勇者の飼い主
狐付き
序章 念願の異世界に召喚されたぞ
異世界召喚。それは地球のある世界とは異なる次元の世界から地球人をキャトルミュー……ではなく拉致する現象を言う。
空で奇妙な光を放ち、飛行機などでは不可能な動きをする、いわゆるUFOは召喚ゲートであり該当人物を探し彷徨っている。
俺がそれに気付いたのは、こうして捕まり実際に異世界へ連れてこられたからだ。
念願の異世界召喚。
突然窓が明るくなり、外を見てみたら空にUFO……ではなく、空飛ぶ魔法陣。俺はそれに吸い込まれてしまい、気付いたら石畳の床、石の壁や柱に囲まれた場所にいた。
そして周囲には騎士っぽい人や修道服のような服を来た女性たちなどがいる。
「よくいらして下さいました、地球の方!」
その中の一人、他の修道女らしき人とは異なる少し高そうなローブを纏った女神官らしき人が俺に話しかけてきた。
年齢で言えば17、8歳くらいだろうか。幼さを残しつつ、大人っぽさが加わってきている素晴らしい姿をしている。
言葉も普通にわかるし、彼女らが日本語で話しかけていない限りは何か通じるような魔法とかがかかっているんだろう。
「この世界は今、魔物たちによって滅ぼされようとしています……」
物語ではよくある話だ。窮地に陥ったその世界の人間は、特殊な力を与えることができる異世界人に救いを求める。そのために召喚をするんだ。
「てことは、俺、ひょっとして勇者として召喚されたの!?」
少年なら誰もが憧れる、物語の主人公。それはもちろん勇者となって世界を救うものだ。とうとう俺にもその機会が訪れたというわけか。
俺は今までこういうときのために力を溜めていた。決してニートをしていたわけじゃない。チャージタイムというやつだ。
ちなみにもう既にフル充填を過ぎ、劣化しつつあるのだが。
「いいえ、勇者はもう既に必要数の3人おりますので」
「えっ」
勇者の枠は既に埋まっていたらしい。どういうことだ。
「じゃあ俺なんでここにいるの?」
「あの、それがその……」
言いづらそうにしている。何かあったのだろうか。
例えば勇者が危機に陥ったため、勇者を助ける勇者のようなことをやらされたり?
いやいや勇者もう3人いるんだろ。そいつらまとめてピンチな状況を俺一人がどうにかできるとは思えない。
「お願いです! 勇者たちを魔王討伐に導いて下さい!」
「ちょっと意味わからないんだけど……」
いやちょっとどころではない。むしろ全くわからない。
なんなんだその勇者は。レミングスかピクミンの類なのか?
さもなくば軍師的なポジションを俺が担い、勇者を駒のように扱う感じ?
「ええっと、その……。実は、召喚した勇者というのが、とても非協力的というかなんというか……」
「そっちか。つまり勇者を召喚したはいいけど好き勝手やっているせいで何も進まないと」
「はい……」
それは難儀だな。
現在リーダー的な人物がいないのだろう。船頭が多いと船は山を登るらしいし、現在絶賛登山中なんだろう。
「でもなんで俺?」
「伝説によると、ニホンジンという種族は勇者を統率できるとか……」
どこの誰だよそんな伝説作った奴は! そもそも種族じゃないし!
というか日本人? じゃあ勇者って日本人じゃないの?
