第13話

 月が静かに町を照らしている。そんな月明かりの中、ひと気の無い公園に二つの影が見えた。

 一つは、人間の影。十代後半と思われる、活発そうな少女だ。

 もう一つは、一言で言うのが難しい。とりあえず見たままで説明するのなら、全長は五十センチ程度だろうか? ほとんど白に近いような薄いピンク色をしている。柔らかそうだ。餅かマシュマロでできているのではないかと思うほどに。頭部は犬かウサギを思わせる。眼は大きくつぶらで、ルビーのような濃い赤色だ。短い四肢があり、すらりと伸びた尻尾が揺れている。そして背中にはセロファンのような薄い羽が生えている。正直、この羽でこの生物が飛べるとは思えない。アニメからそのまま抜け出してきたように思える姿の生物だ。

 そのアニメのような生物は少女に言う。

「さぁ、アタシの魔力の火種をあなたに宿し終わったわ。これであなたは、魔法が使えるようになった筈よ」

「ありがとう、フォルト! 私、昔から魔女っ娘に変身して魔法を使ってみたいって思ってたの」

 少女は今にも踊り出しそうなテンションで礼を言い、そしてアニメのような生物――フォルトを両腕で抱き締めた。

 そんな彼女の視界に、闇の中で蠢く何かが入った。近くに、玉ころがしの玉より少し小さい程度の卵の殻が落ちている。……イーターの幼生体だ。

 少女は、一瞬だけフッと冷たく笑うと、右手をスッと宙に挙げた。すると、桃色の光が少女の手に宿っていく。

 少女は、唱えた。

「咲き誇る刃の花よ、今ここに激しく散れ! つるぎ吹雪の舞!」

 少女が唱え終わるとほぼ同時に白銀色の花吹雪が吹き荒れ、仔イーターを包み込んだ。刃のような鋭さを持つ花吹雪は仔イーターを切り刻み、やがて産まれたばかりの仔イーターは断末魔の叫びを残して黒い煙と化した。

 その様子を見届けると、少女はフォルトに楽しそうに問うた。

「ねぇ、フォルト。変身した時の衣装は、どんなドレスが良いかな?」

「どんなドレスでも良いわ。あなたが最高に輝ける衣装であれば、何でもね」

 月が静かに町を照らしている。そんな月明かりの中、少女とフォルトは、何事も無かったかのように楽しげにひと気の無い公園を後にした。

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