システムが異常過ぎる、磁場の強さが地球とは違うのか」
その磁場に対する反発力を利用した加速システム。
ここが地球ではないとしてここまでの速度が出る物だろうかと疑問は拭えない。
真が加速システムを起動してからコンマ数秒で百メートルは移動している。
何なら刃を合わせたと言うより今のはたまたま標的に当たったと言うレベルだった。
おまけに収束させた筈のカーボナイズドエッチまで消えてしまっている。あまりに高速で瞬時に移動した為バトルフィールドの元素捕捉追尾が追い付かなかったのだ。
「これは……設定を変えないとか」
だが今は悠長にデバイスを弄っている暇は無い。
速度は慣れ、収束させたカーボナイズドエッチが範囲外で消えてしまうとは言え一回ずつ収束させ直せばいいと真は考え、化物の群を振り返り、再び元素の収束と加速システムによる戦闘を繰り返した。
「……あ、ぅあ」
少女はその現状に何かを言おうとしていたが、再び瞬時に消える真と刹那に切り刻まれその身を地に沈める化物達を前に声も出せないでいた。
村を襲った化物の軍勢はものの数十秒で全滅していた。
散らばる残骸とその体液と思われる根岸色の池の中央で真は携帯端末デバイスを弄っていた。
何とか異常な加速システムの速度に対応し、現状の危機を回避したとは言えこのままでは使い物にならない。
何せ異常スピードに自由に体勢を合わせる事も難しく、収束させた元素も消えてしまうのでは話にならない。
ここが戦闘など必要の無い国、時代ならまだしも先程の様な生物が存在している以上、加速システムの設定変更は真にとって必須とも言える。
加速システムは現在地球上磁場の平均Gbのおよそ2倍を想定して反発応力が発生するするように設定されている。
設定変更可能領域は1から2.5倍までが限度だが、あの早さは恐らく地球上で使用した時の4倍以上は出ている真は踏んで1.5倍位がベストだろうと設定を変更した。
試しにその設定で加速システムを起動させると、それでも少し早過ぎるが先程までの極度な動きに比べこれなら体勢も十分に反応出来た。
そんな動きの練習を真は一人化物の残骸が散らばる中で繰り広げていた。
「あ、あ、の……」
「ん?」
静けさを取り戻した集落の端である声に真はふと我に返る。
化物の軍勢に対峙していた一人の少女、真はその存在をすっかり忘れデバイス操作に没頭していた。
迂闊だった、ここが何処か、時代も分からないのに自らの情報を外部に漏らしてしまった事。
いくら目の前に生物兵器に並ぶ化物がいたとは言え早計な行動だったかもしれないと真は後悔していた。
「あなたは、一体」
その質問に疑問を覚える真。
何故か、それは目の前にいる少女の髪色が染色によるものには見えない程の青色で尚且つ日本人離れした顔立ちにも関わらず日本語を話したからだ。
デバイスに翻訳機能等無いはずだった。
だからと言って真自身、外国語に脳内変換が必要無いほど通じてはいない。
ならば一体ここは何処なのかと。
言語からして日本は間違いないと仮定する、だがしかしここは集落の様だ。
数十年前の田舎の外れかとも考えたが、真にとって一番大事なのは時代である。
国は何処だろうと跨げば問題はないが、歴史を変えるにあたってあまりに過去に戻りすぎては真自身の体が持たない。
理想はある程度の科学が発展した辺りなのだ。
だがこんな奇怪な生物が剣を持ち、隊を成している時点でどう考えても地球ではあり得なかった。
「今、何年か、分かるか」
「へっ?」
あまりに突拍子も無い言葉に気の抜けた声をだす少女。
だが真は自分の言葉も相手に通じるのかを確かめる意味をその言葉に含めていた。
「え、えと……ルダーナ、歴の、五年……だったと」
西暦でもなく元号、世界に存在する元号を全て知っている訳ではない真だが言葉が通じる事、化物の存在、そして暦。
この全てを合わせ鑑みるにここが確実に地球上では存在し得ない場所だと理解するしかなかった。
他の星でたまたま言語が同じだったのか、はたまた地球の日本であり、パラレルワールドか。
様々な考えが脳裏を過る。
が、そこでふとフォースハッカーの中でオカルト好きのメンバーの一人がよく言っていた言葉を思い出していた。
――――異世界。
時空転移装置のプログラムが完成した時、そのメンバーの一人はこれを使えば異世界も夢じゃない、剣と魔法の世界だとはしゃいでいた。
周りのメンバーはこんな時にとその話を一蹴したが、よく考えれば時空転移装置もこの元素収束のイメージ構図の発案もそのオカルトメンバーが第一人者だったのだ。
宇宙は情報の塊であり、全ての星の一時一刻を全て記録し宇宙速で膨張し続けている。つまりその方向性を把握し、それと逆行し宇宙速を越える速度を持って移動する事で時間転移が可能になると言う。
だがそれには粒子分解転移装置が前提として必要だった為、それを奪って今真は此処に存在する事になった。
こうなるとあのメンバーが意図的にプログラムをこう言う風に作成したとすら思えてしまう。
もしくはあのデスデバッカーの開発した転移装置自体がまだ未完だったか、考えればその原因の追究は真の知識では無理があった。
真はフォースハッカーの中で開発された装置を用いアンドロイドキルラーに対抗する為の戦闘要員である、科学知識やプログラミング知識は他のフォースハッカーのメンバーに遠く及ばないのだ。
「あ、あの、もしかして貴方はギルドの!依頼を見て……来てくださったのですか!」
「ギルド?」
考え事をしていた真に放たれる聞き覚えの無い単語、ギルドと言う限り何かの組合なのだろうと検討はつくがその依頼とは何か。
真は何が何やらと言った様子で少女の輝きに満ちたその淡い青色の瞳を見つめていた。
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