「聞きたいんだけど、勇者たちはどこの人らか知ってる?」
「それは聞いております。確かブリテス? という国とイタリ? それにユーエッセーとか申してました」
イギリスとイタリア、あとはー……アメリカかな多分。
……そりゃあ統率取れそうもないわ。
異世界召喚で日本人が多く選ばれるのは、良くも悪くも順応性が高いからだ。言い換えればチョロいわけなのだが。
対して西洋人は我を通そうとする人間が多い。突然連れてこられて魔王を倒せとか言われても、ふざけんなコラ訴えんぞ弁護士を呼べとなりそうだ。
つまり異世界召喚は操りやすい日本人が好まれるわけだ。
どうしよう、急に不安がこみあげてきた。
「あのー、そいつらから勇者の権利的なものを剥奪したりできないんですか?」
「それができるのであれば率いていただく必要が無いのですよ……」
女神官さんは申し訳なさそうに答える。だよねぇ。
多分今の所有者が死なないと次へ渡せないみたいな感じなんだろうか。勇者やってみたいけど殺してまではやりたくない。
というか、勇者になったら特別な力が手に入り、そう簡単に死なない可能性が高い。
「ところで何故勇者は3人なんだ? 役割とか違ったりするの?」
「それは勇者のみに与えられる装備が3つだからです」
なるほど。3人より増やすわけにはいかないのか。
「まず魔王を倒す聖剣カソルカを授けたユーエッセーの勇者」
「聖剣ね。そいつがメイン戦力か」
「魔王を滅ぼす魔力を持つ聖冠カバチカを授けたブリテスの勇者」
「後衛かな」
「最後に魔王を消去する能力がある聖本ノウザンを所持するイタリの勇者」
「うーん、立ち位置がわからん」
剣に冠と本か。勇者はそれぞれ特殊なアイテムを持っていると。
「そのアイテムを奪えば俺が勇者になったりとかは?」
「残念ながら、それは叶いません。それにそれぞれの装備が与える力が強すぎ、複数装備したら体の限界を超え、沸騰してしまいます」
なにそれコワすぎ。下手に触らないほうがいいかもしれない。
「じゃあなんで最初から日本人を勇者にしなかったんだ?」
「そ、それは……」
最初から日本人を選んでいればこんな面倒なことにならなかったはずだ。
神官らしき女性が言いづらそうにしていると、横に居た豪華なドレスを纏った、恐らく姫的な少女が口を開いた。
「だって王子様っぽくないじゃないですか!」
「は?」
「髪は黒いし、肌の色はおかしいし、そんな勇者嫌だったんです!」
「おうコラ、ちょっと表出ろ」
このクソガキ、KKKにでも入ってんのか? アジア人なめんな。
「貴様、姫様になんて口のきき方をっ」
あっやべ。つい喧嘩腰になってしまった。
捕まるかと思ったとき、女児の横にいた爺さんが割って入った。
「よいのじゃ」
「ですが……」
「召喚された者とはいえ、他世界の人間じゃ。それとも貴様は他国の姫へ敬意を払うのか?」
「うぐっ」
ああやっぱり姫だったのか。
きっとこいつがワガママを言って面倒なことになったのだろう。
「んで俺が選ばれた理由はなんだよ。日本人だったら誰でもよかっただろうに」
「えっと、極力肌が白くて……」
日光に当たってないからな。
「スラッとしてて……」
栄養足りてないからな。
「私のような年端もいかぬ姫相手でも言うことを聞いてくれる人です!」
「ロリコンで悪かったな!」
「あと重要なのは、突然いなくなってもあちらの世界に大して影響の無い人物です」
「こっ、このぉ……」
このクソガキ、どうしてくれよう。
だが今はまずい。これだけ囲まれている状況で姫に何かしたら流石に殺されるかもしれない。
「そういうわけでニホンジンよ、
姫はそう言ってあさっての方向……恐らくは魔王がいるらしき場所へ指をビシッと指した。
てか従者って……俺が引率するんだろ。立場逆じゃね?
