赤い池

にごう

第1話

学校の中に小さな池がある。昼間は何の変哲もない普通の池だ。

しかし、夜になるとこの池が真っ赤に染まるらしい。

そんな噂話を聞き付けて、俺は夜の学校に忍び込んでみようと思った。

学校はいつも通り日が落ちて暗くなるころには門が閉まってしまう。しかも、夜間は警備システムが作動しているので、校舎等の施設類の中に入ることはできない。

しかし、池のあるところまでは入ることが出来るのだ。


真夜中の2時過ぎ、霊の行動が活発になると言われている丑三つ時、辺りに誰もいないことを確認すると、俺は素早く門を乗り越えて校内に入った。

普段とは違う入り方をすると、何だか不思議な気分になった。そして、まるで冒険でもしているかのように思い、ワクワクしてきた。

門から数十メートル先に噂の池がある。俺はゆっくり歩いて近付いていった。

暗いせいなのかわからないが、池までの距離がいつもより遠く感じた。


池にたどり着くと、俺は池の中を覗き込んだ。しかし、どう見ても昼間と同じただの池である。本当にこの池が真っ赤に染まるのだろうか?

そんな疑問を抱いていると、急に池の底から泡が噴き出してきた。

そして次の瞬間、今まで普段と何も変わらなかった池が急に真っ赤に染まったのだ。

さらに、それと同時に後ろから声が聞こえてきた。

「憎い、憎い、憎い!……てやる」

その瞬間、俺の背筋は凍り付いた。

この声の主は間違いなく真後ろにいる。俺は唾をゴクリと呑みこんだ。

そして、覚悟を決めて後ろを振り向いた。

すると目の前には、この学校の制服を着て、全身がビショビショに濡れている女の子が立っていた。しかし、前髪が顔にかかっていたので顔は見えなかった。

よく見ると、彼女の左手首からは大量の血が流れていた。そして、右手にはナイフを持っていたのだ。

すると、

「…してやる」

俺は彼女が何を言っているのかわからなかった。

「殺してやる!」

確かにそう聞こえた。

次の瞬間、前髪が両側に分かれて顔が見えた。そして俺の全身は固まった。

その顔はもう人の顔とは思えぬほど恐ろしいものだったのだ。目は真っ赤に染まり、口の中から見える歯は鋭く尖っていた。俺は震えが止まらなかった。

「殺してやる!」

声が大きくなった。

そして、彼女は右手を大きく振りかざした。しかし、俺の体は恐怖のあまり動かなくなっていた。

殺される!

そう思った瞬間、急に意識がなくなったのだ。



気がつくと俺は、学校の門の外側にもたれて座っていた。

あれは一体何だったんだ?夢なのか?

そんな疑問が頭の中でぐるぐる回っていた。しかし、もう一度あそこに戻る勇気は俺にはなかった。

そして、俺はそのまま家に帰ったのだ。



次の日、昔この学校に通っていた人に話を聞きくことが出来た。

その話によると、昔一人の女の子が酷いイジメにあっていたらしい。

ある日突然、その女の子が池の中に入りナイフで自分の手首を切って自殺したそうだ。

噂では女の子の怨念が未だにあの池に取り付いているらしく、夜になると池が真っ赤に染まるそうだ。

ということは、やはりあれは夢ではなかったのか?しかし、あんな思いは二度と御免だ。

いずれまた、噂を聞き付けた同類が学校に忍び込むかもしれない。

その時何があったかそいつに聞くことにしよう。


―終わり―

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赤い池 にごう @nigo

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