そして大きな勘違いをしているようだ。
「断る」
「なっ……、何故ですか!? 私の頼みですよ!」
「俺、実は子供苦手なんだよね」
「嘘です! 私はちゃんと条件のひとつにちゃんと……」
ああその条件はある意味正しい。しかし重大な欠点もそこにはあるんだ。
「はっはっは、どうやら日本について不勉強だったようだな」
「ど、どういうことです!?」
「確かに俺はロリコンだ。だがそれは二次元限定。いわゆる二次ロリだけだ! リアルだったらやっぱおっぱいとか好きだからな!」
「爺、この者は何を言っているの?」
「はっ、どうやらこの者、絵の少女には欲情するが、実際の人物では胸の大きな女性を好むようでございます」
「なっ……」
姫は真実を知り、絶句して膝をついてしまった。
というかこの爺とやら、なかなかやるな。どこから知識を得たんだ。
「なんてこと……。やっと苦労してニホンジンを召喚することができたのに……」
「まあそうがっかりするなよ」
「う……うるさいうるさいうるさーい!」
「黙れ姫ガキ。それを言っていいのはくぎゅだけだ」
「爺、あの男は何を言っているの?」
「はっ、どうやらその者はクギミヤという女性以外がその台詞を言うことを気に入らない様子で」
「どういうこと?」
「そこまでは私でも流石に……」
世の中には知らなくてもいい知識がいっぱいあるんだよ、姫さん。
てかこの爺、ほんと何者だよマジで。なんでくぎゅを訳せるんだ。
「まあ言いたいことは色々あるんだが、俺じゃあ手に余る案件っぽいんでそろそろ帰らせてもらえないかな」
「それは……ごめんなさい!」
女神官がもの凄い頭を下げてきた。平謝りだ。
「ひょっとして……もう帰れないとか魔王を倒したら帰れる系?」
「あっ、いえ。いつでもお帰りいただくことは可能です」
「じゃあなんで……」
「我々の世界は弱小なので、異世界人召喚権があと4回分しかないのです」
「なんかメタいねそれ」
「クラス転移とかできる規模の大手世界じゃなくて申し訳ありません!」
「だからメタい発言とかやめてくれよ!」
折角の異世界気分が台無しだ。まあ帰りたいんだけどさ。
「でもあと4回あるんだったら俺帰してもなんとかなるんじゃないか?」
「それがその、送るのにも使わないといけないので、勇者を帰らせることを考えると……」
うーん、ようするに俺を帰らせたらもう後が無いわけだ。
正直異世界の危機なんて知ったことではないし、俺が勇者になれるわけでもない。魔王を倒して日本に戻ったところで従者じゃ
『異世界に召喚されたのにwww従者とかwwwwっうぇ』って馬鹿にされる未来しか見えない。
「お願いします、魔王のもとまで勇者を導いてください! なんでもしますから!」
「ん?」
「えっ」
「今」
「……今?」
「なんでもするって……」
「あ、はい」
「よし行こう!」
「えええええっ!?」
こんなかわいい女神官がなんでもしてくれるとなったらやるしかないだろ。
しかも俺は勇者とかそういった類じゃないから戦わなくていいはず。
ならば守りだけしっかりしておけばそれなりに安全だと思われる。
これで勇者にならなくっても
「ほんとになんでもしてくれるんだよね?」
「え!? いや、その、えっと……はい……」
周囲からの視線を感じ、怯えるように返事をした。ちょっとかわいそうかも。
「じゃあ早速勇者パーティーと会わせてくれないかな」
「勇者パーティー……ですか?」
女神官と周囲の人たちは途端に気まずい顔をする。何か問題あったの?
「現在勇者たちは個々で勝手に動き回っているので、編成なされておりません」
「えぇーーー……」
登山どころじゃなかった。
まずは勇者探しからかぁ。面倒だなぁ……。
だけどなんでもしてくれる女神官のためだ。がんばろう。なんでもしてもらおう。
「じゃあ旅の資金と装備はいいものを用意してもらおうかな」
「あっ、はい。それくらいの願いであれば……」
「ちなみにこれはなんでものうちに入らないから」
「えぇー」
呼んでおいたのだから、これくらい用意してもらえるのが当たり前だ。当たり前のことは願いでもなんでもない。
それにしてもどうすればいいんだろう。とりあえず……後で考えよう。
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